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銃乱射事件の被害者の親と加害者の親が顔を突き合わせて徹底的に対話するという胸をえぐられるような映画『対峙』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:13/21
  ストーリー:★★★★☆
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:-(本編でBGMなし)
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

   原題:Mass
  製作年:2021年
  製作国:アメリカ
   配給:トランスフォーマー
 上映時間:111分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:なし

【あらすじ】

アメリカの高校で、生徒による銃乱射事件が勃発。多くの同級生が殺され、犯人の少年も校内で自ら命を絶った。

それから6年、いまだ息子の死を受け入れられないジェイ(ジェイソン・アイザックス)とゲイル(マーサ・プリンプトン)の夫妻は、事件の背景にどういう真実があったのか、何か予兆があったのではないかという思いを募らせていた。夫妻は、セラピストの勧めで、加害者の両親と会って話をする機会を得る。場所は教会の奥の小さな個室、立会人はなし。「お元気ですか?」と、古い知り合い同士のような挨拶をぎこちなく交わす4人。

そして遂に、ゲイルの「息子さんについて何もかも話してください」という言葉を合図に、誰も結末が予測できない対話が幕を開ける──。

【感想】

ものすごい映画を観ました。。。銃乱射事件の被害者の親と加害者の親が、タイトル通り対峙するというかなりぶっ飛んだ設定の映画です。ドキュメンタリーかと思ってたので、「アメリカはそんなこともするのか」と驚いていたんですが、実際は普通にフィクションでした。でも、フィクションであることを感じさせないリアルさがこの映画にはあります。

<胃が痛くなる人間模様>

子供を殺された側と殺した側の両親が対話をする。このシチュエーションを想像しただけで胃がキリキリしませんか。。。自分が被害者の親の立場だったら、絶対に加害者側を末代まで呪うでしょうし、加害者の親の立場だったら、死んでも償い切れない罪の意識に押しつぶされて廃人になってしまうかもしれません。どちらの側に立っても、「早くここから立ち去りたい」と強く思う気がします。

ところが、実際に対面した4人は意外にも冷静です。事件から6年が経過していることもあってか、落ち着き払った様子でしたね。ただ、他愛もない会話をしているんですが、本音を腹の底に隠したぎこちなさがあり、空気探り探りというのはすぐにわかります。そのやり取りに観ているこちらがハラハラするほどでした。

<知りたいのは真実>

被害者側が知りたいのは、「結局、何が原因だったのか」のみです。もちろん、これまでの捜査からある程度の情報は持っています。でも、やっぱり納得できませんよね。だから直接聞きたかったんですよ。日頃から犯人に何か問題行動はなかったのか、事件を起こす前にその兆候があったのではないか。僕も彼らの立場ならそうします。自分たちが納得できるまで、犯人の人となりや情報を知りたいです。

しかし、加害者の親にだって言い分はあります。自分の子供について、小さい頃からの生い立ちをぽつりぽつりと語り始めます。息子は人とのコミュニケーションがうまく取れない時期があったり、ゲームに没頭していたという事実もあります。それらが今回の事件と関係があるんじゃないかと、被害者側は問いただします。でも、そのこと自体が本当に犯行の原因になったかなんてわかりません。もちろん、殺人は決して許されることではないですが、親だって子供を犯罪者にするために育てたわけではありませんよね。親なりに愛情を持って育てたし、親として子供の存在自体は肯定したい。だから、本当になんでああなってしまったのか、結局のところ本人以外に知るすべはないんです。これが、何か私怨があっての行動ならまだ納得ができるのかもしれません。でも、今回は無差別かつ、この殺された子供は、一度犯人が教室から出て、戻ってきてからとどめを刺されているようなんですよ。なんでそこまでしたのか、犯人自身も自殺しているため、もはや真実を知りようがない。だから、少しでも怪しいと思われる要素があれば、それを事件と関連付けたいし、それを防げなかった加害者の親を責めたい気持ちはよくわかります。そうじゃないと、やるせない想いを持っていく場がありませんから。

<ひたすら話して話して話すだけの内容>

そんな正解のない対話をずーっと続けていくのがこの映画です。BGMは一切ないですし、小部屋で2組の両親が話しているだけなので、映像も変わり映えしません。なので、地味なといえば地味な印象ではありません。しかし、この2組の両親の、愛する我が子への想いと、本音をさらけ出して真実に近づこうとする様子には魂を揺さぶられました。この4人のメインキャストの演技が凄まじくてですね、それだけでこの映画は観る価値あるんじゃないかと思います。

<そんなわけで>

ある意味、今年一番の人間ドラマだったと思いました。被害者の親も加害者の親も、腹の底からぶちまけたい感情があるにも関わらず、それをやったところで失ったものが戻ってくるわけではないやるせなさに心が痛みます。自分が彼らの立場だったらどう振る舞うか、深く考えさせられる映画でした。子を持つ立場の人なら、きっといろいろ思うこともあるでしょうが、ぜひこの人間の魂と魂のぶつかり合いをその目に焼きつけてほしいです。本当に、ただの会話だけでここまで衝撃を受けるとは思いませんでした。


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