『ある少年の告白』(原題:Boy Erased)

『ある少年の告白』見てきました。(下の方にネタバレがあるので、まだ見ていない方はご注意ください)

アメリカのアーカンソー州にある小さな町で、バプティストの家族に育ち神父の父をもちながら、ゲイであることがことを理由に、同性愛を「矯正」するプログラムに入れられた19歳の少年、ジャレッド・イーモンズのストーリー。これはGarrard Conleyによる手記『Boy Erased: A Memoire』をに書かれた実話を元にしています。

監督はJoel Edgerton、主演は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、『スリー・ビルボード』など、心に傷を抱えた暗い少年を演じさせるとハリウッドで敵う人のいないLucas Hedges、そして両親はそれぞれNicole KidmanとRussell Croweが演じています。

スタジオはFocus Features、製作会社にはAnonymous Contentの名前も。見る前から、たぶん気が重くなるような映画なんだろうなーと思っていた通り、すごく考えさせられるところは多かったのですが、その前にわりとずっと考えていたことは「この映画はルーカス・ヘッジズやニコール・キッドマン、ラッセル・クロウなどのハリウッドで誰もが知っている俳優を起用し、さらにはSteve Golinなどの大物プロデューサーも関わっている作品なのに、なんでこんなに地味なんだろう」ということでした。予算は(wikiによると)1100万ドル。低予算ではありますが、この地味さに比べると、ちょっと高く見えます。

この勢いでそのまま内容の話になだれ込ませてもらうと、ドラマチックな要素が足りなかったかなというのが第一印象。この映画に描かれているストーリーやメッセージは実はけっこうあって、例えば社会vs自分、宗教vs家族、父と息子の関係、母と息子の関係、アイデンティティー、でもその中でストーリーとしてきちんと描ききれている要素が、ちょっと少ないのでは、と思いました。

まずジャレッドの矯正プログラムの中で、「Moral Inventory」として過去に行なった「罪」の清算を行なうためのリストを作るシーンがあるのですが、その中で、ジャレッドと少しだけ特別な関係になったHenryとXavierの名前がリストに書かれます。二人のストーリーは、どちらもフラッシュバック程度ですごく中途半端。でも、そもそもこの二人との関係がジャレッドの「罪」であるからには、もっと話の中心に据えられても良いはずです。

それに矯正プログラムに来てからというもの、正直言ってジャレッドの精神的な変化がよく見えません。彼は当初からこのプログラムを疑ってかかっていて、プログラムが彼に事実と違うことを無理矢理言わせようとした矢先、怒りを爆発させ、母親に迎えに来てもらい、そして無事に脱出が成功します。こういうのって、普通は出て行きたいけど、そこに好きな人ができちゃって出て行けない、とか二人で一緒に脱走しようとするものでは?もちろん実話があるものだから、しょうがないとは思いますが、純粋に映画としてみたら、もうちょっとクライマックス的なものが欲しいところではありました。

ジャレッドが施設に入れられたときに、ジョンという誰とも接触したがらず、誰にも心を開かない少年が出てきます。ジャレッドはいつも彼のことをじっと見ていて、ついには「じろじろ見るな」とジョンに言われてしまうくらいなのですが、実は二人の間に何か起きるのでは、と思っていたら、何も起こらずで、期待はずれでした。で、このジョン、「ん?これってドランに似てるけど…」と思い、後で調べたらやっぱりカナダ人監督のXavier Dolan。彼は元々俳優ではありますが、時々自分の監督作品以外にも、こういって俳優として出ていますよね。

というわけで、いろいろ書きましたが、そもそも矯正プログラムの中にぶち込まれ、持って生まれてきたものを勝手に「罪」とされ、社会から、そして何より本来自分を無条件に愛してくれるはずの家族から、本当の自分として生きることを否定される苦しみは途方もないものと思います。同時に、そこで息子を守るために立ち上がる母親の姿も心打たれるものがあります。

日本はまだ、他の国や地域と比べてLGBTQの人たちや社会に存在するマイノリティへの理解や議論が熟していない部分もありますが、こういう作品が入ってくることで、これらが何を言おうとしているのか、自分は何を感じるのかを考え、いろいろな人と共有する機会になると良いなと思います。

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