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映画を観ているよりも読書をしているような感覚になる『ドライブ・マイ・カー』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:81/172
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
ロードムービー
死別
舞台
演劇
芝居

【あらすじ】

舞台俳優であり演出家の家福(西島秀俊)は、愛する妻の音(霧島れいか)と満ち足りた日々を送っていた。しかし、音は秘密を残して突然この世からいなくなってしまう――。

2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去をもつ寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と出会う。さらに、かつて音から紹介された俳優・高槻(岡田将生)の姿をオーディションで見つけるが…。

喪失感と“打ち明けられることのなかった秘密”に苛まれてきた家福。みさきと過ごし、お互いの過去を明かす中で、家福はそれまで目を背けてきたあることに気づかされていく。

人を愛する痛みと尊さ、信じることの難しさと強さ、生きることの苦しさと美しさ。最愛の妻を失った男が葛藤の果てに辿りつく先とは――。

【感想】

第74回カンヌ国際映画祭において、日本人初の脚本賞を含む4つの賞を受賞した話題作ですね。僕は原作の小説は読んでいませんが、人物描写と風景の美しさが映える映画だと感じました。

<これは映画なのか、それとも小説なのか>

作品の空気感が素晴らしい映画ではあるんですけど、僕のように普段まったく読書をしない人には向かない映画かもしれません(笑)そう思うぐらいには、映画を観ているよりも本を読んでいる感覚が強いんですよ。一番特徴的だと感じるのはセリフが長いことですかね。全部がそうではないんですが、けっこう長めのやり取りが多い印象でした。そのためか、映画全体の尺も3時間と邦画にしては長いです。

<主人公の置かれた状況への好奇心が楽しみのモチベーション>

その長さで淡々と進んで行くため、途中飽きちゃいそうな感じもするんですが、不思議とそうはならず、見入ってしまう魅力がありました。それは、家福と妻の音、そして高槻の関係性ゆえです。音は夫を愛しながらも、複数の男と性的関係を結んでいます。高槻もそのひとり。家福は音と高槻が自宅で行為に及んでいるところを発見するも、そのことを咎めません。だから、気になって気になって仕方なかったんですよ。「いつ言うのか」、「なぜこうも冷静でいられるのか」って。そこへの好奇心が、アクションも何もない3時間という長丁場を簡単に乗り越えさせてくれました。

<家福の妙な冷静さ>

妻の不倫現場を目の当たりにしたら、多くの人が怒り狂いますよね。その場で怒鳴り込むかもしれませんし、こっそりスマホで撮って後でゆすりの材料にするかもしれません。

でも、家福はそうしませんでした。静かに家を出ました。彼は妻を失うことを何よりも恐れていたんですよそのことを言って、今までの関係じゃいられなくなることを望まなかったんです。

でも、妻は夫のことを愛してはいたんですよ。それも家福はわかっていたんでしょうね。だから、その揺るぎない愛情を信じたんだと思います。体は売っても魂は売っていないと思い込みたかったのかもしれません。なんか、パワーバランス的に家福の方が下な気がしてなりませんが(笑)

でも、愛せますか?呼吸するように愛を囁き、呼吸するように相手を裏切る、そんな妻を。自分も同じ価値観を持っているか、相手に興味がないか、
ただの変態でもない限り、難しそうですけど。

<車中のクライマックスシーンが一番心が痛む>

この映画、セリフは長いんですが、そこが見どころでもあって。特に、後半の車中での家福と高槻のシーンは一番辛かったですね。。。家福の知らない秘密を、高槻が知っていたというシーン。なんでセフレのお前が知ってるんだって。それを知ってるってことはさー、、、ね。その情景を想像するだけで、胸が痛かったです。。。

<自分とも他人とも向き合うことの大切さ>

そんな逆境の中にいた家福。でも、ドライバーのみさきとお互いの過去を話すことで気づくんですよ。もっと妻と、そして自分と向き合えばよかったって。他人は他人である以上、どんなに愛していても完全には理解はできません。けれど、少しでもわかるためには、自分と向き合うことも必要なんですよね。自分が何が好きで何が嫌いかをわかっていないと、それを通じて他人のことをわかるための基準もないかなって思いますし。これを観た人がそれぞれどう思うか、気になります。

<その他>

ちなみにこの映画、タイトル的にロードムービーがメインかと思うじゃないですか。実は、主人公の家福が演出家ということもあり、舞台での芝居がメインなんですよ。つまり、劇中劇で、演目はチェーホフの『ワーニャ伯父さん』。キャストもいろんなアジアの国の人で構成されているので使われる言語もバラバラです。他の国の言葉は基本的に字幕。その練習風景を観ているのも、斬新で面白かったです。

正直、個人的には、映画祭で賞を獲るような映画ってそこまで好みじゃないんですよ。文学的、詩的で、エンタメ性が薄いから(笑)でも、やはり賞を獲るだけあって、美しい描写や濃密なキャラクター性はあります。そういうのが好きな人なら、より楽しめるんじゃないかと思います。


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