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生き延びるため、愛する人に再会するため、同胞を手にかけ続けた男の苦悩に言葉を失った『アウシュヴィッツの生還者』

【個人的な満足度】

2023年日本公開映画で面白かった順位:56/121
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:The Survivor
  製作年:2021年
  製作国:カナダ・ハンガリー・アメリカ合作
   配給:キノフィルムズ
 上映時間:129分
 ジャンル:ヒューマンドラマ、伝記
元ネタなど:アウシュヴィッツ強制収容所から生還したハリー・ハフトの半生

【あらすじ】

1949年、ナチスの収容所から生還したハリー(ベン・フォスター)は、アメリカに渡りボクサーとして活躍する一方で、生き別れになった恋人レア(ダル・ズーゾフスキー)を探していた。レアに自分の生存を知らせようと、記者の取材を受けたハリーは、「自分が生き延びた理由は、ナチスが主催する賭けボクシングで、同胞のユダヤ人と闘って勝ち続けたからだ」と告白し、一躍時の人となる。だが、レアは見つからず、彼女の死を確信したハリーは引退する。

それから14年、ハリーは別の女性と新たな人生を歩んでいたが、彼女にすら打ち明けられないさらなる秘密に心をかき乱されていた。そんな中、レアが生きているという報せが届く──。

【感想】

アウシュヴィッツにまつわる映画は数あれど、この映画はホロコーストから生き延びた(逃げ延びた)人の話です。自ら犯した愚行に苦悩し続ける主人公の姿がよく描かれていて、しかもこれが実話ということが何よりも衝撃的でした。監督が『レインマン』(1988)のバリー・レヴィンソンというのも推せるポイントです。

<改めて知るアウシュヴィッツの惨さ>

この映画で一番印象に残るのは、やっぱり主人公の置かれた立場だと思いました。正確な人数には諸説ありますが、アウシュヴィッツって100万人以上が収容されて、最後まで生き残れた人は10万人いるとかいないとか。中でも逃亡に成功したのは200人にも満たないそうで。それだけ生き抜くのが難しい場所なんですよね。

その生き抜いた人たちの中に、本作の主人公ハリーがいます。彼、他のユダヤ人とはちょっと違った扱いだったんですよ。親友を守るためにハリーがナチス親衛隊のひとりをタコ殴りにする姿を見た中尉のシュナイダー(ビリー・マグヌッセン)は、彼をあることに利用します。それが、賭けボクシング。親衛隊はそれぞれユダヤ人を持ち寄って戦わせ、負けたらその場で銃殺するというおぞましい娯楽に興じていました。ハリーが生き延びるためには、とにかく勝ち続けるしかありません。幸か不幸か、彼は強かったのでシュナイダー中尉も賭けに勝ち続けることができ、ハリーは目をかけてもらえました。そのおかげで兄を救うこともできましたし、劇中では描かれていませんが、おそらく一般的なユダヤ人よりはまだマシな生活でもできたんでしょう。

でも、いくら自分が生き延びるためとはいえ、何の罪もない同胞の命を奪ってきたことに変わりはありません。結局、ハリーは隙を見て逃亡し、運よくそのまま生き長らえることができましたが、自分の行いを悔いない日はなく、後になってこのときの状況がフラッシュバックで甦るほどに。それだけ、アウシュヴィッツでの出来事は悲惨だったということがわかります。

<生き抜けたのは愛があったから>

さらに、ハリーにはもうひとつ悩みの種がありました。それが、生き別れになった恋人レアの存在です。お互いに無事を知る術はなく、長年安否もわからないまま。それでも、ハリーはレアの行方を必死になって探すんですが、これがうんともすんともいかずで、いつまで経っても彼女の所在すらつかめないんですよ。最終的に、彼は途中でレアのことをあきらめ、レア探しに協力してくれていたミリアム(ヴィッキー・クリープス)と結婚し、3人の子供を授かります。ミリアムもまた、婚約者を戦争で失くしており、まさにお互いに心の空白を埋め合うようにいっしょになったんですよね。ここは変に略奪愛とかそういうのではなく、この激動の時代に安心できるパートナーがいたということで、この2人がいっしょになるのはごく自然の流れでした。

ところが、物語の終盤で急展開が起こります。あれだけ探しても見つからなかったレアが実は生きているという報せが入るんですよ。ハリーにはすでに家族がいますし、何よりもずっと死んでいたと思っていた人ですからね、果たして会うのか会わないのか、とても気になるところでしたが、、、いやー、もう涙なしには観れなかったですよ。。。ネタバレになるから詳細は割愛しますが、戦争さえなければハリーとレアは、、、と思うと、、、もう、、、ね。。。何度も死を覚悟した中で生き抜けたのは、お互いが愛を信じていたからだなって思いました。また、そこから繋がるラストのハリー一家のビーチのシーンもよかったです。セリフはないけれど、長年抱えていたモヤモヤがようやく晴れた感じがあってすごくスッキリしました。

<そんなわけで>

過去の回想と現代を行き来しながら淡々と進む映画ではありましたが、アウシュヴィッツから生還した主人公の苦悩と救済が描かれたヒューマンドラマでオススメしたいです。重いテーマですが、ラストで救われるから読後感もよかったです。


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