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『結婚ばかりしていた指人形たち』


 私の過去の記憶を漁ってみると、必ず出てくるものがある。それは指人形で遊んだことだ。

 指人形というのは本来指に入れて遊ぶものらしいが、私の場合は違った。指人形同士を本の上(ポケモン図鑑など)で戦わせたり、あるいは会話などをさせて遊んでいた。

 指人形たちには、一人一人に年齢や職業、好きな食べ物などの設定があった。そしてほとんどすべての指人形は男という設定だったが、数人だけ女という設定の指人形がいて、男どもはしばしば女を求めて争った。今から思えばなんとも古風でグロテスクな設定だが、小学生が生み出す設定などそんなものだろう。

 例えば、私がお気に入りだった仮面ライダーブレイドの指人形は、2004年の時点で18歳という設定だった。強くて勇敢で、しかし不器用な性格だったブレイドは、ガオレンジャーに出てくるガオホワイト(女の指人形)が好き、という設定があった。ガオホワイトもブレイドと同じ18歳であり、二人は半ば両想いだった。

 ホワイトは指人形の世界において「かなり可愛い」という設定で、他の男たちから求愛される機会が多かった。中にはホワイトを誘拐しようとする輩もいて、その度にブレイドが助けに行った。ときには強敵も現れて、ブレイドは一度負けたりすることもあった。しかしそんなときは仲間たちと共に戦って、最終的には勝利をした。そしてブレイドとホワイトはより深く愛し合う関係になるのだった。

 いつのタイミングだったか忘れたが、ブレイドとホワイトは結婚した。結婚式でも一悶着(馬鹿な奴が結婚式を妨害した)があったが、最終的には結婚した。

 しかし、ブレイドとホワイトはすぐに離婚する。ホワイトは別の男と結婚して、ブレイドは他の女を探した。とはいえ、この頃の私は「なんだかんだあるが、ブレイドとホワイトが結ばれる」という最終設定を考えていたから、ブレイドとホワイトは再び結婚して、周りから祝福を受けるのだった。

 女の指人形は他にも数人いて、ブレイドとホワイトの物語がメインだとすれば、サブストーリーとして他の女を奪い合う男たち(本当に愚かな設定である)の物語も生み出していた。

 指人形の世界において何か物事を決めたりする際は必ず決闘を行うことになっていた。例えばAさんと結婚したい人たちが一同に集まって、本を武闘場に見立てて戦わせた。勝利方法は明確で、フィールドから落とせば勝利を得る。今から思えば相撲に近いシステムだった。そして最後まで勝ち残った男がAさんと結婚することができる。たしか、そんな設定を作ってひたすら戦わせていた。まったく古代的というか、今ではあり得ない設定を当時の私は考えていた。

 指人形遊びは小学生が終わる頃に辞めた。明確なきっかけはなかったが、おそらく中学生になって一人遊びをする時間が減ったからだろう。しばらくの間、私は物語を作ることをしなくなったが、大学時代に小説を書き始めることで再び物語を作るようになった。もちろん、戦いで結婚する相手を決める、なんて野蛮な設定はない。大学時代の私はすでに「結婚」に興味を抱かなくなった。それどころか、恋愛自体がわからなくなって、友情と愛情の境目すら曖昧になっていた。そんな私が「結婚」をかけて争う男など、描けるわけがない。

 小学生の私がなぜそこまで男女の指人形を結婚させたかったのか、今となってはよく覚えていない。ただ、昔の私は男女が結婚することは当然だと思っていた。そして自分も、大人になったら女性と結婚をするのだろうと自分勝手な未来を描いていた。結婚に憧れていたわけではなかったと思う。おそらく、結婚することが当たり前だと本気で思っていたのだ。だから平気で男女の指人形を結婚させていたのだろう。

 今の私は結婚に興味がないというより、結婚できるほど他人を愛することができない。だからというわけでもないが、自分が描く小説にも無意識に結婚を入れ込まないようにしている気がする。想像して描くことも小説の醍醐味だろうが、私が描く愛はどうしてもイミテーションになってしまう。そんなものを書き溜めたって、何も面白くない。しかし、愛を描きたいという欲望はある。なんだか人間らしくて、生命の匂いがして、生きる上で根本的に必要な愛を、私は描けるようになりたいが。

 かつてはあれほど指人形たちを結婚させていたのに。




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