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Minute Mint はどうやって生まれたか

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十数年間、寝かせてたアイデア:

僕は突き詰めると、誰も作ったことのないモノや、世界を新しい視点でみれるようになるアイデアが好きみたい。そして、それもこれもアイデアを思いつくだけではダメで、ちゃんと形になって世の中に出ないと意味がないと思っています。だからドンドン新しいアイデアは実現していきたいと思ってるし、変なもんばっかり作ってるから、一見思いついたそばから片っ端に作りたいものを作っているように見えるかもしれない。でも、実はそうでもない。作らずに寝かせてるアイデアが実現するものの20倍くらい残っているのです。

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アイデアには、実現できる/実現すべきタイミングというものがあるような気がしています。特にクライアントワークではない、締め切りのない自社プロジェクトや個人プロジェクトの場合は、尚更そのタイミングを見極めるのが大切になってくる。予算がない、実現するために必要なパートナーがみつからない、などの理由でベストな形でアイデアを実現することが難しいと感じた時は、敢えて我慢してアイデアを寝かせておくことの方が大切なこともあるのです。

逆にそういう「今じゃない時」に強引に作ろうとしてしまうと、作るのにかかるコストと、出来上がった時のインパクトのバランスが取れなくなることが多いからだ。自分だけでできるプロジェクトならばいいけれど、大体のものは多かれ少なかれ他人の力を借りて実現するものなので、タイミングが悪い時に強引に作ってしまうと、その人の時間も浪費してしまい、結果疲弊し損の方が多いプロジェクトになってしまう危険性があります。そう思い至るまで、僕も何度も我慢できずに強引に作ってしまっては失敗することを経験してきました。

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だからそんな危険シグナルを察知した時は一旦我慢するわけですが、そのアイデアを諦めるわけではなくて、チャンスを待ちながら寝かせておいて、惑星が直列した時にこそ実現してやるのです。寝かせることにも実はメリットはあって、そうやって長年放置していてもなお面白いと思えたり、かつ数年経ってもまだ世の中で実現されていないようなアイデアは、ますます自分がいつか世に出すべきものだと再認識できるからです。(寝かせているうちにやられてしまうアイデアももちろんあります。そういう時は一人、悔し涙で枕を濡らします。)

そのように寝かしておきつつ、事あるごとに実現しようとチャレンジを繰り返しているうちにどえらい時間が経ってしまったアイデアが、この度やっと実現できました。「minute mint」という名前のお菓子です。思いついたのは、今から10年以上も前のことでした。

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アイデアはどうやって思いついたのか:

僕はもともと固定概念を壊してくれるような、「そんな考え方もありか!?」と思わせてくれるような、新しい視点に気づかせてくれるようなアイデアが好きで、なるべくそう感じられるアイデアを会社仕事でもパーソナルワークでも実現しようとしてきました。例えば大昔に個人プロジェクトで作った虹が作れるパラパラマンガ「Rainbow in your hand」も、パラパラマンガがもともと好きで何か作りたいという思いと、どうやったらパラパラマンガというフォーマットを壊せるかという勝手な問題意識から始まりました。そしてパラパラマンガという物質が全て紙の上に印刷されている現象をコンテンツとしているのに対し、めくった時に生まれる残像をむしろコンテンツにできたら面白いと思ってデザインを考えたのでした。

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今回のminute mintは十数年前、同じように勝手に「時計」で何か新しい表現はできないかと考えていた時に思いつきました。世界中で様々な素晴らしい時計がすでにたくさん作られてきているので、普通に表面的な時計デザイン考えていたのでは、僕みたいな時計素人では既存のモノに到底太刀打ちできない。そこでこの時は、まず時計を「時間を計る道具」であると捉え直すところから始めてみました。そうすると腕時計や壁時計といった呪縛から解き放たれ、例えば砂時計や日時計といった時間を計る装置で誰も考えたことのないアイデアを考えてもOKなことになり(別に誰にも強制されてないのですがw)それならなんかまだ見たことないものを作れそうな予感がするな、と。

時間の経過を計れさえすれば良くて、まだ時間の計測に使われていなそうなものってなんだろうと考えていた時、例えば時間通りに舐め終わる飴を作れないかと思いついたのでした。それならば美味しい味を楽しみながら、腕時計やスマホを見ることなく、時間を測ることができる。食べ物と時計という一見関係ないものをつなぐことで、これまでなかった新しいアイデアが生まれた瞬間でした。(下の画像2枚は当時の企画書からの抜粋です。最初はまだデザインがダメダメなのがお分かりいただけるかとw)

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思いついた本当の最初の頃は、ミントではなく、1分毎に味が変わるような飴玉にしたらどうかと考えていました。味の違うレイヤーで出来たキャンディーで、1分づつで味が変わり時間の変化が感じられる。それで5分くらいもつようなキャンディーはできないかと妄想していました。でもいろいろリサーチしていると、そんなレイヤーでできたキャンディーは作るのが大変でコストもあがるし、飴は溶けやすいから時間にムラができやすい上に保存も大変ということがわかってきました。またはその逆でめちゃ硬くするしかなかったり、味も選べなかったり...。さらにはそもそも舐める時間は個人の舐め方や唾液量などに依存するから、何層も組み合わせると時間の誤差が倍々に増えていってしまうのであんまりうまくいかないな、と気づいたのです。そこで、もう少し硬質でもよくて、短時間に食べ切れるようなミントにしてはどうかとアイデアをピボットしました。

「ミニットミント」(上に貼った当時の企画書にはmintsと複数形になってますが)というネーミングは、ミントだし語呂もいいことから、わりかしすぐに思いつきました。これまでなかったコンセプトのお菓子なので、今回改めてもっとわかりやすくド直球な「Time Mint」みたいな名前にすることも検討したのですが、ここは口に出した時の気持ち良さを優先しました。

このようにして、仕事の合間とかちょっとした待ち時間とか、短い時間を「緩く、楽しく、おいしく計れる」新しいタイムスナック(?)のアイデアが固まっていったのでした。

パートナーがみつかるタイミングを待つ:

このアイデアをなんとか作れないかと思い、周囲にお菓子メーカーの人がいないか探りまくりました。しかし話はできてもなかなかコンセプトを理解してもらうのが難しい。そりゃそうですよね。おいしいといった味でも、目が覚めるといった機能でもなくて「時間が計れる」なんて、やったことないからめんどくさそうだし、そもそもそれが売りにつながるかなんて全く解らない。売れるお菓子を作りたいだけなら、こんな変なものに時間をかけるのはバカバカしいと思われてもしょうがないことかもしれません。

でも僕としては、そうやって誰も今は求めてないし作ろうとしてこなかったけど、きっと実際に形になったら世界が面白がってくれるかもしれない予感がするものこそ、僕らみたいな情熱のある人間が作らないといけないと思ったのです。そうじゃないと、ちっとも世の中に「素敵で無駄(とも限らないけど)」なものが増えないし、クリエイティブの可能性の地平が広がっていかない気がするのです。そんな開墾作業誰にも頼まれていないわけですが、むしろそんな時ほど燃えてくる。

しかし、とはいえ制作パートナーがみつからないことや、当時の僕の経験・スキル不足では、このアイデアに対してベストなデザインに辿り着けないのではという迷いもあり(当時はまだBBHというNYのエージェンシーで働く若造ディレクターでした)、これはちょっと今実現するには必要な時間と費用のコストがかかりすぎると感じ、一度冬眠させることにしたのでした。

そしてその後もたまに思い出しては、類似商品が先にやられていないかハラハラしながらリサーチしたり、誰か興味を持ってくれるパートナーがいないかチラチラ周囲を見回したりしながら、気づくと十数年が経っていました…。そしてやっと3年前、KokuyoとUHA味覚糖という心強いパートナーを見つけることができ、実現への道が拓けたのでした。

2017年初めてコクヨデザインアワードの審査員をした時、グランプリが「たべようぐ」というお菓子になりました。Kokuyoは元来文具・家具メーカーなので、これを商品化するのって本当にできるのだろうか…とちょっと心配していたら、なんとKokuyoのチームがゴリゴリ商品化に向けてプロトタイプ作りを進めていくじゃありませんか!すごい!この人たちとなら、もしやあのミントを実現できるかもしれない!?と思い、ダメ元で自主プレゼンをさせていただいたところ「面白い!やりましょう!」といっていただけたのでした😭 文具・家具メーカーにお菓子の相談をする僕も頭がおかしいと思いますが、それをOKするKokuyoのチームも相当頭がおかしいと思います(褒めてる)。そしてKokuyo経由で、同じ大阪を拠点とするお菓子メーカーUHA味覚糖をご紹介いただき、今の三社によるプロジェクトチームが立ち上がったのでした。

ざっくり整理すると以下のような役割分担で制作は進んでいきました:
UHA味覚糖:ミント制作、パッケージ制作、流通
Kokuyo:プロジェクトマネージメント、プロダクトデザイン
Whatever: アイデア、クリエイティブディレクション、サイト制作、プロモーション映像制作

やーーーーっと制作スタート:

アイデアを思いついた当初から、前述の企画書にあるように、時計モチーフのパッケージデザインを考えていました。アナログっぽいものにするべきか、デジタルっぽいものにするべきか...。そんな話をしながら何度か商品デザインのブレストを行なっていたある日、Kokuyoの佐々木さんが、デジタル表示のヘキサゴン型をしたタブレットのデザインを提案してくれた時、これだ!と思ったのでした。ユニークだし、とても時計的なミントの形状。このアイデアを起点にデジタル時計をテーマにした缶のデザインが生まれ、必然的にそこに「溶けるまでの時間」がプリントされているパッケージデザインができていきました。

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パッケージと同様に、ミント自体の試作品もたくさん作りました。どのくらいの大きさだとどのくらいの時間で溶けるのか。溶けるスピードをある程度一定にコントロールするためには、どのくらいの圧力で成形すればいいのか。様々なレシピや大きさのミントを、みんなで舐めまくる日々が続きました。(ここはかなり頑張って、良い感じにできたと思っています。しかし、やはり舐め方や唾液量など個人差によって溶けるスピードはどうしても変わってしまうので、食べた時の時間の誤差については、どうかご容赦くださいませ… あくまでも「緩く」時間の経過を知ることができるくらいに思っておいていただければと。)

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そして試作品を様々試していく中で、いくつか違った時間とフレーバーをつくった方が、より「時間を計る」というコンセプトが明確になるのではないかと考え、最終的には2種類の時間=フレーバーのものを作ることに決めました。1:30のミント味と、3:00のレモン味です。この時間尺に関しては、ミントなのであんまり長く舐めるものないよねと話していた時、脳科学において人間の感情が収束するのに「90秒」必要だといわれていることを知り、じゃあそれをリフレッシュに必要な最小単位と決めようと考え、1分半と3分というバリエーションに行き着きました。

フレーバーも、グレープ味とかコーラ味とか様々トライした結果、最終的には短い方を王道のミント味にし、長めの方をリフレッシュした気分になり易いさっぱりしたレモン味の二種類にしたのでした。(今後も他の時間で他のフレーバーも増やしていきたい…)パッケージデザイン的には、それぞれのフレーバーに合わせてブルーとイエローにすることでやっと全体像が見えてきました。(缶の形状や造形も3Dプリンティングやらなんやら様々試行錯誤したのですが、めちゃ長くなるので割愛します。)

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なにせお菓子なんか作ったことないので、そんなこんな試行錯誤しながら進めていった結果、結局作る作業自体にもいつの間にか3年近くを費やしてしまいましたww なので初めてサンプルを手にとって食べた時は、本当に感動的でした...。

プロダクトが完成しても、それで終わりではない

プロダクト自体の制作の目処が立った後は、プロダクトサイトを作ったり、盟友dwarfのチームと可愛いプロモーション映像も作りました。タブレットの形がとてもアイコニックで可愛かったので、実際のタブレットをコマ撮りで動かしてアニメーションさせています。予算が本当になかったので、一本だけでも...とお願いしたら「川村さん、なんか遠慮してませんか?」と、ミント&レモンの二本も作っていただいちゃいました🙇‍♂️ 過去に大変なプロジェクトばかり一緒にやってきたので、お互い脳味噌が麻痺してるんですね(褒めてます)。本当に持つべきものはこうした戦友だと、感謝感激しっぱなしでした…。

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と、そんな旅路の果てに出来上がった商品「minute mint」は、まずはNew Stand TokyoThink of Thingsとオンラインで販売が本日スタートしました。

余談ですが、仕事の合間のリフレッシュや口臭エチケットとして口にすることが定番のミントタブレットは、コロナ禍によって対面機会が減少したことで市場全体的に売上が低下しいるらしいです。また、新型コロナウイルスによる影響でリモートワークが一般化し、様々なメリットがある一方で、オンオフの切り替えがしにくく却って長時間労働になりやすかったり、オンライン会議を隙間なく入れられてしまう等、「休憩」がリモートワークの課題として顕在化しています。偶然そんなタイミングでのローンチとなりましたが、元々ミント好きの僕としてはこの変わった商品によって少しでもミントマーケットが活性化すると嬉しいなと思っています。ぜひリモートワークのお供にいかがでしょう?パッケージがとっても可愛いので、ギフトとしても喜んでもらえるんじゃないかと思います。

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積年の想いを語り始めたらキリがなく、すでにかなりの長文になってしまったので、今はこのくらいのレポートにしておきます。売れ行きやどのくらい話題化できるかで今後の生産数や販売場所も変わってくるので、気になった方はぜひ買って、味わってみてください!(うちにも置きたい!という販売店さまがいたら是非ご連絡ください🙏)

さて、次は何作ろうかなー。

[Staff Credit]

PRODUCT
Planning / Production: Whatever
Product Design: コクヨ株式会社
Manufacturer: UHA味覚糖株式会社
Idea: 川村 真司
Creative Director: 川村 真司
Producer: 相原 幸絵
Business Director: 金子 佳
PR: 小野 里夏
Art Director / Designer: 佐々木 拓(コクヨ)
Photographer: Junko Yokoyama(Lorimer Management+)
Frontend Engineer: 松竹 えり

FILM
Animation Producer: 松本 紀子(ドワーフ)
Film Director (Focus Mint): 森田 早喜(ドワーフ)
Film Director (Refresh Lemon): 寳榮 夕貴(xpd)
Animator (Focus Mint): 稲積 君将
Animator (Refresh Lemon): 高野 真
Production manager / Assistant for animators: 内田あやめ(ドワーフ)
Editor: 渡部 卓郎
Music: 小野 雄紀 (WONDROUS)


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