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えーかっこしいで負けずギライで考えすぎで融通がきかないコの暮らし「リトル・フォレスト」

濃厚で少し渋みのある酸味の強いグミのジャム

母直伝の手作りのオリジナル醬油ベースの「ウスターソース」

友達とケンカした次の日に食べる、スパイスたっぷり本格インド風チキンカレー

子供の頃に分校の餅つき大会で出会った、つきたてのもちで食べた納豆もち

長雨の時期に湿気対策に点けたストーブでつくる大きめのバケット

しっかり糖が染み込んで、牛皮みたいな食感の栗の渋皮煮


「リトルフォレスト」(著:五十嵐大介)に出てくる食材、料理はどれもシンプルだけどよだれが出そうになるくらい美味しそうだ。

東北地方のとある村の中の小さな集落「小森」で暮らすいち子のお話。
おそらく20代。
母はいち子が学生の頃にある日突然、「ばっけみそ」を残しいなくなる。
「ばっけみそ」はふきのとう(ばっけ)で作ったご飯の友(即席みそ汁にしてもよし)
ずっと田舎暮らしをしてきた風だが、実は時々回想で出てくるのみだが、いち子は高校卒業後は小森を出てどこかの街のスーパーに就職?している。

その頃の思い出話の中で「水道代と下水道代の請求が来てあせった」と話し、幼馴染のキッコは「小森じゃそんなの自己管理だもんね」という。

小森の暮らしは基本自給自足。

野菜類はもちろん、自分の田んぼで作った米を食べ
小麦は風土柄作りずらいので、地粉を買ってパンを作っている。

春には田植えの傍ら、山に山菜を取りに行き
夏には雨の心配をしながら、路地栽培のトマトを育てる
秋には動物と競うようにくるみ拾いをして
冬に備えて薪の準備、チェンソーの手入れも怠らない

冬が終わってまずすることは、次の冬の食料を作る事。
田舎暮らしはその繰り返し。

もちろんそれだけではなくて、山で街で仕事をして、子育てをして、家事をして、毎日毎日豆で働き者の小森の人たち

いち子は自分が「かばねやみ」(怠け者)だからというが、こちらからしたら十分働き者だ。


ストレスは甘いもので解消する
と言ってももちろんコンビニスイーツではなくもちろん手作り
しかも、小豆を育てるところから。
一年中楽しむために欠かせない作物の一つ。

ホコホコに焼けた焼き芋もシンプルに美味しそう

ジメジメ暑い日に草刈りした後の、甘酒で作った米サワーもゴクゴク一気に
飲み干してみたい

結局田舎暮らしに憧れるというより、出てくる食べ物に「憧れてる」のか?

「小森」はなんだか私の暮らす場所にも似ている。
近くにお店が無い事も、
行きは坂道を下って30分くらいかかるところに、小さな商店がある事も
出てくる虫や動物や、鳥の種類まで似通っている。

そんな田舎に暮らしながらも、私は全く農作業ができないし、そもそもするきもない。こんなこと言うと怒られそうだが(だれに?)

だけど、時に悩みながらも、たくましく自給自足するいち子の生活はやっぱりなんだか見ていて「憧れ」てしまう。

いち子は、幼馴染で一番の理解者ともいえるキッコが言うには、

「えーかっこしいで負けずギライで考えすぎで融通がきかないコ」

一度は田舎を離れるも、街から「逃げるように」戻ってきて、でもそんな理由でこのまま田舎で暮らすのも、何か違うともう一度離れ、そして・・・

現実には、若い女子が一人でこんなにたくましく田舎で暮らすのは難しそうだし、そもそもそんな女子いる?なのだが、これはあくまでフィクションなのだ。
だけど、描かれる田舎暮らしの描写は事細かくて、とっても現実的。
不思議な感覚だ。

作者の五十嵐氏が実際に自給自足に近い田舎暮らしを何年かして、その実体験をもとにして作られた作品だそうだ。なるほど納得。

これは映画化もされていて、映画もやっぱりなんだか「よい」のだ。


この作品には、たくさんの心に残る言葉が出てくる。

回想にしか出て来ない、いち子の失踪した母から届いた手紙の言葉が、
なんだかしっくりきてしまう。

なにかにつまずいて、それまでの自分を振り返ってみるたび
わたしっていつも同じようなところでつまずいてるなって・・・
いっしょうけんめい歩いてきたつもりなのに
同じ場所をぐるぐる円を描いて戻ってきただけな気がして落ち込んで

でも
一方方向から見たら同じ所に見えても
きっと少しずつ上がっているか下がっているかしているはず
じゃあ、円じゃなくて「らせん」なんだ

人間はらせんそのものかもしれない
同じ場所でぐるぐる回りながら、それでも何かある度に
上にも下にも横にだって伸びていく

そう考えたらね
わたしもうすこしがんばれるって思った    

リトル・フォレスト2巻「31st dish パン・ア・ラ・ポム・ド・テール」より


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