マガジンのカバー画像

運転手

25
あの世に送り届けるのが運転手の役目。 死んで終わりではないと思いたくなくて、こんな物語を書いています。
運営しているクリエイター

記事一覧

みれいの事情 運転手シリーズ

 肌寒さが忍び寄る空に、満月がこうこうと顔を出している。風はないのにやたらと冷え込んで、…

中島亮
2か月前
15

シシテノチ

 首を伸ばして、多賀はバックミラーを覗き込んだ。運転手の女を意識して、彼は自分の顔を確か…

中島亮
2年前
28

ツイてない!人の行き先:創作

深夜2時ごろ。赤坂でお客さんを乗せた。こんな時間まで仕事だったのだろうか?酒の匂いがしな…

中島亮
3年前
48

ある資産家の死について

雨が強くなってきたので、俺はワイパーのレバーをINTからLOへと下げた。 「結構降ってきたね…

中島亮
3年前
24

纏う気品

 物静かな痩せ方をしていた。しかしながら、骨と皮だけという印象ではない。年は老いているが…

中島亮
3年前
38

空と運転手

 雨で洗われた春の空は、紫がかっていた。それは薄い膜のようで、その下には真っ青な空が広が…

中島亮
3年前
325

セオと運転手

 助手席にセオがいるだけで、気分が重くなるという事を俺は忘れていた。 「何か言いましたか?」 「いや」  俺が短く返事をすると、彼女は「ふんッ」と鼻息を鳴らしたような気がした。泥でお気に入りのシャツを汚されたような気分に俺がなるのは、彼女の性格が悪いという事ではない。彼女が同行するという状況が問題なのだ。とはいえ、こんな状況でなくとも、セオと俺は冗談を言い合えるような間柄ではないのは本当の事だ。  誰しもが綺麗に死なない。死に方に美しさを求めるわけではないが、綺麗な死

都会の臭いと運転手

 人に酔うというのは、都会に眩暈する事だと俺は思う。駅前の交差点は一秒たりとも風景がじっ…

中島亮
3年前
44

正しさと運転手

 後部座席のお客さんは、無口ではあるが、無愛想という訳ではなかった。バックミラーを見る限…

中島亮
3年前
33

手と運転手

「日本語って『手』という文字を使った言葉が多いですよね」    お客さんが流暢な日本語でそ…

中島亮
3年前
25

海老ちくわが食べたかった。

 傘の柄を連想させるような、腰の曲がり具合だった。前かがみの姿勢のまま立っているという感…

中島亮
3年前
46

余命中の再会

「私の方が謝りたかったんです」    お客さんは言葉をためるように、口をもぐもぐさせて話し…

中島亮
3年前
39

嘘と運転手

 俺は、自分の感情を戒めるような表情をしていたと思う。それは、後ろにいるお客さんが原因だ…

中島亮
3年前
36

山と若者と運転手

「都会にいたほうが孤独でした」  そのお客さんがそう言った後、俺はバックミラーを見た。彼は左の方へと視線を移していった。それから、その視線をゆっくりと右へ戻した。カーブを曲がっていたわけではない。それに、見渡すような風景でもない。同じようなビルが、立ち並んでいるだけの景色だった。その行動一つだけで、空気が変わったような気がして、俺は息苦しくなった。その空気は蜂蜜をこぼしたような、ベタベタする感じだった。 「窓、開けてもいいでしょうか?」  俺ではなく、お客さんがそう言った。空