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『ベジットを引き当てたおじさん』


 先日、『ドラゴンボール』の作者である鳥山明さんが亡くなった。私はタイムリーでドラゴンボールを見ていた世代ではないが、少年の頃にかなり影響を受けている。

 まず、ドラゴンボールのアニメを見ていた。あれはたしか、毎週火曜日の夜十時ごろTOKYO MXで放映されていたと思う。それから実家にドラゴンボールの漫画があって読んだ記憶もある。後はドラゴンボールのRPGゲームをやり込み、そこで様々なキャラクターを覚えた。

 ただ、私がドラゴンボールに関して一番覚えているのは、データカードダスと呼ばれるゲーム機械で遊んだことだ。その機械はゲームセンターなどに設置されていて、お金を入れるとカードがもらえる。そしてそのカードを使ってアクションゲームを行う。カードには属性や技、レア度が設定されていて、いわゆる「強いカード」が欲しかった私は、買い物へ行くたびにゲームセンターに立ち寄り、百円を入れてカードを集めるのだった。ゲームが面白かったかと言われると、正直あまり覚えていない。たしかコンピューターとジャンケンをして勝った方が攻撃する、みたいなシステムだったと思うが、そこに熱中した記憶はない。

 ドラゴンボールのデータカードダスは兄も一緒にやっていた。だから、その日も兄と二人でゲームセンターへ行き、いつも通り百円を入れてカードを買い、ゲームをした。

 あれはたしか、ゲームを終えて食料品売り場にいる母の元へ戻ろうとしたときだったと思う。私たちがゲームをしていた隣の機械で、おじさんがひたすらカードを買っていたことに気がついた。そのおじさんはどうしてそこまでカードを買うのだろうか。尋ねてみると、明快な答えが返ってきた。

「ベジットが欲しい」

 ベジットとは、ドラゴンボールの主人公である悟空と、悟空のライバル的存在であるベジータが、ポタラと呼ばれるイヤリングを使って合体した姿なのだが、そのベジットのカードはレア度が一番高く、非常に価値のあるカードだった。コレクション目的なのか、転売目的なのか、そこまではわからなかったが、とにかくおじさんはベジットが欲しかった。

 百円を入れて、「カードを買うだけ」を選択すると、カードが一枚出てきてゲームをせずに終わることができる。つまり、カードが欲しいだけの人は短時間でひたすらカードだけを手に入れることが可能だった。ベジット欲しいおじさんは、ひたすら百円を入れて「カードを買うだけ」を選択し、取り出し口からカードを取り出してはまた百円を入れてカードを買う、を繰り返していた。

 私たちはその光景が珍しく、ワクワクするから、後ろからじっと様子を見ていた。今から思えば、YouTuberによる『ベジット出るまでカード買ってみた!』を生で観覧している感じだったかもしれない。

 結局、数千円を使った頃だろうか。おじさんは見事ベジットを引き当てて、渾身のガッツポーズをした。後ろで見ていた私たちは拍手をして、諦めることなくカードを買い続けたおじさんを称えた。おじさんは私たちに一礼をして、その場から去った。

 少年だった私はこのとき、「これが大人なんだ」としみじみ感じた。自分はせいぜい一回か二回でお金が無くなってしまうから諦めもつくが、大人は欲しいという気持ちさえればいくらでもお金をつぎ込める。恐るべし、大人の財力。

 それからもしばらくドラゴンボールのデータカードダスをやっていたが、いつの日かやらなくなった。そしていつの日か、私も大人になった。ベジットおじさんは、今も健在だろうか。あの歓喜をまたどこかで味わっているだろうか。

 ドラゴンボールとはあまり関係のない話になってしまったが、私にとっては良い思い出話だ。鳥山明さん、私たちにワクワクをくれてありがとうございました。心よりご冥福をお祈りします。

 


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