見出し画像

【ショートショート】#1 地球最後のあなたへ

 街を歩く、人がいて、物があふれる交差点。めっきりと寒くなって、それでいて人は暖かいって勘違いし始める時期。よくわからない言葉が電光掲示板に表示されて、それを眺めている。

「そうか、カウントダウンか」

私は交差点で男の人と手を繋いで数字が減っていくのを眺めていた。
今年も終わりだと何となく心の中を探るのだけれど、心の中には何一つ残っていない。忙しい日常が、忙しい恋愛が私を攻め立てた一年だった。

数字が0に確実に近づいていくと、隣の男の人が私の手を強く握ってきて、キスをしようと顔を近づける。

私は恥ずかしくなって「ちょっと・・・」と顔をそらすと目の前に広がっていたのは同じような光景。多数のカップルがキスをしていたのだけれど、何故か泣いている人が沢山いる。

「涙?悲しいの?寂しいの?悔しいの?」

 周りからはすすり泣く声と、怒号が響き渡る。私は何が起きているのかわからないまま、男の人の手を振り払うと走り出した。

電光掲示板の下に行くと、手にベルを持った女性が立っていた。その女性はパーカーのフードを深々とかぶり、目線を落としてベルを鳴らす。

「カーン・・・カーン・・・・」

 ベルの音が交差点に響き渡ると、世界が一瞬静止した。次の瞬間、街に激震が走る。

「・・・・そうか、私は最後まで・・・・。そうか・・」

 その日、地球上からその町は消えていった。私たちは知らされていた終わりに向かって、ただ日常を過ごすことしか出来なかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?