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東海道新幹線の味【チキン弁当@東京駅】

小学生の頃、僕はこのお弁当を食べている。1980年代。そして去年、2020年の僕はもう一度、チキン弁当を食べた。これまでの人生で同じ駅弁を2回買ったのは、崎陽軒のしうまい弁当とチキン弁当だけだ。

1964年(昭和39年)東海道新幹線の開業とともに発売されたお弁当。当時は、食堂車の洋食コックさんがお弁当も作っていたらしい。今や東京駅のあちこちにある駅弁スタンドで売ってるし、品川や上野、大宮などの駅でも売っているロングセラー。

チキン弁当_キャプチャ_01_トリミング

「トマト風味ライス」と「鶏唐揚」の組み合わせ。“ケチャップ味”ではなくて“トマト風味”というところに、洋食コックさんが作ったというこだわりを感じる、というのは考えすぎだろうか。

ドライトマトのオイル漬けの酸味が効いていて、カレーライスの付け合わせの福神漬けみたいに、少しづつスプーンに取ってトマト風味ライスと一緒に食べるのがおススメです。鶏唐揚は、ちょっとスパイスが効いていて唐揚げよりもフライドチキンといった感じ。

2020年12月、久しぶりに出張することになり、東京駅に。行き先は長野。仕事の出張とはいえ、久しぶりの遠出に心は躍った。

ちょっと急げば間に合ったのに、一本遅い長野新幹線のチケットを購入して「駅弁屋祭」に駆け込んだ。店内を何周もして吟味した。ウニやイクラや前沢牛といった強豪を押しのけて手に取ったのが、チキン弁当。

もうすぐ80歳になる父親のことを思い出したから。

父親は、墓守りだった。ひいじいちゃんの代に三重県の四日市から東京に出てきたらしいけれど、お墓は東京に作らなかった。じいちゃんも作らなかった。

じいちゃんが死んでから、墓を受け継いだ父親は毎年2~3回は四日市に墓参りに行っていた。

正確には、東京から東海道新幹線で名古屋に。近鉄に乗り換えて、近鉄四日市駅から各駅停車で3駅先の塩浜駅にあるお寺に通っていた。

僕も父親と一緒に何回か行ったことがある。あるとき、父親が新幹線で駅弁を食べようと言い出した。他にどんなお弁当があったのか、ぜんぜん覚えてないけれど、僕はチキン弁当を選んだ。

正直言うと、あんまり「おいしい!」とはならなかった記憶がある。冷めてるし、ちょっとパサついてたし。

1980年代の話だから、今とは保存方法とかが違っていたのかもしれない。そういえば、その頃はペットボトルなんか無くて、プラスチックの容器にティーパックが入っていて、お湯を注いでくれる「ポリ茶瓶」という駅弁用のお茶が売られていた。そんな時代の話。

普段は厳しかった父親が買ってくれたのが嬉しかった。

墓参りのおみやげはいつも同じだった。四日市名物の永持(ながもち)と浜松のうなぎパイ。

一緒に墓参りに行った帰り路、永持を買うから近鉄四日市駅で降りると父親が言った。僕はホームのベンチに座って待っていた。いつもの永持は、わざわざ電車を降りて買ってきてくれてたのかと思って、申し訳ない気持ちになった。

長野新幹線の車内でチキン弁当を食べながら、少し感傷的にそんなことを思い出した。

ただ、長野新幹線には申し訳ないけれど、オレンジと白が組み合わさったチキン弁当のパッケージには、やっぱり東海道新幹線が似合う。

今度、東海道新幹線に乗るときには、3回目のチキン弁当を食べようか。


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