#5 出発しないのか? …まず換金から

出発フロアをふらふらとうろつきながら、僕は換金所を探した。換金などどこでもできるだろうが、日本でできることはなるべく済ませておきたかった。
ネットの情報によると空港内に何か所もあるとのことだったので、おそらくこのフロアにもあると踏んでいたが、なかなか見つからない。やはり来る途中に見かけたところに戻ってみるかと思っていたら、それらしき小さな列が目に付いた。もっと行列ができているかもしれないとも思っていたが、意外にも小さな窓口で並んでいる人も少なかった。
早速僕も列に並んで、他の人がどのように換金しているのかを盗み見ていた。
なるほど、並んでいる最中に先にあの案内のおばちゃんが聞きに来てくれるのか。
間もなく僕の順番が回ってきて同様に渡航先(イタリア)と金額を告げると「では○○ユーロですね」とおばちゃんは手元の紙に何か記入し、窓口まで案内してくれた。窓口で担当者の丁寧な確認が行われ、希望の金額分のユーロを受け取った。初めてのユーロはピン札で、まるでボードゲームのおもちゃのお金のように思えた。やはり日本で換金してよかった。僕は大切に財布にしまった。

恙なく換金が済んだように思えるが、実はそうではなかった。

目的地がイタリアなのは間違いないのだが、今回トランジットで大連と北京を経由することになっている。
特に北京では無料のホテルを予約しており、一泊宿泊する予定となっている。
※中国国際航空では条件に合致すれば乗継宿泊サービスを受けることができる。チケット予約時に特にサービスの案内等はされないため、自らホームページ等で調べる必要があるようだ。僕もネットの旅行体験記等からたまたま情報を入手し、ホームページの電話番号に直接電話して予約をした(日本語のできる中国人の方で丁寧な対応をしてくれた)。

そのため僕は少しだけ、中国のお金「元」にも換金しておく必要があった。
しかし、僕は案内のおばちゃんに伝えるタイミングを逃してしまった。窓口で言えばよかったのだが、面倒に思われたらどうしようとか、後ろの人を待たせてしまったら申し訳ないとか、そんなことを思っている内に、そこでも機を逸してしまった。

僕はこういうことをよくやってしまう。

優先席を譲る行為から、好意をもった女の子へのアプローチまで。

判断力、反射神経、行動力、スピードなどのステイタスが低いのだ。

とはいえ誰も気になどしていないのだから、黙って並びなおせば良かっただろうし、それが気になるのなら、「いやぁ実は~」なんてバカな振りして案内のおばちゃんに話せばよかったのだ。そして僕は、こういうテクニックや道化を演じることは日常的によくやる(特殊能力?お助けカード?みたいな)のだが、この時ばかりはそれをやる気にはなれなかった。
出国審査後にも換金所があるという案内を見たこと、これから他にやるべきことがあるという心配、お腹がすいていたこと、ユーロにだけでも換金出来た小さな達成感、その他あらゆる要素が絡み合って、僕に仮面を被るMPは残されていない、あるいは節約していたかった(HPなのかもしれない)。

日本ですらこんな状態、しかもまだ始まってすらいないのに、どんどんパラメータを削られていく。

僕自身の心の弱さによって。


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