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大阪·大空小学校初代校長 木村泰子さんの講演から

聖教新聞2021年12月28日付記事から。木村さんの記事は2回目。今回は関西創価中学校で行われた講演の要旨からすこし省略した形でご紹介する。

木村さんが初代校長を務めた大阪市立大空小学校は「すべての子どもの学習権を保証する学校をつくる」との理念を掲げて、2006年に開校した。
木村さんが校長を務めた9年間、不登校はゼロ。
「人を大切にする心」「自分の考えを持つ力」「自分を表現する力」「チャレンジする力」
この四つの"見えない学力"を高め合う中で、子どもたちは安心して学び、結果的に"見える学力"も上がっていくという。
こうした大空小学校での経験を踏まえ、木村さんは「多様性」「共生」「想定外」の3つのキーワードを通して関西創価中学校の生徒たちに語り掛けた。

《多様性を知る》
〈木村〉「今日は是非、皆さんに聞きたいことがあります。あなたが関西創価中学校で学ぶ目的はなんですか?」
生徒たちは次々に意見を語り合っていく。「親の期待に応えるため」「賢くなるため」「未来のため」「創立者の心を学ぶため」「友達と仲良く過ごすため」「人を思いやる心を学ぶため」……。
〈木村〉「みんな!すごいですね。誰一人として、同じ言葉はありませんでしたよね?全員が『自分の言葉』で語っていて素晴らしいと思いました。
これが多様性です。互いの違いに気付き、尊重し合い、全ての人が自分らしく生きられることが、これからの時代では大切です。
学校は『自分をつくる』ために学ぶところです。いろんな人がいるから、自分が磨かれていくのです。
もし、教室で大声をあげてしまう子かいたときに、『うるさいな、あっち行けよ』と排除してしまえば、何も成長はありません。でも"騒がしくても集中できるようになろう"と思えば自分をつくることになります。
そして自分と違った意見を聞けば新たな気付きや学びになります。どんな人とも相手の立場に立ったコミュニケーションを取るには、『自分の考えを持つ力』『自分を表現する力』を鍛えることが必要です。
これからも自分の考えを『自分の言葉』でどんどん語って下さいね!」

《共に生きるとは》 
関西中の生徒は講演会に向け、大空小のドキュメンタリー映画「みんなの学校」を事前に視聴した。木村さんはその映画で登場したセイシロウくん(=セイちゃん)とのエピソードを紹介して共に生きるとは何かについて語った。
〈木村〉「大空小に転校してくる前、セイちゃんは1年から3年まで特別支援教室で学んでいました。周りとなじめずに、ひとりぼっちになり、学校に全く行けなくなりました。
ここにいる皆さんの周りにも、学校に行きづらいと感じている友達がいるかもしれません。大人はその子を指して『不登校』だと言い、『何か嫌なことがあるの?』と尋ねます。まるで学校に行けない子自身に原因があるかのように。でもそれって、とても失礼なことだと思いませんか?
学校に行きたい気持ちは誰にでもある。でも、安心して過ごせる居場所がないんです。人は皆違います。ここの空気を安心して吸える子もいれば、そうじゃない子もいる。もし、自分がその子だったら?--そう考えてみてください。
どうすれば、その子が安心して吸える空気をつくれるかなと、周囲の人がいつも考えたら学校は変わります。『周りが変わる』ことが大事なんです。
セイちゃんが4年で、大空小に転校してきた頃は、『学校をぶっ壊してやる』と、よく叫んでいました。授業中も立ち上がって学べない。友達ともすぐケンカしてしまう。
問題が起こるたびに、皆で何度も"やり直し"をし、4年生の秋頃には。セイちゃんも安心して学校に通えるようになったんです。
そんなセイちゃんは、高校時代に大空小での経験をもとに、教育シンポジウムで次のように語ってくれました。
『自分には発達障がいがありますが、病気ではありません。障がいは、その人の個性です。その個性を今の世の中の人はつぶしています。人それぞれの個性を尊重し合えば差別はなくなります。大空はぼくの当たり前を受け入れてくれました。ぼくも自分の隣にいる人を尊重しなければならないことを学んだのです。』
『共生』とは、『誰も排除しない柔軟な対応力』を身に付けることです。その中で誰もが個性を輝かせていくことができるのです。

《想定外こそチャンス》
〈木村〉「コロナがもたらした問題は、想定外の出来事ばかりでした。これからを生きる皆さんには、この想定外の出来事から学ぶ力を持ってほしいと思うんです。
コロナ禍で、差別や貧困などさまざまな社会問題が浮き彫りになり、大人たちが真剣に議論して、悩んでいる現実を皆さんは目の当たりにしています。10代で世界の課題を『感じて』『知る』ことができました。これはすごいことなんです。
想定外の場面を生き抜くには『自分の考えで判断して行動する力』が大切です。学校の先生に言われるがままに動いても、学びは得られません。うまくいかなかった時には誰かのせいにして終わりです。
でも、自分で考えて行動すれば、失敗しても全てが学びはになります。想定外の出来事に直面した時、自分でチャレンジして何かを学んでいく。そうした力を磨いていけば、どんな環境でも自分らしく輝いて生きていけます。
私は見えないところで、みんなのことをずっと
応援し続けていきます!」

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木村泰子さんの言葉は力強い。子どもたちと一緒に学び合い、成長してきたからこそその言葉は響く。
また高校生になったセイシロウくんの言葉は突き刺さる。そう、発達障がいは病気ではない。
世の中が押し付ける基準をはみ出しただけなのだ。それを病気ということ自体がどうかしている。彼にとってはその状態が至って普通なのだから。
多様性を当たり前のように受け入れ、同じ空間を共にする皆が安心した環境こそが学びやとして相応しい。
学びは本来楽しいものだ。どうか当たり前のように誰もが学びを楽しめる世の中になって欲しい。

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