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審査員の方々へ

昨年の12月に「かながわ短編演劇アワード2023」戯曲コンペティション公開審査会の司会をご依頼いただきました。

アートマネージャーである私が、戯曲コンペの公開審査会の司会を行うというのはどういうことなんだろう?としばし自問自答したのですが、場の環境を整備するのがアートマネージャーの仕事のひとつだと普段から考えているので、そう考えれば役に立てることもあるだろうと解釈し、お引き受けすることにしました。

主催のご担当者の方々は、私のリクエストに対して非常に前向きに検討・実現してくださり、一緒に場を設計することができて、とてもありがたかったです。

そのリクエストのひとつに、審査員の方々に事前に手紙をお渡しいただきたいということがありました。参加アーティストにとって、それぞれ思い入れのある作品を、自分以外の人が、その人の価値基準で評価し、コンペティションという形で選ばれる/選ばれないということはとても残酷なことでもあって、しかもそれを公開審査で行うということは、参加アーティストにとっても負荷がかかることだと思います。でも、それはもちろん審査する側もそうです。

この場が少しでもよいものになればと書いた手紙なのですが、コンペティション後に何人かの方から、手紙を参考にしたいというご相談をいただき、私としては、業界がよくなるためにみなさんが活用してくださるなら、これ以上嬉しいことはないので、どうぞとお伝えしていたのですが、もう、いっそのこと、誰でも読めるように公開してしまえば、こういうことを必要としている、手紙の存在を知らない方に届くのかもと思い、主催側の許可もいただき公開することにしました。


かながわ短編演劇アワード2023 審査員の方々へ

 かながわ短編演劇アワード2023 戯曲コンペティション(公開審査会)で司会を務める植松侑子と申します。

 ご多忙の中、貴重なお時間を割いていただき、誠にありがとうございます。審査員として皆様のご協力いただくことになりますこと、心より感謝申し上げます。また、皆様の専門的なご判断や知見をお借りすることを大変嬉しく思っております。

 審査員としての皆様には、多大なる責任が伴いますこと、存じております。その上で、今回の審査に関して、あらかじめご注意いただきたい点がございます。失礼ながら、お手紙でのご挨拶となりますことをお詫び申し上げます。既に承知いただいていることもあるかと存じますが、この会をより一層充実したものとするため、何卒ご留意いただきたく存じます。

 このような公開審査会において、審査員の皆さまは、ご自身の発言が大きな影響力を持つこと、そして審査の結果が作り手の人生やキャリアに影響を与えることをすでに認識されていると存じます。以下は、ハラスメントを回避し、未来あるアーティストたちに対して公正かつ建設的なフィードバックを提供するためのお願いです。

<前提>
 場の設計として、公開審査会では、客席側にいる作り手たちは何も発言することができず、審査員は自由に発言することが許されています。もし審査会の中で間違った発言があったとしても、作り手たちがそのことに声を上げにくい場であること、一方的に言われていることを受け止めなくてはいけない、非対称性を持つ場となっています。
 この審査会で、作品への評価とは関係のないことで嫌な思いをする人が出ることなく、未来ある作り手たちのための有意義な場になればと思います。

<気を付けたいこと>

1.差別や偏見を排除する
 公開審査会では、応募者が発言することができないため、審査員同士のやり取りが注目をされます。作り手自身や、作品に登場する人物の属性(性別や年齢、職業、宗教、社会的出自、人種、民族、国籍、身体的特徴、セクシュアリティなど)に関し、特定のグループを差別したり、侮辱したりするような発言をしていないか、また、偏見や先入観に基づく発言をしていないか、注意を払う必要があります。

2.ミスジェンダリングを避ける
 応募者が性別や性自認を公表していない場合、名前や見た目で判断するのではなく、応募者に言及する必要がある場合には「彼」「彼女」ではなく「●●さん」や「作者」等、性別を問題にしない呼び方でお願いします。

3.プロフェッショナルな態度を保つ
 審査員の方々には、プロフェッショナルな態度を保つことが求められます。適切な言葉遣いを心がけ、若手の作り手に対して、傲慢な態度を取らないように、応募者に対して敬意を払うようにお願いします。作品に対する正確かつ建設的なフィードバックを提供し、作り手がさらなる成長を遂げることを支援していただけるようお願いいたします。

4.様々な視点を尊重する
 例えば、名前が日本人っぽいという理由のみで、応募者=日本国籍を前提とするような発言には注意が必要です。異なる背景や文化、経験を持つ作り手がいることは自然なことであり、思い込みに基づく発言や評価は注意が必要です。

 以上のお願いにご協力いただき、この審査会が作り手の才能や努力を認め、彼らの将来を応援するものであることを忘れず、公正かつ建設的な審査を行っていただけることを心より願っております。

 最後になりますが、何かご不明な点やご質問等ございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。審査会当日にお会いできることを楽しみにしております。

植松侑子

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