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【ショートショート】#11 街角宝石

傘をさして街を歩く。私が落ち込んだ時、元気のない時は決まっていく場所がある。それはこの街に初めて来たときに道が分からなかった私はこの宝石店に足を踏み入れた。何のことは無い。ただ道を聞こうと思っていたから。それでこの宝石店には品の良い店主と若々しいおばあさんが切り盛りしている。

 そのお店に飾ってあるダイヤとか貴金属は見る者を魅了し、虜にしてしまう。人の好い店主。落ちつける空間。全てがそこには揃っていた。私はこの街で、そう、この街で新しく始めた自分の人生のご褒美に、ここで売っている見事な宝石を購入しようと考えていた。

 今日もそのショーウインドウの前に立つと、ガラスケースに入れられた宝石を眺めていた。するといつもと違ったのがいつもは居ない女の子が同じようにショーケースをながめていたのだ。

 理由は知らない。知らないけど、きっとこの子もこの宝石に惹かれてきたのだろう。しばらく私と二人きりでそのショーケースを眺めているとその女の子が話しかけて来た。

「おねーさんはこの中の宝石が欲しいの?」

 なんの屈託のない笑顔で語り掛けてくる女の子。私はその無邪気な顔を見ていた。

「うん・・・そうだけど?これを買うことが今の目標かな?」

 すると女の子はかがんで足元にあった少し大きめの石を持ち上げて私に見せる。

「・・・ほら、これでガラスをたたき割ればこの宝石を手に入れることが出来るよ?」

私はあわてて女の子の腕を掴んだ。

「だ・・・だめだよ!そんなことしたら泥棒になっちゃう!」

腕を掴まれた女の子はクスクスと笑うと私を指さした。

「憧れや目標がショーケースに入っている。きっとあなたの心は悪い大人に泥棒されたんだろうね」

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