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人材育成国際会議「ATD23」参加レポート

今年も世界最大規模の人材育成国際会議ATD International Conference & Expo(通称:ATD-ICE)がアメリカ・サンディエゴで開催されました。
 
2020年はコロナ禍の真っ只中でバーチャルのみの開催、2021、2022年はバーチャルとリアルのハイブリッド開催でしたが、まだまだリアル参加者もコロナ前には戻らず、という状況でした。
しかしながら、今年はATDが創立80周年という記念大会ということもあり、リアル参加者が約9,000人、バーチャル参加者をあわせると参加者は約10,000人ということで、本格的に以前のATD-ICEに戻りつつあるような印象です。

国別の参加者数。日本は3位。

ちなみに、私は今回もバーチャル参加でしたが、今年は日本からもなんと130名の方が現地に行かれたということで、私が視聴したセッションに加えて、私以外のATDジャパン理事の方のおススメコンテンツや現地に行かれた方々のお話も交えながら、全体トレンドや役に立ちそうなセッションをいくつかご紹介します。

全体の傾向

まずは全体感を掴むために、トラック(テーマの分類)ごとのセッション数の推移です。
2022年に比べて総セッション数自体が増加していますが、その中でも、キャリア開発、未来への準備、リーダーシップとマネジメント開発、そしてラーニングテクノロジーといったトラックでセッション数が大きく伸びています。
このカテゴリ分け自体はややあいまいなものもありますが、セッション数が大きく伸びているトラックは、大きなトレンド変化が起きているテーマだったり、注目度が高いテーマとも言えるので、大きなトレンド把握には一つのインプットになるかと思います。

なお、主観ではありますが、ここ10年ぐらいのトレンドワードやホットなトピックスはこんな感じです。
以前もご紹介したように、VUCAやエンゲージメント、データ分析、AI等、日本で話題になる3~5年ぐらい前には既にATDではホットトピックスとして語られているものも多く、やはりグローバルレベルでの変化や潮流を早めに押さえておきたい、という方にはATD(のカンファレンス)はおススメです。

全体のサマリ

次に、全体としての簡単なサマリです。
300を超えるセッションをまとめること自体にかなり無理はありますが、やはり最初の部分に書いた「日常が戻ってきた!」というのが、率直な感想です。もちろんすべてがコロナ前に戻ったのか?という点には様々なとらえ方があるとは思いますが、今回のATDに限定してみると、かなりコロナ前にかなり近い状況に戻ってきたのではないでしょうか。
一方で、大きく変化したこともたくさんある中で、我々として今後どうしていくか?という大きな問いかけが実はかなり重いテーマなのかなとも感じています。

キーノート

今年のキーノートスピーカーは
①Adam Grant氏 ➁Priya Parker氏 ➂Leslie Odom Jr.氏
の3名です。

ATDがまとめたレビューでは、それぞれのキーメッセージをこのように表現しています。

①Think Like a Scientist(科学者のように考えよう)
➁What Is Your Need for Coming Together? (集まる必要は何ですか?)
➂So What If You Fail?(じゃあ、失敗したらどうなるの?)


 また、ATDの公式サイトには一人ずつのまとめ記事が出ていますので、個々にはそちらをご覧頂ければと思いますが、個人的にはAdam Grant氏のキーノートが最も印象に残ったので、公式サイトに出ていたグラレコをここにも貼っておきます。

Adam Grant氏

Priya Parker氏

Leslie Odom Jr.氏

Adam Grant氏のキーノートのグラレコ(ATD公式サイトより)

EXPO

ちなみに、EXPOも300社以上が出展されていて、
参加された方によると「まるで IT 業界展示会のようだった」とのこと。
XR の体験をできる体験型のブースなどもたくさんあったようです。

各トラックの気になったセッション

リーダーシップとマネジメント開発

Science of Executive Leadership: Training That Drives Organizational Results

スピーカは、最近のATDでは常連の脳科学者Britt Andreatta博士です。
CEOのペインポイントという観点で、権力が脳に与える影響についてのセッションでした。
・人は権限を持つと共感性が低下する。
・他者も自分と同じ考えだと感じてしまう。よって傲慢になる。

未来への準備

4 Steps to Building Learning Into the Flow of Work

多様な学習ニーズがある中で、日常のワークフローの中に学習機会を組み込む方法を紹介したセッション。
→イントラクショナルデザインそのものだけど、よりデザイン思考で、
 という理解をしました。

学習科学、測定と評価

ここでご紹介するはのトラックとしては2つ、セッションとしては3つなのですが、それぞれが隣接しているテーマでうまくつなげて考えると効果的に実務にも活かせると感じたのであわせてご紹介します。

The Science of Storytelling
・ストーリーを共有すると話し手と聞き手の脳が同期。感情、同情、共感。
・ストーリーありきではなく、教訓/経験が先。
・魅力的な経験はパフォーマンスを高める。
・単なる情報伝達→意味として理解するのに時間がかかる。
・ストーリーを聞くと言語処理の脳と経験を感じる脳の両方が活性化。
・動きのある言葉をどう使うか。
・ストーリーを聞くと脳内の様々なホルモンが誘発される。 

Your DEI Story Is Hiding in Your Data
・ストーリーテリングは脳の活動。左脳と右脳を両方使う。
・DEIは、”Heart work”. ”brain work”ではない。
・単にデータを提示するだけではなく、データの背後にある
 ストーリーを伝えることが重要。
 データはストーリーやアクションを強化する。
・DEIはチェンジマネジメント。チェンジマネジメントにはデータが必要。
 (ADKARモデルの活用)
・人々の行動を変えるためにデータを活用する。
・データ懐疑論者になり(本当にそうか?という問いかけ)、それを克服する。 

How to Report and Visualize Learning Effectiveness to Executives
・ダッシュボードは経営向けに視覚化したもの。
・スコアカードは一貫性があり標準的だが、ダッシュボードは見る人の
 好みがあるので設計が必要。フロントエンドに時間をかけよう。
・スコアカードから始めることを推奨。経営がデザインが気に食わないと
 最初からやり直しになる。ウィジェット、インサイトフィードの紹介。
・賢いデータの集め方。ビジネスニーズからスタート
・リバースエンジニアリングの考え方の適用(データをどこから入手した?)

 ラーニングテクノロジー

参加者の中でも期待値が高かったのは、やはりこのトラックかなと思います。特にChatGPTをはじめとする生成AIの活用がどんな状況なのか、既に活用している先進事例はあるのか?と言った点は私も非常に気になったポイントでした。
結論から申し上げると、残念ながらAI、ChatGPTの効果的な活用事例等は、来年(2024年)に期待、ということだったようです。

ATDの公式レビューでもこんなまとめをしています。(日本語訳はGoogle翻訳をベースに筆者が一部加工)

「AI の活用方法: L&D 内での AI/ChatGPT の使用は、比較的短期間で爆発的に増加しました。AI への熱意は急速に高まっていますが、HR/L&D における導入はまだ初期段階にあります。人材開発の専門家は、好奇心、勇気、オープンさを持って最新の AI テクノロジーを習得し、ビジネスニーズと密接に関連したAI プロジェクトから始める必要があります。」

ATD23公式レビューより

参加者用のラーニングプラットフォーム

今回もこのような参加者用のラーニングプラットフォームが用意されていました。細かな点が色々と改善され、かなり使い勝手もよかった印象です。
あわせてwordlyという翻訳アプリも提供されていましたが(確か昨年から?)、こちらも現地参加者にもおおむね好評だったようです。

今回の学び

最後に、私なりの今回の学びをまとめてみました。

日本とグローバルとでは課題感が同じもの、違うものそれぞれありましたが、同じだからと言って、同じアプローチが良いとも限りませんし、課題感が違う中にも、実は同じような背景があったりすることもあり、今年もバーチャル参加だったとはいえ、大いに刺激や気づきを得られたATD-ICEでした。
来年のATD-ICEは、ジャズ発祥の街と言われているニューオーリンズです。
 
P.S
ATDの日本支部ATDメンバーネットワークジャパンでは、ATD-ICEのフォローアップイベントをはじめ、年間を通じて様々な活動をしています。ご興味ある方はぜひお気軽にご参加ください。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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