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【ショートショート】#14 幸せケーキ

 深夜12時。轟音が止み、静かな時間が流れ始める。それまで外は工事でもしているかの如くうるさかったのだけれど「ポーン」という音と共に静かに止んだ。

俺は恐る恐るカーテンを開けて外を見た。

するとさっきまでの狂気は嘘のように静まり返っていて、また、待ちゆく人たちも徐々に増え始めて来た。

「狂気は終わったのか?」

 狂気の嵐にさいなまれ、明日の自分に困り果て、夢はどこかに置いてきて、希望は遥か水平線。

そんなゴミのような生活が終わったのだ。

しばらくすると、本当にしばらくすると、また近くで「狂気」が始まったらしい。でもその狂気はどうやら自分達には関係のない話。すると俺のおじさんが一言。

「狂気がケーキを欲しがっている。俺は元々ケーキ職人だからそれを作ろう!」

俺は実家を改造しておじさんと一緒にケーキを作り始めた。おじさんの目論見通りにケーキは沢山売れた。そのケーキで沢山の人を満たした。かつてゴミのような生活をしていた俺にとって、信じられないくらい大金が入ってきた。だから結婚もできた。子供も生まれた。すごく幸せになった。

それからずっと俺はケーキを作り続けた。気が付けばあの狂気の日から80年経った。子供たちは孫を生み、そうして俺は奥さんと周りに囲まれて幸せになったのだ。

 街のゴミ捨て場。

そこに大量のケーキが捨てられていることに俺はとっくの昔に気が付いたけど、俺はそれを見ないふりをした。

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