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二つの家 vol.3

二、三年前に経験した、個人的なできごとについて書いています。

前回の話し

「いつも同じ服着てるよな」
同じクラスの男の子が、私に向かって言ってきた。

言われてちょっとびっくりした。
そうだったんだ、私。同じ服着てるんだ、と。

確かに、セーターとスカートをいつも同じ組み合わせで、二、三セットを順番に着ていた。

ちゃんとした質のものだったには違わないが、他に着る服が無かったわけでもないのに。

そのころ、姉は、中学受験勉強の真っ只中だった。

姉が通う地元の小学校では、受験をする人は、学年に一人いるか、いないかの時代だった。
だから、姉も、両親も、それはもう必死だった。

両親は、私が、毎日のように同じ服を着ていたことに気づいていなかったんだ。多分。
そして、私は、自分の身に構わず、何に気を取られしまっていたんだろうか。

うちの中の空気は、異様に暗く重かったのは、よく覚えている。
その黒い気体より、家が黒かったかも。

《ウチには帰らない》

例の気体が、悲しそうにうごめいていた。

どうやっても、そのときの家庭が思い出せないんだ。毎日、ちゃんと帰ってごはん食べて、寝ていたはずなのに。

《ワタシには、家がないから》

黒い気体は、さっきまでとは様子が違って見えた。
不気味さが消えて、静けさがあった。

意識は、ハッとした。
このままではいけない。なんとかしよう。
咄嗟にそう思ったとき、私は、黒い気体ごと、もっと大きななにかに包まれた。(ように感じた)

そして、不思議なんだけど、
私は、なにをしたらいいか、はじめからまるで知っていたかのように、そのプロセスをすすめた。

『家を作るんだ』

そう思った瞬間に、

私は「そこに」運ばれ、目の前に真っ白な木造の家が出てきた。
自分の人生では、見た記憶がない家だった。

外国の家だ。
ドアは濃紺で、真鍮のドアノブが見えた。
周りには、木がたくさん生えていて、地面には長めの芝が敷かれている。

雨が静かに降っていて、芝の青さをより一層美しいものに見せている。

玄関の前に立っていたら、
だれかが優しく私の背中を押して、玄関を開けて、入るように促してくれた。

Mumだ。
私は、その人を知っていた。

なぜか、ずっと前から知っていた。

続く