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【感想】劇場映画『ガーディアンズ・オブ・ ギャラクシー:VOLUME 3』

2018年、過去のツイートを掘り起こして炎上させられる形でマーベル(ディズニー)から即日解雇を言い渡され、ガーディアンズ・オブ・ ギャラクシー新作映画の監督も降板となったジェームズ・ガン。

これぞ醜悪なキャンセル・カルチャーというアレだったが、その後2019年に無事復帰が決まった。

しかし、雨降って地固まるとはならず、この一時解雇はガン自身のみならずMCU全体、ひいてはライバルのDC映画をも飲み込む事態に発展していく。

即日解雇を言い渡されたガンにすぐさま救いの手を差し伸べたのはDCコミックス映画を手がけるワーナー。
「DCコミックスのどの作品のどのキャラクターでもいいのでご自由に撮ってください」という信じられないレベルの破格オファーw
そうして生まれたのが大傑作『ザ・スーサイド・スクワッド』

映画始まって1分も経たない内に小鳥を豪速球のテニスボールで撲殺するというツイッターへの恨み節を思わせる描写に当時爆笑したけど、まさか2023年になったらTwitter社の方が大混乱に陥っているとは。

さらにHBOでスピンオフドラマ『ピースメイカー』も製作(全話の監督兼脚本)

これもサイコーでした。

さらにさらに、2022年にワーナー再編の中で設立されたDCスタジオの共同CEOに就任!
1人の映画監督の域を飛び出してDCユニバース全体を統括するプロデューサー、MCUでいうケヴィン・ファイギ的ポジションに。
MCUから見ればライバル社のトップ。

なのでガン自身のMCU卒業は確定。
(契約した仕事だから当然ではあるのだけど)DCスタジオのトップがMCUの新作映画を撮ってプロモーションしている異常事態w

ディズニー即日解雇のどん底から仲間の後押しを受けて映画とドラマを作り、DCのトップにまで到達したジェームズ・ガン。
だからこそ劇中でドラックスがアダム・ウォーロックに言うこの台詞がグッとくる。

Everyone deserves a second chance.

あのシーンが個人的ハイライトでした。
泣いたね。

ぶっちゃけ全体のストーリーは「ある場所に潜入して何かを強奪する」という点で『ザ・スーサイド・スクワッド』そっくり。
ジャンル的にはケイパー(チーム潜入強奪もの)
というか、解雇されたガンが「せっかくだしvol.3でやろうとしていたことをDC映画でやっちまおう」と考えたんじゃないだろうか?
キャラクターへの愛着があるから全然観れるけど、フラットな目線だと「結果的に二番煎じになっちゃってんじゃん…ディズニーよ…」とは思う。
(キャストもスタッフも悪くありません。一時解雇の判断ミスが全ての元凶)

ただ、そこに悪趣味性全開のグロテスクなルックと実は深い政治的メッセージを入れてくるのがジェームズ・ガン。
彼のルーツであるトロマ映画の精神がこれでもかと炸裂している。
(ちなみにガン自身の政治思想はリベラル寄り)

実験により改造された動物たち。
もうね、最悪ですよ、最悪(褒めてます)
トイ・ストーリーの第1作目で隣の家に住んでいたシドの改造おもちゃ的な。

一瞬「よくディズニーこれ許したなw」と思ったけどピクサーに前例があったw
さすがに人体がグシャっと破壊される系の描写は『ザ・スーサイド・スクワッド』と異なり自重してましたが。

それがロケットの過去をめぐるドラマ、そして本作の政治性に繋がっていく。
『ザ・スーサイド・スクワッド』ではアメリカの帝国主義(植民地主義)やSNSによる分断・煽動を批評していた。

今作がその射程に捉えるのは優生思想。
ヴィランは「完璧な世界を作る」を目的に掲げるハイ・エボリューショナリー。
そのために人体実験や遺伝子操作を繰り返し、失敗作は捨てていく。
その実験過程で作られたのがロケットであり、彼を助けに行く主人公が優生思想の下では真っ先に切られそうな銀河のならず者集団。
ジェームズ・ガンのトロマ精神がMCUを完全に飲み込んだ。

あと中盤辺りに出てきた「膨大な知識を丸暗記できるよりも新しいアイデアを思い付く頭脳が欲しい」というハイ・エボリューショナリーの台詞にはAIへの批評性も感じたり。
脚本執筆時期はどう考えてもChatGPTをはじめとする昨今の生成系AIブームよりも遥か前のはず。
見事に時代をキャプチャー。

個人的にはクライマックスでの「動物も助ける対象だ」という展開がとても良かった。
『エターナルズ』を観た時に「多様性を褒める感想が多いけど、地球の守護神という設定なら動植物が完全スルーなのはおかしくないか…?」とモヤモヤしていたので溜飲が下がった思い。

作中でDCイジりを仕掛けた『エターナルズ』を、より高い視座からDCスタジオ共同CEOが批評したなんて穿った見方を思わずしてしまった。

そういったトロマ映画の文脈からは少し外れたジェームズ・ガンらしいノリノリの音楽演出も健在。
まぁ僕はエドガー・ライトも大好きな監督で、音楽と映像が気持ちよく組み合わさったMVのような快楽性を持つ映画を高評価する嗜好・傾向があるというのはゲロっておきますw

SF映画の引用も楽しかった。
まずは『2001年宇宙の旅』

カラフルな宇宙服と、あとVultureのYouTubeチャンネルで公開されている動画にも載ってる、あの回転するやつ(名前不明)

『スター・ウォーズ』は本シリーズそれ自体がオマージュみたいな面もあるけど、ドラックスがあの名台詞を口にするシーンが。

I have a bad feeling about this.

5月4日はMay the 4th→"May the Force be with you."→スター・ウォーズの日なので公開日に合わせた小ネタなのかも?

研究施設と子供の組み合わせは『AKIRA』から『ストレンジャー・シングス』に受け継がれたモチーフ。

きっとジェームズ・ガンのことだからまだまだ引用あるはず。

悪趣味でグロテスクな映像×政治批評性というトロマ映画精神を、愛すべきキャラクターとヒーロー映画らしいアクションによるブロックバスター大作と同居させ、その上で既存曲を多用する音楽演出という自身の作家性も発揮。
大傑作。
DCに旅立ったジェームズ・ガンからMCUに、そしてファンに最高の置き土産。
ありがとう。

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