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二つの家 vol.5

二、三年前に経験した、個人的なできごとについて書いています。

前回の話し

Mumは、紅茶を飲みながら、私に語りかける。

ここには、来たいときにいつでも来ていいのよ。
あと、家族に何でも好きなものを持って帰ってあげて。何でも。
さあ、選んできて。

と、促された。

全く迷うこともなく、私は、家族への贈り物を三つ目の前に揃えた。

父へは、古い素敵な置時計を、
母には、庭で友だちになった仔鹿を、
姉には、トマト色の木製のパズルを、

選んであげた。

私は満足していた。
それぞれに、本当にぴったりのものを見つけられたからだ。
そして、少し興奮して身体がホカホカしてきた。

そこから先、場面が展開しなくなった。 

…………

意識がはっきりすると、私は、間違いなく、いつものベッドの中にいることに気づいた。

私は、いま夢から目覚めたのか?
そもそも、ずっと、目は覚めていたのだろうか。
よく分からなかった。

何だかよく分からない気持ちのまま、ベッドから起き上がると、

ドライフラワーのバラが、部屋のドアの前に落ちているのが見えた。

無言で近寄り、バラを拾い上げて、じいっと見た。

バラは本当に落ちていたんだ、と
小さく一人でつぶやいた。

気がつけば、あの黒い気体(「不安」と名乗った)も、自分の中にはいなかった。もちろん現実にも。

落ち着かない感覚は、いつのまにか消えていた。

私は、心の中になのか、夢の中でなのか分からないけど、家を建てたのだ。

今の私が、その家に入り込むことはない。

多分、思うに小学校4年生の私が住んでいるようだ。
頭の中を、整理していくと、そうなる。

この経験については、またまだ、整理がついていないことがたくさんある。
だから、書き方が、よく分からない。
分からないけど、後で、自分の役に立つ気がしたから、メモしておいた。

小説でも、エッセイでも、日記でも何でもない。
長いメモ。