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【短編】静かな世界へ花束を

 体の痛みにさいなまれ、ベッドの中にうずくまる。誰かの手が熱い。誰かの足が冷たい。心臓付近の筋肉が勝手に動く。背中に残っている傷跡が雨で軋む。残っているのは自分の頭と心って奴だけ。それ以外は全部他人の物。この体に慣れるまでは時間がかかった。今も自由とはいかないけれども、自分の仕事を全うできるくらいにまでは扱えるようになった。
 
朝起きて絶望にさいなまれた日々が懐かしい。気が付いたら体がそこにはなかった。
 
「・・・眠れない」
 
 体をベッドから引き起こし、熱くなった体を眺めてしばらくぼーっとしていた。隣を見ると同僚のセレンが金髪にくるまれていた。それをしばらく見続けていたがそれに飽きるとテーブルの上に置かれていた煙草を手に取ると部屋の窓に近づいてカギを外して煙草に火をつけた。
 
「この世の中を作ったのは誰なのか?」
 
 何もすることがない時に、これをいつも考えていた。夜寝るときとか、考えることを探すことがある。大体こういう時って自分に都合の良いことを考えていて、例えば自分がお金持ちになって欲しいものを色々買っていたり、自分が空を飛んでどこか遠くのほうに遊びに行ったり。
 
 でもだんだん飽きてくる。自分にとって都合の良いことだけ集めた妄想だとしてもそれが飽きてくる。飽きてくると共に同時に出てくる疑問が浮かぶ。
 
「この世の中を作ったのは誰なのか?」
 
 神様なのか?人なのか?それとも宇宙なのかって。考えても答えは出てこない。そうやってうだうだしていると眠っていることが多い。眠れない時はわざと体を起こしてこうやって何となく煙草を吸いながら紫煙の行方を追っている。
 
 季節は秋。あと少しで厳しい冬が到来する。この国、ヒトクに訪れる冬は言葉の意味を超えて厳しい冬がやってくる。1年のほぼ半分を雪に覆われるこの国では生活のスタイルを変えなければならない。
 
 国に住む人たちは全員がほぼ冬を乗り切るために生活をしているといっても過言ではない。まるでアリとキリギリスのアリのような生活。冬が訪れたとき、人たちはその厳しさから逃れるために地下へと身を隠すのである。
 

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