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【ショートショート】#6 隙間三行

 世界の隙間を覗きたい。そんな気持ちで山とか海とかに出掛ける。でもそんな隙間はどこにも無い。グランドキャニオンにならあるのだろうか?それとも日本海溝?マリアナ海溝?切れ目ならば世界の隙間がのぞけるのかもしれないと僕は毎日そんなことを考えていた。

 ある日、僕は手を切ってしまった。するとその隙間からは赤い血液が流れだしてくる。そうか、切れ目は作ることが出来るんだと僕はそこで感じた。

 次の日から僕は家や学校のグラウンド、それから公園。色んな場所に行くとスコップで少しだけ穴を掘ってはそこを眺めていた。何かがそこから出てくるんじゃないのか?そんなことをする毎日。

 でも、高校生ぐらいになるとそれもやらなくなった。持っていたスコップをスマホに変えて、自然の声を聞かない代わりにイヤホンを耳に入れ、お気に入りの音楽を流している。

 そうやって過ごしているある日の事、電車に乗ると座っている人の間に隙間を発見した。その隙間は埋まることが無いまま次の駅、次の駅と電車が進むが一向に埋まらない。その様子を不思議な顔をしていると脇腹を肘で小突かれる。顔を動かしその先を見ると高校の同級生だった。

「おい、あそこの間が空いてるじゃん?おまえ座らないのか?」

「うん・・・僕はいいよ。何となく嫌なんだ」

「そうか、だったら俺が座るぞ」

 そういうと同級生はその座席の隙間に腰を下ろした。

 自分が見つけた世界の隙間を埋めたのはそんなに仲の良くない友人で、その友人は僕に話しかけることもなくスマホに目を落としていた。

次の瞬間、僕はまた新しい隙間を見つけることになる。

それは人の間。つまり人間って事だったのかもしれない。

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