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臓器移植について当事者が必死に調べてみた

 僕は現在、肝臓の難病を患っていて、助かるには肝臓移植を受ける必要がある。そんなわけで、臓器移植に対して関心増し増しなわけだ。

 この記事は、他人の肝臓が欲しくてたまらない僕がなんとかして他人から肝臓を入手するために臓器提供を受けたい当事者の目線から日本の臓器移植を巡る問題について勉強したり考えたりしたことを書いたものだ。

欧米と比べて理解が進んでいない日本

 さて、そんな僕は将来、肝臓移植を受けられるのだろうか? 日本の臓器移植の現状を見てみよう。
 2019年のデータでは、移植を希望している人が14,229人いて、そのうち臓器移植を受けられたのは480人だったようだ。約3%の人しか臓器移植を受けることができていない計算になる(注1)。

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画像1:日本で移植を受けられる割合/日本臓器移植ネットワーク

 やばくね? 俺助からなくね?
 3%ってガリガリ君の当たりの出る確率と同じくらいらしいぞ……ガリガリ君なんて1回も当たったことないよ。
 日本では、移植希望者数に対して臓器提供数が圧倒的に足りていないらしいことがわかった。

 一方、外国と比較してみると、日本は欧米諸国より提供数が圧倒的に少ないようだ。人口当たりの臓器提供数は、スペインやアメリカなどの欧米諸国と比べると日本は1/30以下である(参照1)。
 そして、冒頭の意思表示の話に戻すと、日本で意思表示をしている人は全体の12%程度(2017年)という低い値になっている(参照2)。

 日本は臓器提供と移植医療について、欧米よりも理解が進んでいないと言えそうだ。当事者としてはこれはとてもとても困る。
 また、このような現状のため、億単位で募金を募って海外に渡航して移植を受けなければ助からない人が毎年いるわけだ。これは国際問題であり、日本が国として取り組まなければいけない問題である。

 何より、このままだと「貴文ちゃん(32歳♂)を救う会〜貴文ちゃんを救うために1億円の寄付を」が発足してしまう(いっっっちばん可愛く撮れた写真使おっと)。

この記事の目指すところ〜意思表示を増やしたい

 日本の臓器提供が増えない要因の1つである意思表示が少ない問題の解決を目指している。

 臓器提供数が増えてくれると僕が助かる確率が上がるし、そのために意思表示が増えることが重要だと思っている(注2、3)。しかし、ただやみくもに「意思表示してください」とお願いするよりも、「なぜ臓器提供が少ないのか?」「なぜ意思表示が少ないのか?」という原因を明らかにすることが近道だと思う。
 そういうわけで、この記事では、臓器提供の論点を整理し、臓器提供の意思表示をする人が増えることを目指している。

臓器移植の基本知識

 日本で臓器提供が増えない理由について考える前に、臓器移植に関する基本的な知識を整理しておく。

臓器移植ってどんな治療なの?

 臓器移植は、病気や事故で臓器が機能しなくなった人に、他人の健康な臓器を移植する治療方法のことだ。臓器移植は、他に有効な治療法がないときに選択される
 僕の場合、血液をサラサラにする薬を飲んで血栓予防を行ったり、カテーテルで肝臓血管を開通させる治療を行っているが、それらが効果を示さなかった場合、最後の救命手段として肝臓移植を受けることになる。移植の成功率は臓器によって様々だが、肝臓の場合は5年生存率は平均して80%程度である。

臓器移植の種類は?

 臓器移植は、亡くなった人がドナーとなる死体臓器移植と、生きている健康な人がドナーとなる生体臓器移植の2種類がある。生体臓器移植を行う場合はドナーの生命に危険が及ばないことが第一優先となる。死体臓器移植は、さらに心停止後臓器移植脳死下臓器移植の2つの種類がある。

 そしてそれぞれ以下のように移植可能な臓器が異なる。

心停止後:腎臓・膵臓
脳死下 :腎臓・膵臓・心臓・肺・肝臓・小腸
生体  :腎臓・膵臓   ・肺・肝臓・小腸

脳死後と心停止後の臓器提供の違い/日本臓器移植ネットワーク

 脳死下であっても心臓は動いているが、心停止すると血流が途絶えて臓器のダメージがどんどん進むため、虚血に弱い臓器は移植できなくなる。肝臓を患っている僕は、脳死下肝移植と生体肝移植のみが適用となる。

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画像2:脳死後と心停止後の臓器提供の違い/日本臓器移植ネットワーク

 見ての通り、脳死下での移植が最も適用臓器が多くなる。「だったら脳死下での臓器移植を常にやっちゃえばええやん?」と思った人もいるかもしれないが、そういうわけにはいかないようだ。
 まずそもそも「脳死状態の人」というのは珍しく、あまり発生しない(注4)。また「心停止による死」と比べて、まだ死の概念として広く浸透していないため、死として無条件に受け入れてもらえる状況にない。提供意思表示カードに脳死後と心停止後が選択式になっているのはこれが理由である。

移植した人のその後は?

 レシピエントはその後、順調に回復すれば日常生活が送れるようになり、仕事への復帰も望める。ただし、食事の制限があったり、拒絶反応を抑えるため免疫抑制剤を一生飲み続ける必要があったりと、生活上の制限がある。また、免疫抑制剤によって免疫力が低下するリスクも生涯付きまとう。
 レシピエントの予後は、5年生存率で評価される。成績は臓器によって様々だが、だいたい80〜90%くらい。

 また、生体臓器移植のドナーは、手術後は健康に元の生活に戻る。しかし、肺を提供した場合は心肺機能の低下、腎臓の場合は臓器が1つになって腎臓病のリスクが増えるなどのデメリットもある。また、生体肝移植では、5000例のうち1例ドナーが死亡した例もある。

臓器提供の意思決定は誰がする?

 死体臓器移植は本人とその家族、生体臓器移植はドナー本人のみ、である。
 正確に書くと、死体臓器移植は、NGの場合は、「本人と家族のいずれか1人」の反対意思があれば提供されない。OKの場合は、「家族全員」の意思で提供される。提供したくない場合は、意思表示をしておけば確実に提供されない。提供したい場合は、意思表示していても家族のうち誰か1人でも反対すれば提供は行われないことになる。
 家族が最終的な判断を下す、ということは僕は最近まで知らなかった。

なんで日本は欧米よりも臓器提供が少ないの?

 さて、最初の問いに戻ろう。
 どうして日本は欧米よりも臓器提供が少ないのだろうか? 要素分解して考えてみたい。

 臓器の提供者(ドナー)数を決めるものは、大きく2つの要因に分けられる。それは、
・臓器移植を支える医療システム
・臓器提供の同意を増やす
行政システム
である。
 2つの要因に分けられるというロジックの詳細は「補足:臓器移植の論点整理」を参照してほしい。

臓器移植を支える医療

 日本臓器移植ネットワークや日本移植学会のHPの一般向けページを見ると提供同意に関する記述が多い。しかし、移植を支える根本は医療システムである。それが整っていないと、いくら提供意思がが増えても移植までたどり着かない。医療者側の立場からなされた臓器提供増加のための施策提言資料には、以下のような記述がある。

 法律、保険制度が整備されても、実際の臨床現場での医療システムに問題があれば移植医療は普及しない。脳死診断、臓器提供のプロセスなどを医療者の過大な負担なく行うことができ、有効に臓器提供の意思を生かすための移植医療システムが必要である。この点が、欧米、韓国との大きな相違点である。

臓器提供増加のために必要な施策的課題/特集 1「移植医療の未来像―次の半世紀へ向けて―」

 資料には、具体的には以下のような施策が提言されている(注5)。
A.法的脳死判定を行える体制づくり
B.臓器提供の意思確認機会の確保
C.レシピエントの意思確認の早期化

 また、そもそも移植を行えるほど設備の整った病院の数は、2021年時点で370施設に限られている(参照3、4)(注6)ので、これを増やす施策も必要だろう。

臓器提供の同意を増やす

 医療システムが移植問題の根本であると書いたが、一方で、臓器移植は「提供に同意が必要」という特徴がある。そして、日本ではこの提供に関する意思表示率が極めて低い(12%)ことは最初に述べた。
 よって、提供に関する意思表示を増やすことも大きな課題であると思われる(注2、3)。

 まずは、提供同意数に大きく影響していると思われる OPTING IN / OUT 制度について説明したい。

OPTING IN / OUT 制度

 臓器移植は、「"提供しない"がデフォになっている、つまり意思表示しない限り臓器提供は行わない OPTING IN 制度」を採用している国と、「"提供する"がデフォになっている、つまり反対しない限り臓器移植を行う OPTING OUT 制度」を採用している国とがある。日本は OPTING IN 制度だ。提供がデフォになっている OPTING OUT 制度の国のほうがドナーが増える傾向が出る。

画像3:世界の臓器提供数(100万人当たりのドナー数)/日本臓器移植ネットワーク

 注目すべきことは、OPTING OUT も OPTING IN も提供可否の自由は確保されている、ということだ。ただしこれは、「制度が人民に周知されている」というとが前提になる。知らない間に臓器提供されてしまうのは、提供する/しないを自分で決められるとは言えない。
 日本も OPTING OUT 制度を採用することで、臓器提供が増える可能性が高い。制度の周知を行った上で、OPTING OUT 制度を採用するのは、日本の目指して欲しいところだと思っている。

 しかしながら、アメリカやイギリスのように、OPTING IN 制度の国でもドナーが日本よりもはるかに多い国もある。日本は OPTING IN 制度の国の中でもドナー数が少ない。意思表示に関することで、他にも要因があると思われる(注7)。

筆者が着目する課題

 筆者は医療に関して知見がないため、医療システムにアプローチするのは現状では難しい。そこで、まずは提供同意を増やすことを目指す。ここでは的を絞った課題に着目した議論をしたい。

 僕は、3つの課題を感じている。それは、
1.臓器提供意思表示をする機会/モチベーションがない。
2.意思記入欄がわかりにくい。

3.「脳死」の理解が進んでいない。
である。

1.提供意思を記入する機会/モチベーションがない

 免許証や健康保険証の裏に臓器提供の意思表示を記入できる欄があるのを見たことがあると思う。ここに記入する、もしくは記入してみようという機会はあっただろうか?
 現状、ここは自主性に委ねられていて、ここに記入する社会的な機会は特に確保されていない
 臓器提供は、本人にとっては死後の問題である。そのため、提供したところで本人にあまりメリットがない。いわばボランティア活動である。僕のように当事者でもない限り、意思表示するモチベーションが湧く人が多いとは思えない

 つまり、意思表示のきっかけがなく、モチベーションも湧かないような社会設計になっていると言える。
 この課題について、僕なりに改善点を考えて別記事を書いたので読んで欲しい。

2.意思記入欄がわかりにくい

 臓器提供の最終判断は家族に委ねられるとはいえ、本人の意思表示は家族の判断の助けになるため、非常に大きな意味をもつ(注2)。
 そしてその提供の意思表示は、健康保険証や免許証の裏にある臓器提供意思記入欄によって主に行うことになる。さらに、多くの人が一番最初に「臓器移植」ということを考えるきっかけになるのは、提供意思記入欄になるだろう。
 そんな意思表示の手段のほぼ全てを占め、かつ、初めて臓器移植について考えるきっかけである臓器提供意思記入欄は、めっちゃわかりやすくデザインされている必要があるはずだ。実際に見てみよう。

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画像4:健康保険証の裏

 めっちゃわかりくい……と思うのは僕だけだろうか?

  ここがもっとわかりやすくなっていれば、もっと意思表示が増えそうだ。
 この課題についても、僕なりに改善点を考えて別記事を書いた。

 記入する機会やモチベーションがなく、加えてわかりにくとなると、自分の意思で臓器提供について勉強して記入することになる。よほど高い社会意識がない限り、そんなの放置になるに決まっている。

3.「脳死」の理解が進んでいない

 心臓停止後と脳死後では提供できる臓器の数にかなり差がある。そのため、意思表示の欄も、それらを選択できるようになっている。
 しかし、脳死というのがどういうものなのかわからないと、選択することがそもそもできない。

 日本臓器移植ネットワークのHPには、「脳死は回復しない」「専門家が判定します」と書いてあるが、本当に「はいそうですか」と納得して記入できるだろうか?

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画像5:脳死とは/日本臓器移植ネットワーク

 もしそれが間違っていたり、判定を誤ることがあれば、助かる可能性があるのに内蔵を抜き取られて死んでしまうことになる。記入する側も命がかかっている。万が一を考えて「提供しない」という判断をしたくなるだろう。

 脳死について専門外の人でも納得できるようまとまったサイトがもっと増えればいいなと思っているのだが、あまり見当たらない。
 そこで、脳死については以下の記事にまとめていくことにした。ただし、かなり専門的な内容なので、ゆっくり勉強しながら書き足していきたいと思っている。

 これら3つの課題は、OPTING OUT 制度 であっても同じである。もっというと、OPTING OUT 制度を採用する前段階として以上の3つの課題を解決しておいたほうが良いと思っている。

注1)臓器移植実施数は データで見る臓器移植/一般社団法人 日本移植学会 の「日本における脳死、心停止下臓器提供による臓器移植件数の推移」のデータを参照した。移植希望者数は 移植希望登録者数/日本臓器移植ネットワーク のデータを用いて概算した。なお、生体臓器移植は実施数データに含まれない。

注2)事前に意思表示がなかった場合、「臓器提供を承諾する」と答えた家族の割合は49.1%。一方、事前に提供意思表示があった場合、「意思を尊重する」(「臓器提供を承諾する」ではないが)と答えた家族は87.4%。事前の意思表示が家族の判断に影響すると言って差し支えないだろう。

平成29年度 > 移植医療に関する世論調査 > 2 調査結果の概要 > 3.臓器提供に対する意識について/世論調査

注3)2016年のアンケート結果を見ると、記入意思はあるが記入に至っていない潜在層がわかる。「既に意思表示をしている」が13.6%。そして、記入に至っていないが「意思表示をしてみたい」が27.0%いることがわかる。さらに、このうちの90.6%が死後に臓器提供しても良いと考えているようだ。

平成29年度 > 移植医療に関する世論調査 > 2 調査結果の概要 1 > 図5/世論調査

注4)人工呼吸器がない場合、心停止と脳死はほぼ同じタイミングで訪れるため、設備の整った病院以外では脳死状態は基本的には発生しない。病院内であっても、窒息や一時的に心停止状態になって脳への無酸素状態が長く続いた場合、頭部外傷、頭蓋内出血など、頭蓋内圧が亢進する要因となるような限られたケースでしか脳死状態にはならない(一般的な病気で亡くなるケースは脳波があるため脳死にはならない)。
 一方、心停止による死自体は一般的であるが、「心停止してかつ臓器提供が可能なケース」は非常にまれである。脳死ほどの設備は必要ではないが、手術室のある病院内で心停止を迎える必要がある。さらに、「ドナーになれるほど体は健康なのに心停止した」という特殊な状況である。

立花 隆(1988)『脳死』中央公論新社 P209

注5)Aは「 法的脳死判定を行える専門医が少ないので確保する体制の構築」についての提言、Bは「患者の回復が絶望的となった段階で初めて提供の意思確認が行われるプロセスは、主治医と家族双方の精神的負担が大きいので変えるべき」というプロセス改善の提言、Cは「移植を受ける人(レシピエント)の移植手術を受けるかどうかの意思確認を、危篤患者が脳死とされうる状態になるもっと前の段階で始めるべき」というプロセス改善の提言である。

臓器提供増加のために必要な施策的課題/特集 1「移植医療の未来像―次の半世紀へ向けて―」

注6)「娘は、脳死後及び心臓が停止した死後のいずれでも提供すること、またすべての臓器を提供することを意思表示していました。娘の意思に従い、脳死後の臓器提供をお願いしましたがその病院ではできないことが分かり、心臓が停止した死後の提供を決断しました」とあるように、脳死下の提供が病院の問題で不可能だった例がある。

天国へ行ったら、一番に娘を褒めてあげたい。 臓器提供ご家族の手記/日本臓器移植ネットワーク

注7)スイスが欧州で臓器移植率の低い国グループから抜け出すには、本当に推定同意方式しか方法がないのだろうか?
 マルティノーリさんとマラクリダさんの答えは「ノー」だ。その理由は数十年にわたるこれまでの経験に基づく。推定同意方式のスペインは欧州で最高の臓器移植率を誇るが、同意方式のティチーノ州もスペインと同レベルの臓器移植率を達成した。
 二人の医師にはそれぞれ別々に取材をしたが、二人の意見はまるで同じだった。家族が臓器提供を承諾するかどうかは、その家族と医療従事者との間に信頼関係があるかどうかにかかっていると二人は強調する。そして、こうした信頼関係は意識的に築いていかなければならないと話す。
 スペインは法律上は推定同意方式だが、実際は臓器提供が家族の意向に沿っているかどうかを確認している。また、臓器移植に関し専門的な研修を受けた医師、看護士、臨床心理士でチームが組まれ、スタッフが連携して本人と家族のケアに当たる。これがスペインやティチーノ州でドナー数が増加した本来の理由だと二人は語る。

本人の事前同意なしで臓器提供 スイスで実現するか?/SWI

参照1)IRODaT Newsletter 2021/IRODaT の「International Registry in Organ Donation and Transplantation
参照2)平成29年度臓器移植に関する世論調査/内閣府 の「(3) 臓器提供の意思の記入状況」
参照3)ガイドライン上の5類型に該当する施設(令和3年3月31日時点)
参照4)臓器提供施設の手順書(第2版)「第4章 臓器提供施設としての要件」

参考サイトURL

1.臓器移植医療の現状と対策/第50回 臓器移植委員会 資料2 2019.6.21
 厚生労働省が移植を支える医療システムの改善のために取り組んでいる内容が「移植医療提供施設における環境整備」で参照できる。

2.諸外国における臓器提供推進システム―制度,組織行動の視点から―/特集「拡大臓器提供推進委員会 2012 年度」
 スペインの臓器移植を支える社会制度の整備の取り組みや、OPTING IN / OUT の制度のさらに詳しい解説があるので参照されたい。

3.生命観の国際比較からみた臓器移植・脳死に関するわが国の課題の検討/保健医療科学 2010 Vol.59 No.3 p.304-312
 臓器移植の問題点について、生命観や宗教などの社会的・文化的要因の国際比較から検討した研究。

 日本では若い世代、高学歴の人々ほど臓器移植について肯定的な傾向が認められた。脳死については日本では「(どのようなものか)わからない」とする割合が欧米諸国に比べて高いことが特徴的であった。

 僕の難病が判明した経緯やその後については↓の記事を読んで欲しい。

補足:臓器移植の論点整理

 日本における年間のあらゆる死亡ケースに、様々な減少要因がかけ合わさり、一部の残ったケースがドナー適合数となる。すなわち、ドナーを増やすということは、それぞれの減少要因の減少率を軽減する(割合を増加させる)という問題である。以下に論点となる減少要因を整理した。

年間死亡者数からドナー適合者が絞られていく過程

図中の日本の年間死亡者数は(参照4)、ドナー数は(参照5)を参照。

 日本の年間死者数は固定。①の割合が増えるのはむしろ不幸なことなので増加させることは考えない。また、②、③は非常に重要であるが、1.医療体制に関する問題が大きい。④も各病院の医療水準に左右される。これらは個人の活動ではアプローチが難しいと判断したのでいったん置いておくことにした。
 最後の⑤は、提供同意に関する問題である。ここに関しては、個人レベルでアプローチできそうだと感じたため、問題を⑤に絞ることにした。

 ⑤の小論点として、「OPTING IN / OUT 制度」や「医療者の家族への意思確認機会の担保」などに加えて、
1.臓器提供意思表示をする機会/モチベーションがない。
2.意思記入欄がわかりにくい。
3.「脳死」の理解が進んでいない。
があると考えている。

 ただし、⑤の要因がどれくらい大きいものであるかは筆者は分かっていない。もしかしたら①〜④の時点で欧米と決定的な差がついてしまっているのかもしれない(注6、7)しかし、記入率が12%というのは明らかに低い値なので、⑤の要因に対処して記入率を上げることは有用だと思っている。

注6)古いデータであるが、84年から85年の1年間で、脳死の症例は全国で818件発生しているようだ。

立花 隆(1988)『脳死』中央公論新社 P43

注7)「15 歳以上の『脳死とされうる状態』を呈した患者に際して選択肢提示を実施していますか?」に対して「選択肢提示を実施していない」が41%(386施設中159施設)。実施していない施設のうち、「体制未整備」が18%(117施設中21施設)、それ以外の理由、体制未整備以外の要因で選択時提示を実施していない施設が92%。このことから、④の改善による効果は大きそうなことがわかる。

脳死下臓器提供の現状に関わる意識調査 令和二年一月/日本救急医学会 P8

参照4)3 死亡 (1)死亡数・死亡率/厚生労働省
参照5)脳死臓器移植の分析データ/日本臓器移植ネットワーク


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