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ヴィーガニズムに興味のなかった私が食育のために「真実」を調べてみた話

はじめに

年号が令和に変わって早いものでもう5年、世相の変化は多いがその中で最近ふと思ったのである。ここ数年で代替肉やヴィーガンメニューを取り扱う外食チェーン増えてるなと。
そこで、いずれ子どもの食育なんかを考えるためにも最新の食文化に対する意識や価値観を更新しておこうと思い立ち、ヴィーガニズムについて1から調べてみたわけである。
より中立的な視点で以降の文章を読んでもらうために私のプロフィールをある程度書いておこうと思う。

男性、32歳、既婚
首都圏在住の食には無関係な会社員
雑食主義者で好き嫌いは少ない方、菜食主義とは無縁で生きてきた
ヴィーガンへの認識は、個人の自由だと思う一方で過激な活動家のニュースや反対派の揶揄するような書き込みには若干の不快感を感じていた程度

なお、この記事はヴィーガンって何?をダラダラとひたすら長~く、地味~に書き綴ったものである。ヴィーガン活動家による「皆さんが知るべき畜産の真実!!」とかアンチヴィーガン派の「ヴィーガンの主張を秒で論破www」みたいなものを期待していたらそっとブラウザを閉じてほしい。


ヴィーガニズムの定義

ヴィーガンを調べるにあたり、まず初めに知るべきは「ヴィーガニズム」とは何なのかである。イギリスのヴィーガン協会(The Vegan Society)によればヴィーガニズムの定義は以下の通りだ。

ヴィーガニズムとは、可能かつ実践可能な限り、食用、衣料用、その他のあらゆる目的のために動物を搾取したり、動物に残酷な扱いをすることを排除しようとする哲学であり、生き方である。

英ヴィーガン協会 ヴィーガンの定義

私は根本的に勘違いをしていたのだが、ヴィーガンは食に関する主義ではなく、動物愛護を背景とした「哲学」であり「生き方」なのだ。まずは、この認識を改める必要があった。その上でヴィーガン協会が主張するヴィーガンを推進する理由は

  1. 動物に対する搾取の防止

  2. 環境問題への解決策

  3. 個人の健康の増進

の3つが大きな柱である。それぞれを詳しくみてみよう。

1.動物に対する搾取の防止

ヴィーガンの定義にも直接関係する最もメインとなる主張だ。
FAOのデータによれば現在、地球上には17億頭の牛、10億頭の豚が家畜として飼育されていると言われており、家禽の鶏に至っては330億羽が地球上に存在しているそうだ。
これらを飼育する畜産業の現場では工場畜産とも呼ばれる集約畜産によって狭い場所に大量の家畜が高密度で飼育されていたり、屠殺によって自然寿命の4分の1以下でその生涯を終える、生まれたばかりの子を親から引き離すなど、人間の道徳的感性から言って倫理に反する飼育方法を行っているとしている。

また、NPO法人アニマルライツセンターのHPによると屠殺の現場では電気ショックによる気絶処理の失敗で牛では数%~十数%、豚では十数%~二十数%を超える動物達が意識をもったまま屠殺されるとして映像や写真を公開している。

以上のような非倫理的な業界に異を唱えるべく、その生産品である肉、卵、乳製品は口にしないというのが主旨だ。

そのほか、医薬品や化粧品の開発における動物実験や、獣毛を原料とする衣料品、動物園や水族館など動物を人間の文化圏で飼育・利用することにより成り立つ業種なども「動物からの搾取」であるとして否定的だが、この辺については畜産業の問題が大量の生命に関わる喫緊の課題として取り沙汰されるため、主張の中で大きく扱われることは少ないようだ。

2.環境問題の解決策

2019年時点で、世界全体の農地面積は1,244 Mhaだとされるが、そのおよそ8割が牧草地と家畜飼料を生産しており、世界の穀物生産量の半分は家畜飼料として消費されるという。
これらの穀物を家畜のエサではなく人類の食糧にすれば70億人の全人類の食料をまかなうことができる、という見立てだ。

グリーンピースの記事によれば1kgの牛肉を作るために15,000リットルの水と25kgの穀物が必要だとしているほか、牛のゲップによって排出されるメタンガス、飼料等の運搬で排出される二酸化炭素、家畜の排泄物によって発生する亜酸化窒素など、家畜由来で排出される温室効果ガスの総量は運輸業と同等の14%を占めているそうだ。
その他にも畜産で発生する排泄物等による河川や地下水の汚染や抗生物質の使用による耐性菌の発生など様々な面で畜産業の環境負荷の高さが問題になる、という主張だ。

この辺の主張について詳しく取り上げているドキュメンタリー映画がネットフリックスにあった。多少誘導的なのは否めないが私の文章よりも詳しく、テンポがよく、面白いので興味があれば以下のリンクから視聴してみるのも良いと思います。
(※生きた鴨を〆る映像があることだけ注意)
[Netflix]Cowspiracy:サステナビリティの秘密

3.個人の健康の増進

動物性食品を避けることで飽和脂肪酸の摂取がなくなり、コレステロール値や心臓病の発生率が低く死亡率も低いと言われている。
また、ヴィーガン食で不足するといわれるタンパク質についてもナッツや豆類を多めに食べることで十分な量を摂取することができるとしており、カナダでは2019年に更新された食事ガイドで政府が植物性タンパク質の摂取を強く推奨している。その他、不足するビタミン類についてもサプリメント等で補うことができるそうだ。

加えて、2015年にWHOの研究機関であるIARCがソーセージやハムなどの加工肉をアルコールや煙草と同じグループ1(人に対して発がん性がある)に、赤肉を65℃を超える熱い飲料と同じグループ2A(人に対しておそらく発がん性がある)に分類したことを受け、これらを避けることでがんのリスクを減らせるとしている。

さらに、個人の主観ではあるが、動物性食品を食べなくなってから体調が改善され健康になったと主張するヴィーガンは多い。
以上からヴィーガンであることは人体に健康をもたらす、という主張だ。

ただし、人体に必要な栄養素が十分に摂取できるという内容については明確な発表や調査などの情報は前述の2つの主張に比べて極端に少なく、ブログやYouTubeといった個人の経験談を根拠とするものが非常に多い。

※発がん性についてはセンシティブな情報なので先に反証も記載しておく※
WHOは、IARCの報告について、「がんのリスクを減らすために加工肉の摂取を適量にすることを奨励したものであり、加工肉を一切食べないよう求めるものではない」と発表しています。

農林水産省HP

ヴィーガン活動家の主張

次に世間一般にとってヴィーガンを知る機会になりやすいであろうヴィーガン活動家の主張をみてみる。ヴィーガンの人々それぞれに主張や理由があるというのは大前提として、ここでいうヴィーガン活動家とはヴィーガンになること推奨し、ヴィーガニズムを普及する活動を行う人々のことを指す。

活動家の主張する論理

活動家の主張を知るにあたって協会HPのほかに、あまりいい例とは言えないのだが下記のABEMAの討論番組(話が何も噛み合ってないので議論になってないです)や個人のブログ等を参考にした。

動画①

動画② 

番組に出演しているPETAのほか、Google検索で真っ先に出てきた日本ヴィーガン協会や動物解放団体リブも過激なデモこそ行っていないが主張は基本的に同じで「動物に対する搾取の防止」の観点からヴィーガンを推奨している

自身がヴィーガンであることを公表し、ヴィーガニズムの普及活動を行っている活動家のほとんどは動物への搾取の防止を第一に訴えており、美容系インフルエンサーの類を除けば環境問題や健康増進を訴えてヴィーガニズムの普及に努めるのはかなり少数派になる。

動物搾取の主張内容を調べたときにも感じたのだが、英国のヴィーガン協会をはじめ、デモを行った活動家に至るまで、彼らの多くは畜産業やその他の動物を利用する業種を「やめるべき」とは明言しない。参考にした動画でも「肉を食べるべきでないとおっしゃるわけですよね?」という質問に対して「そうは言ってない」と反論しており、そのせいで他の出演者と余計に話が噛み合ってない。

では彼らが言いたいのは何かというと「○○という非倫理的な事実があります。あなたはどう思いますか?」という問いかけのみを一貫して主張し続けている。そして、その問いに対して高い倫理観と現代的な人権意識を持っていれば当然の帰結として「動物を殺さないヴィーガンになる」という回答が導き出されるのを期待しているのだ。
つまり、彼らが「真実」と呼ぶ屠殺場の現実問題に気付いていない、あるいは肉を食べたいという欲求に負けて非倫理的な価値観が捨てられない人々に、気付きを与えてあげれば自発的に皆ヴィーガンになるはず、という意識が活動家の啓蒙活動の下地としてあるように感じた。
こういった「真実を知ることでヴィーガンという真理に辿り着いてほしい」というスタンスがヴィーガンは宗教じみているという感想に繋がりやすいのだと思う。

そういう意味で報道されている過激な行動は世論を変えようとか社会に変化をもたらそうというデモ活動というより、目立つ行動で仲間を増やそうという勧誘活動の面が強い。そこも世間の感覚とズレが生じる一因だろう。

対立が起こりやすい構造

社会には「命は尊ぶべき」とか「戦争は良くない」のような一般的に反対意見の出づらい道徳的価値観というものがある。人間社会においてその価値観は基本的に正しく議論の余地もないのだが、自然現象的な価値観では命や死、争いの捉え方も変わってくる。さらに、生き物を「個」として考えるか「種」として考えるかでもまた見え方は違うはずだ。

ヴィーガンという哲学の議論は以上のような人類、社会、自然、ひいては世界をどう認識するかが本質だと思うのだが、話があまりにも抽象的かつ根本的なため、そんな話をしたがる奴はほぼいない。
加えて、ヴィーガンの定義である「可能かつ実践可能な限り」という部分が個人の感覚によって差があることと、いくらでも屁理屈をこねられる曖昧さを孕んでいることも本質の見えづらさに拍車をかけている。

結果的に、ヴィーガン派は雑食主義者を動物の残酷な「真実」を見たにも関わらず何も感じない不道徳で真っ当な倫理観を持たない奴らだと思ってるし、雑食主義者はヴィーガン派を生き物は死ぬという現実すら見えてない短絡的で浅はかな主張を上から押し付けてくる連中だと思って、SNS上で動物を食べることの是非という小手先の議論を不毛な罵り合いと共に定期的に繰り広げているというのが対立の構造である。

屠殺反対のデモ活動に関して

今回色々と調べたなかで、PETAや他の動物愛護団体が行っている屠殺の写真を子どもに見せる行動について、反対であることは述べておきたい。動画①で箱山氏は「中学生以上に写真を見せても真剣に捉えてもらえないが小学生以下の子どもに見せると真剣に考えてもらえる。そういった柔らかい心のうちに考えてもらいたい(意訳)」というような発言をしている。これは要するに精神的に未成熟な子どものほうが洗脳しやすいという程度の話で、食育という明確な答えのない分野において判断基準を持たない子ども達に一方的に持論を展開するのは認められないというのが私の考えだ。

ただし、一応フォローしておくと元々のPETAは社会的意義のある動物愛護団体だった。1980年の設立から90年代にかけて潜入捜査による動物虐待の告発や保健所の飼育環境改善など、人間社会における動物の地位向上に貢献してきた実績のある団体であることは事実だ。しかし、2000年代以降、過激なキャンペーンで注目を集めたり、他者の経済活動の妨害が主な活動になってきていることが問題だと思う。

日本古来の食文化

日本は元々菜食の文化であると主張するヴィーガンは多いので、日本人は本来肉食はしていないと説明する歴史的事実なんかを少し紹介しておく。

魏志倭人伝には3世紀頃の日本人は牛馬などの家畜を持たないという記載があり、仏教文化が色濃く影響した飛鳥時代には、675年に天武天皇が牛、馬、犬、猿、鶏を食べることを公式に禁じている
その後も桓武天皇、嵯峨天皇らをはじめ多くの為政者たちが肉食、場合によっては魚も食べることを禁止し、公卿や仏僧を中心に肉食禁止の文化は1200年近く続いた。また、厳格な仏教徒による動物性食品を全く取らないという文化は精進料理という形で今日まで残る
肉食禁忌は最盛期は徳川綱吉の出した生類憐れみの令に代表される17世紀の後半頃である。結果、中国や朝鮮半島では一般的な犬肉を食べる文化は日本では失われ、現代でも犬は食材として扱われなくなっている。

明治時代に入った1868年以降、西洋文化の一部として肉食文化も日本に取り入れられ、中でも牛すき焼きは文明開化の象徴として流行した。政府は西洋化を進めるために肉食を推奨したが、初期には抵抗もあったらしく明治天皇が初めて牛肉を口にしたと報道されたのは明治5年のことであった。さらに、肉食反対派が抗議のため皇居に押し入り死傷者が出る事件も起きている。
その後、戦争による食料不足によって停滞する時期はあったものの庶民の間でも肉食の文化は着々と普及していき、戦後の高度経済成長期に食肉の需要は急増、魚肉の供給量を上回り日本人の食生活は一気に欧米化が進んだ

つまり、日本は長い歴史の中で肉を食べずにタンパク質や栄養素を補う食文化を持っていたが、明治以降の西洋化によって肉食が当たり前となってしまった。という説明が肉を食べずに生きることは可能なのだという主張の根拠にされている。

外食業界での代替肉の取り扱い

最後に、私が興味を持つきっかけにもなった代替肉やベジタリアン対応メニューを販売しているチェーン店として以下の企業のプレスリリースや公式HPの記載を確認した。

  • スターバックスコーヒー

  • タリーズコーヒー

  • コメダ珈琲

  • スープストック東京

  • モスバーガー

  • ロッテリア

  • フレッシュネスバーガー

  • ロイヤルホスト

  • ココ壱番屋

  • 焼肉ライク

以上の企業の発表している情報の傾向をまとめると以下の通りだ。

  • 食の多様化、グローバル化(ハラル)に応えることを目的として掲げる会社が最も多い

  • 次に多いのが健康志向のニーズ対応や高たんぱく低脂質なメニューとして、などの健康的なライフスタイルへの選択肢の提案

  • 食肉の調達課題や環境負荷といったサステナビリティへ言及する企業も複数ある

  • ベジタリアンと名のついた商品でも厳格に管理されたものは少ない(動物性食品が一部使用されている、同じ器具で肉を調理している等の注意書きがある)

  • ヴィーガン向けを企業側から謳った商品はない

  • 発売時期は2010年代の後半から2021年頃で、2022年以降の発表はほとんどない

ちなみに日本では未発売だが海外ではマクドナルド、KFCも代替肉を使用した商品を販売しているらしい。

厚生労働省の調査では2010年頃から健康維持への関心は増加傾向にあり、特定保健用食品やフィットネスクラブの市場規模の拡大や喫煙率の低下などといった結果に現れている。あの有名なライザップのCMは2014年に始まり現在も続いている。
こういった健康志向の高まりに加え、東京オリンピック開催による海外旅行者からのハラルフードへの需要が見込まれたこと。
さらに、2015年の国連サミットで採択されたSDGsをCSRに取り込むことで株主や顧客へ訴求できたこと等を背景として各社から代替肉メニューが販売されるようになったようだ。
また、コロナウイルスが肥満による心臓病などの基礎疾患によって重症化するケースが多かったことにより低カロリー食に注目が集まったのも代替肉が急速に世間に浸透した一因だろう。

プラントベース食品市場は、2020年に294億ドル(約3兆3600億円)にまで拡大していると言われ、技術革新によって続々と新しい製品が登場している。
その一方で、味を向上させるために塩分が高くなっているという指摘や市場規模が縮小を始めているという意見もある。実際に焼肉ライクは提供店舗を縮小しており、バーガーキングはプラントベース商品の取り扱いがなくなってしまった。

まとめると、ヴィーガンが世間に認知されたから、というよりは健康志向や海外需要、SDGsなどのトレンドを企業が取り入れた結果、代替肉という最新食材が脚光を浴びた、ということだろう。

私個人の感想としては肉と比較するとどうしても味や満足度に欠けてしまうこともあり一過性のブームとして消費されてしまったように感じる。肉の代用ではなく豆腐や厚揚げよりも美味い大豆加工食品として売ったほうが普及が進むのではないだろうか。


ここまでヴィーガニズムの主張などをまとめてきたが、すでに文章量が多くなりすぎたのでここで一旦区切ることにする。
なお、ここまで書いた記事はあくまでヴィーガン推進派の主張する内容をまとめただけなので、事実を一面的に捉えている部分があったり、恣意的な部分があることは注意してもらいたい。

それと、一応知り合いに向けて明言しておくと私はヴィーガンにもベジタリアンにもなっていません。昨日の夕飯は寿司で一昨日は焼肉です。最高。

最後までお読みいただきありがとうございました。
次回はヴィーガニズムに対する反証に合わせて私個人の感想も書けたら良いと思います。

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