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父の人生を変えた『一日』その11~図々しさ~

その11 ~図々しさ~
 ㈱トーメンから配属地、配属部の希望提出依頼が来た。アメリカで働くことを考えていたのでアメリカで木材の仕事をしようと第一志望を東京木材本部と書いた。第2も第3希望も同じに書いた。本当は別々に違った本部を書かなければならないのだが頑固さを押し通した。
希望通り、本社東京木材本部に決まった。木材本部には新人5人が入った。私はアメリカ材の受け渡し部、東京外語大学インドネシア学科卒業の対中君は南洋材の受け渡し部に一橋大学卒の沢辺君は建材部に横浜国大卒の山崎君と香川大学卒の滝君は紙パイプ部に配属された。私だけが私立大学卒業であった。しかし誰にも負ける気はしなかった。アルバイトで研いだ仕事への執念はしっかり持っていた。
 インディアン(アメリカ原住民)の酋長のあだ名ジェロニモに似た木材担当の山田常務がいた。何時もタバコを買いに行く言いつけをさせられた。「おい、腕白今晩、新入社員全員を夕食に連れて行くので何時に待っていろ」と言われた。新入社員などが行けない高級店の『三井倶楽部』に連れて行かれた。全員私をのぞいて緊張していた。何か食べたいものは?と聞かれた。誰も何も言えなかった。『すいません、サローインステーキのフルコースでお願いします。』と、私が淡々と言った。皆もそれに同調した。最高の夕食であった。雰囲気と言い、味と言い天下一品の食事であった。新入社員では到底食べられない食事であった。
 食事後、常務に言った。「こんなすばらしいごちそうありがとうございます。地下鉄で独身寮に帰るにはこの雰囲気が壊れます。タクシー代をお願いします。」ぬけぬけと言った。
常務は私の図々しさには呆気にとられ面食らっていた。それ以来この常務に非常に可愛がられた。常務曰く私が自分の若いころに似ていると。私の結婚式でこの図々しさがこの常務から披露された。理由は解らないが私は偉い人に良く可愛がられた。


~倅の解釈~
 父は私立大学出身で、裕福とは程遠い家庭から出ていたので、総合商社に入社したこと自体が茨城県守谷市の「鈴木家」では誇りだったかと思う。新入社員というライバルたちと切磋琢磨するのが通常の社会人デビューであるが、父の目標、ビジョンはこの時点ですでにさらに先を見据えていた。
『アメリカで働く』
この学生時代描いた夢を実現させるためには何でも実践した。このエピソードがまさしく父から、私に放たれた大きなメッセージなんだと思う。小さい時からこの話は聞かされていた。
 父の振る舞いは図々しいと思われる場面が多いが、これは紙一重の部分があり、本心、本音、本質を実現するために本気で動くと、どうしても「図々しい」「出る杭」に見られてしまうのかもしれない。私が首都圏や海外へ近年飛び回っているのも長岡では「長岡を捨てた」など、たまに言われるが、父と同じように、私自身にも揺るぎない夢とビジョンがある。そのために一歩一歩邁進しているのである。本音、本当はこの一歩一歩を父と歩みたかった。
 『親父、先日ポートランドで図々しく、ヨシダフーズ吉田会長に甘えてきたよ』

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