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その青い世界、赤い冒険者が歩く時 中編 5、サラリーマン、最後の会話劇

 「会社を退職する」には結構手続きが結構あります。辞めるにあたっての色々な制約があったり、保険が外れたりします。そういった事務手続き、会社への返却品、事務所内にある私の荷物。そんなのを片付けていかなければなりませんでした。
 
 その手続きをするために会社の上司と総務2名の方が寮に来てくださいました。ちなみにこの時点で私の上司は定年や部署移動があって変わっており、前の人とは全く違う人になっています。

 手続きの内容としては健康保険、失業保険、住所の変更、許可証の返納、作業着の返納などについての説明です。結構色々あって話も長くなってしまったのですが、丁寧に説明してくれました。
 
が、ここで私は「サラリーマンとして、最後の会話劇」に遭遇します。
 
 それは事務員の女性の方が私に説明をしているときでした。
 
「遠くの方から何か音がし始めました」
 
私はエアコンかな?とか上を見たり、換気扇の方を見ましたが音の発信源はそこではなくて、発信源は私の隣でした。
 
「隣にいたもう一人の男の事務員の方が、寝ていていびきをかいていました」
 
 「社員が病気で退職する」しかも本人が希望していなくて病気が治らずに仕方なく。その最後の説明の時に、寝ていたのです。見ている人からしたら度胸が凄いなとかそれは酷いなということを感じた方もいると思いますが、私が思ったのは
 
「そうか、もう、俺はこの会社に要らないってことなんだ」
 
 そう思いました。実はこの場に来てくれた上司と女性の事務員の方は「元々私と同じ会社」そして寝ている男の事務員の方は「合併した先の人」つまりそういうことです。
 
 この男の事務員にとって私は「同じ会社でありながら、違う会社の人」だったのです。もう同じ社内でしかもこういう場で居眠りができるということは、他の会社の人が辞めるという無関心さからでした。
 
 私は今の今まで会社にとって復職できなかったこと。もう少し、自分の力を会社の為に使えたらと考えていました。いわゆる不甲斐ない、迷惑をかけ続けた自分が悪いんだと思い込んでいたのですが、彼のこの行動を見た瞬間に頭に言葉が生まれました。

「ああ、やっぱり辞めるべきだったんだろう」
 
しかもこの男の事務員の方が寝ていることを私含めて3人が気が付かないふりをしていたので
 
「ああ、そうだ、サラリーマンってのはこういうのを気にしちゃいけないんだ」
 
ということを思い出しました。
 
 社名は同じだけれど、会社の中はバラバラ。誰もが信じられないくらい他人。そういう環境にシフト変化した状況で俺に帰る居場所はないんだな。そういう風に思える最後の会話劇でした。
 
 ともかくそういったこともありましたが、所定の手続きを全て終えた後、私に言い渡された寮に入れる最後の時期を言い渡されました。
 
「2019年の8月いっぱいまではいてもいいけど、早めに出て行ってね」
 
 ということです。会社は私の精神的な余裕とかそういうのを考えないので、当然会社の都合を押し付けてきます。これは仕方のない事です。正直一人では長野に帰れる自信が全くなかったので、私は有ることを母親に相談しました。
 
「本当に申し訳ないんだけど、迎えに来て欲しいと」
 
 2019年7月後半。私は迎えに来た母親と実家に帰ることに成功しました。そしてこれからの生活が今後の人生を決めていくことになるのです


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この物語で書かれていることは全部「ノンフィクション」です。内容は私が2014年頃に病気になり、現在まで続くまでの時間に起きた出来事です。 …

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