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【読書録90】致知2023年7月号 「学を為す故に書を読む」感想

 今回の特集は、「学を為す、故に書を読む」。
一読して、その意味するところを理解するのは、難しいが、読書をすることの意義などを考える素晴らしい記事が多く、自分の考えを深めるのに良い機会となった。

総リード「学を為す、故に書を読む」


この言葉は、佐藤一斎のものである。ここで言う、「学」とは何か?

学と言えば学校の勉強が思い浮かぶがそうではない。ここでいう学は人間学のことである。自分を創ることである。人が学ぶのは自分を創るためであり、本を読むことがそのまま自分を創ることにはならない。

読書とは、人間形成のためである。本を読めば、人間ができるわけではない。

 そして、「言志四録」のことを取り上げる。
本号を読みながら、現在語訳ではあるが、以下の本で、言志四録を、読んでみた。

 西郷隆盛が、語録集から特に心に響いた百一箇条を選び出し、手抄本を作って座右に置いていたと言うだけあって、心を奮い立たせる言葉が多い
 
 佐藤一斎の言葉については、改めて後程取り上げたい。

 総リードは、森信三氏の言葉で終える。

「真の学問というものは、単に頭に覚えるだけではなくて、心にこれを思って忘れず、常にこれを行うことであります。否ひとりそれのみに留まらず、常にこれを行うことによってついには生まれつきの生地や性根までも、これを根こそぎ改変するようなところまでゆくようでなければ、真に学問したとはいえないでありましょう」

 何のために、本を読むのか?

 本号を通じてのテーマである。
4月から異動で仕事が変わり、自分のあり方を考えることが多くなった。それとともに、読書で得られているなと感じることも多くなった。

佐藤一斎に学ぶ人間学

 
 本号を読んで一番の収穫は、佐藤一斎のことを知ることができたこと、また言志四録のことを知ることができたことである。

 岐阜県恵那市「佐藤一斎 言志四録 普及特命大使」を務める窪田哲夫氏と上寺康司氏の対談記事を読み、そんな思いを強くした。

 司馬遼太郎の本を読み、佐藤一斎が、多くの幕末の志士に影響を与えていることは知っていたが、その思想については、正直言ってあまり知らなかった。

 一斎が四録を書いたときの年齢やその位置づけなどを上西氏はこう捉える。

「言志録」 (42~52歳) 自省の時代
「言志後録」(57~66歳) 鍛の時代
「言志晩録」(67~78歳)錬の時代
「言志耋録」(80~82歳)磨の時代

 50歳目前の私にとって、まだまだ人生の入口で、これから修養を積み重ねないといけないという心境になる。

 今後の生き方の道標、まさに、暗夜の一燈になる。

 自省の時代の、「言志録」では、自戒的な言葉が多いという。
 その例として、第3条を挙げる、

「凡そ事を作すには、須らく天に事うるの心有るを要すべし。人に示すの念有るを要せず」(すべて事業をするには天に仕える心を持つことが大切だ、人に示す気持ちがあってはいけない)

そして、「言志後録」の時代を一斎にとって夜明け前、真の意味で自分自身を鍛え直そうとした時期として、その例として、以下を挙げる。

1条 「この学は、我らが一生背負ってゆかねばならぬ重荷である。本当に斃れ死ぬまで努力しなくてはいけない」

217条「人は年をとってくると、体は何をするにもおっくうになり、気ばかりせわしなくなる。自分はこれを見て鏡となし、六十歳を越してからは一段と修養に心掛け、気分の落ち着きを失わないようにしている。」

  60代で自分を鍛え直した、一斎の心意気は、人生100年時代の今だからこそ持っていたいものである。

 そして、70代の「言志晩録」の時代を、粗削りな心を練り上げていく姿とし、80代を「磨の時代」とする。
 
 「言志耋録」は、80~82歳の3年間で書き上げて、分量は、340条とそれまでの3冊よりも 多いという。
  まさに「壮にして学べば老にして衰えず。老にして則ち死して朽ちず」である。

「年齢を重ねるごとに心境が深まっていく。」と上西氏は言うが、そんな生き方をしたいものである。

 お二人の対談には、名言が多いが、特に気に入った言葉を最後に挙げたい。

 一斎の言う学びとは、厳しい環境に身を置いて自らを鍛え練り磨き、人間的成長を図る営みであり、机上の学問だけのことではありません。

 毎日の仕事が皆自らを鍛え練り磨き人間的成長を図る学問である。

  この言葉、本当に今の自分には有り難い。

 今の出来事、周りの環境が自分の人間的成長を図る営みと捉えれば、感謝の念が生じてくるものである。

 人生を豊かにする一生モノの読書術

 
 京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏の読書術。

 火山学者の鎌田先生であるが、かなり学者としては異端である。
以前読んだ以下の本がとても役に立つとともに面白かった。

 その理由が彼の読書遍歴からもわかる。彼の生き方は、彼が読んできた多くの歴史や哲学書も大きな構成要素になっているのかなと思った。

 そんな鎌田先生は、読書の魅力をこう言う。

自分の人生を「プロデュース」するために一番良い方法だということです。
知識や教養を得て、自分の人生哲学、生き方を考える上で読書は欠かすことができません。

「学び」「考える」、この二つを共にできるのは、読書の最大の魅力だと思うのです。
 
読書の真価とは、挫折を経験し苦境に立たされたときに実感できるものです。

 単に、「読む」だけでは駄目で、実践、行動に結びついてこその読書である。
 それこそ、「学を為す、故に書を読む」であろう。

そのことを鎌田先生は、こう表現する。

現場と読書が一致して初めて人は変わる、それが私の実感です。教養を得ることも大事ですが、いま目の前の課題を解決するヒントを掴むこと。そこには人と本との出逢いも関わってきます。普段からたくさんの本を読んだり、いろいろな人と出逢っていると、必要とした時に様々な教えを得られます。
 

 そもそも私は、このnoteを読書のアウトプットのために書いているが、アウトプットの効用についてこう言っていただいている。

読書で大事なのはインプットしたら必ずアウトプットすること。読書感想文でも書評でも、とにかく自分の言葉で書くことが重要です。

 読書を通じて、自分の心の中に「知的空間」を持つことが人生を豊かにすると言う。
 そうありたいものである。

 鎌田先生の魅力は、その専門的バックグラウンドに、読書遍歴が掛け合わさった所にあるのかなと思わされた。
 

人生に活かす読書➀「向かい風の時には自分に深みをつけよ」 

紀文食品社長 堤裕へのインタビュー記事。タイトルがとても良い。大きな挫折経験として、沖縄の合弁会社への出向経験を上げる。またその挫折経験を経て、仕事や人生の知恵を求めて真剣に本を読むようになったという。

堤社長が、挫折経験から学んだこととして、以下の2点を挙げるが、非常に身につまされる。

➀人生には、波があって、常に同じ調子で突き進むことはできない
➁自分の役割についての自覚が足りなかった

その体験を通じて、「自分の置かれた場でできることは何か、これから何を大事にして仕事をしていけばよいのかを常に考えるようになり、その答えを本に求めるようになった」という。

仕事で挫折を味わい、内省の時を与えていただいたから今がある。そう思うと挫折にも感謝ですね。抗して振り返って思うことは、向かい風の時には、自分に深みをつけることが大事だということです。

 自分を振り返る時間、とても大事だと思う。そのお供が、本である。中国古典や言志四録はとてもよい伴走者である。そういう時間をいかに多く持てるかである。
 
 私も挫折した訳ではないが、今が一番の悩み時、伸び時である。 
致知を読んで、感じることも多くなったような気がする。

自分に深みをつけるチャンスなのかなと思う。

 「言志四録」から考えると、まだまだ人生これから。深みをつけていきたいものである。



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