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二つの家 vol.2

二、三年前に経験した、個人的なできごとについて書いています。 

前回の話し

いつから、この感覚あったんだろうか。

落ち着かない、そして、閉塞感。
とりあえず、その暗い場所に、自分はじいっと座ってみた。

少しすると、

自分が、落ち着かないと感じていた感覚は、
なにか、黒い気体のように、映像として脳裏に浮かんできた。
そして、その黒い気体はボワボワと動きながら、名前を名乗ったんだ。

『どうも、ワタシが不安です。
中々気づいてくれないから、でてきましたよ。』

もちろん、実際に、そんなセリフはなかったが、
そう表現した方が感覚に近い。

それは、私が、「不安」というものを、初めて知った瞬間だったのだ。

でも、それは、思ってきたものとずいぶん違ったから、まだ、ピンとはきてなかった。

一般に、不安というのは、もっと、分かりやすい輪郭があるものじゃないか?

なにかあって、そのあることが引き起こす状態だ。

明日、大事なプレゼンがあるから、不安だ。
原因が分からない熱が続いて、不安だ、とか。

この落ち着かない、ただボワボワとした気体のような存在を、不安と呼ぶのだろうか。

認識が合わなくて、戸惑ったが、
自分のどこかが、冷静にそれを納得している。

そう、それが、私の不安、だと。

とにかく、新しいなりをした不安というものに出会った自分は、面白くなって、もう少し付き合うことにしてみた。

ボワボワの黒い気体の中は、その奥が見えない。
私は、さらに底の方へ潜っていった。

しばらくすると、突然に、別の世界にでた。

それは、自分の通っていた小学校だ。
ああ、懐かしい、大好きだった場所だ。

でも、その景色を見ても、私の気持ちは、決して明るくはなかった。

気体が、ずっと、私を包んでる。

とにかく、目の前に広がる小学校の風景をじいっと見てみた。

これは、妄想か、記憶なのか?
または、寝てしまっていて、実は夢なのか。
私の意識は、分からなかった。

感覚的に、小学校4年生のときと思った。
三階建ての校舎の一階、一番北にある私たちの教室が見えた。

あれ、こんなに薄ぐらい場所だったかな。

教室の後ろ隅に、一人の女性の姿が見える。
着物姿の温和な感じの人。

ああ、Tのお母さんだ。
そうだったね、あのころ、よく授業を見に来ていたんだった。

あれ、でも、なんでだったんだろう。
授業参観でもなかったし。
そんな記憶忘れていたけど、その映像はものすごく鮮明に目の前に展開している。

その時、私の周りの気体は、明らかにざわついた反応をしているのを感じた。

《ナンデなんだ、ナニが起きてるんだ》

教室の黒板の前には、国語の先生が座ってる。

ああ、優しくて、好きな先生だったな。
でも…、なんていうか、その見た目は、記憶とほんの少しだけ印象が違う。

授業中なのに教室全体が、フワァーッとしていた。皆んな学習に、集中していない。興奮なのか、冷めているのか。
互いの頭を触りながら、皆んなが騒いでいる。

そうだ、あの時代には信じられないが、なぜか、都内で毛ジラミが流行り、とうとうクラスでも発見されたんだ。

突然、国語の先生が、ガタッと席を立って、
「これは大変なことだぞッ」と少し震えた甲高い声で言って、大慌てで、教室を出て行った。

《先生が、怯えていた》
《ワタシタチが、悪いのか?》
《ワタシタチは、ヘンなのか?》

私をつつむ歪んだ黒い気体がそう感じた。

二つのエピソードを思い出した、というか、映像が目の前を流れていった。

事実は分からない。
Tのお母さんは、Tのことで、なにかが心配だったのだろう。
先生は、緊急性を感じて、学校側に報告しに行っただけなんだろう。

それだけのことだ。実際に。
でも、黒い気体は激しくネガティブな反応した。

そこで場面は、また切り替わったんだ。

続く