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『負の連鎖の中で生きる 世界の言語的マイノリティ 言語と貧困』紹介

さいきん、新書を中心に言語学関連の書籍が立て続けに出て、注目を浴びているので、「私も読んだ本の中で言語学分野相当のものを紹介していきたい」と思い、シリーズで不定期に投稿することにしました。

……という前置きにしては、初回なのにがっちり専門書な本を紹介してしまって恐縮です。さっき読み終わったので……。

版元ドットコムより画像転載


『負の連鎖の中で生きる 世界の言語的マイノリティ 言語と貧困』
松原 好次 編著
山本 忠行 編著
(明石書店)

言語学ってそもそも「語学」と混同されやすいし、日本人はすぐ「英語を勉強しろ」だの「いや、今は中国語を学ぶべきだ」だのと盛んなので、日本語以外の言語を勉強した方がいいんだな、となんとなく社会の風潮で思われがち。けれど、それってどうなんだろう? と思っていたので、この本の目次を見て、衝撃を受ける。

「地域語話者は貧困脱出のために母語を捨てざるを得ないのか」
「西欧語はアフリカを貧困から救えるのか」

今の日本は、国民総貧困化へまっしぐら。日本人が英語を学習するときに「貧困からの脱出」が念頭にある場合がほとんどだ。アフリカで起きていることが、果たして「他人事」としていられるだろうか?

私は「否」と思わずにいられなくなった。日本を含めた世界各地の「言語と貧困」に対しての研究結果が掲載されており、視点・論点が変わりつつも、どれも完全に「他人事」と割り切るのは難しい。

「日本語より英語を優先すべき」という論調の方が一定数いるけれども、そもそも母語とアイデンティティは直結する、という問題がある。
(もちろん、これは先祖の母語がアイヌ語や琉球諸語である場合、そちらに対しての言語習得も、アイデンティティにかかわってくる)
英語と日本語を中途半端に勉強したために、どちらの言語能力も成長しないまま、高等教育(大学など)を受けるのが難しい状態になる子どももいる。


言語と社会(そして貧困)が密接に絡んでいることを多くのひとが理解すべきであり、その理解を助ける一冊となっています。

言語学は「人文科学」と分類されることが多いですが、「社会言語学」は文字通り「社会科学」に分類されるので、言語学そのもののイメージを脱却する意味でも、良き本だと思います。




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