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小さな世界で。

この大きな一つの世界の中に、
“小さな世界”が多数存在している。

私たちはそれぞれの小さな世界の中で
ひとりひとり、懸命に生きていて

思いがけないところで、
その小さな世界と小さな世界が繋がっているのかもしれない。


ようやく昨日、読むことができた
一穂ミチさんの『スモールワールズ』。

6つの物語。

自分は経験したことのない境遇のはずなのに、登場人物たちに大きく共感できるような気がして、不思議な感覚だった。

物語を読み進めていくと
日常の中で、ちょっとした刺激や衝撃を感じたりもするのだけれど、それは非現実的ではなく、誰にでも起こりうることであって

その中で明確な“答え”や“正解”は見つからなくても、
割り切ることができたり、自分なりの答えに辿り着いたり、自分と誰かの間では、誰がなんと言おうと“それが正解”だったり…。

小さな世界で生きている誰かの物語を通して
「だからあなたも大丈夫。」
と、温かい手で背中を押されたような気分だ。



初めて読む作家さんだった。とても読みやすくて、物語が心にスッと入ってきた。
さらに、付属された可愛らしい栞を使うたびに顔が綻んだ。

特に
物語の中に、文章として明記されていない場面や登場人物の心境に思いを馳せて、あれこれ想像することが、ある種のミステリーを読んでいるようで、とても楽しかったように思う。


内容は伏せるけれど、作品の中に、
ほとんどが「手紙のやり取り」の物語があって、とても印象に残っている。
文章とは、こんなにも心を映し出すものか、と思った。

同時に、“言葉を知っているということの強さ”
知らない状態から“言葉を学んでいく過程の楽しさ”をひしひしと感じた。


たとえば
夜の散歩中にすれ違ったあの女性は、
「今、家に帰れない事情を抱えているのかもしれないな」とか

平日の日中に公園にいるあの子は、
「勉強よりも部活よりも、もっと楽しい世界を知っているのかもしれないな」とか

本当のことはわからないけれど、
目に映る人、一人一人に思いを馳せる気持ちが湧いてくる。

他者から見れば小さな世界かもしれないけれど、
自分たちにとっては、終わりなき、果てしなく大きな世界だ。



日が暮れると、街の明かりが増えていく。
夜は、街がたくさんの光で満ちている。

その光の数だけ、
人がいて、世界があって、物語があるんだと思うと

どうしても、見知らぬ誰かに思いを馳せてしまう。

その人が抱えている小さな世界は、自分とどんな風に違うのだろう。
その人の世界で、その人の人生を送るとしたら、どんな人生なのだろう。
今の自分と同じ景色を見て、どんな気持ちでいるのだろう。


今、目の前にいる人も。
今、すれ違った人も。

側から見ているだけでは決してわからない、
いろいろな感情や事情を抱えて、今日も自分の近くで生きている。
同じ一つの世界の中の、小さな世界の中で。

そんな光がたくさん溢れていて
健気で、愛おしい。

…そんな気分になった。



この小説を読んで

人の強さも、健気なところも
現実の優しさも、残酷さも感じた。

それも含めて今の自分のいる小さな世界を、
前よりも少しだけ、愛せそうな気がした。






2024.3.25

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