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「料理できないし、家はゴミ屋敷です」

「料理できないし、家はゴミ屋敷です」

 男に出会う度に、私はいつも「ダメ自慢」をしてしまう。実際、ここ何年前までは、本当にゴミ屋敷のような部屋で暮らしていたし、それが苦にならなかった。中学生の頃の、英語の塾でも「五月ちゃんは、自分の身体だけ綺麗にして、それ以外は全部汚いね!」と塾講師に言われたことがある。料理、片付け、刺繍、字を書くことなど、「女子なら得意だよね!」と言われるようなものは、基本できなかった。そのため、「顔は可愛いのに、なんで〇〇はこんなに汚いの?」と言われることは、日常茶飯事だった。その頃は、「お淑やかそうに見えて、本当は雑すぎる自分、ギャップ萌えだな!」と勝手にポジティブになっていた。男受けもきっといいと思っていた。大学生になってからは、「女子力を密かに求めてくる男性・社会」への反発心で聞かれてもないのに、「自炊?全然しない。私が作った料理って本当まずい。家はゴミ屋敷だよ?」って大声でアピールしていた。しかし、大人と呼べるような年になった今は、家事も料理もできない自分って普通に「生存スキル」のない存在ということに気付いてしまった。言い換えると。自分って「生活力」のない人に過ぎないのだ。

 「一度、五月の料理を食べてみたかった」

 大学生になって、初めて付き合った彼氏は一人暮らしをしている部活の同期だった。初めての同期会の日、たまたま彼の隣席に座った私は、「自炊してる?私は全然してない!私の料理全然美味しくなくて〜」と、聞かれてもいないのに、ダメ自慢をし始めた。「味付けは調理が終わってからにすると、失敗しないよ。」と彼に言われたことを、いまだに忘れていない。入学して、半年ぐらいで彼と私は恋人関係になった。

 彼は料理が得意だった。彼の部屋に行くと、彼はいつも料理を作ってくれた。その頃、私は一人暮らしを始めたばかりで、一人でご飯を食べることがとても寂しいと思っていたので、徒歩7分距離の彼の部屋に遊びに行って、一緒にテレビを見ながらご飯を食べる時間が理想的で、本当に幸せと思った。しかし、彼と別れてから、その時間が幸せだったのは、私だけだったことに気付かされたのだ。

 大学1年の夏休み、彼と私は富士急にいった。戦慄迷宮の前で、彼と私は賭けをした。「五月が一度でも叫んでたら、今度ご飯作ってね。」と彼に言われた途端、私は「ごめん、無理。」と言ってしまった。料理なんか、本当に作ったこともなかったし、きっと不味いのに決まっているのに、それを食べさせるなんて!きっと幻滅される。と私は思っていたからだった。別れてから、私と彼は電話でよく「私たちの関係が破局に至ってしまった原因」について、篤く討論していた。その時、彼が富士急での会話を持ち出してきたのだ。

 「五月の料理、一度食べてみたかった。」

 衝撃だった。私の中では忘れかけていたその会話が、別れの原因の一つって、料理ってそんなに大事?なんで私に女子力求めてくるの!女子力って何?と、色んな思いで、頭の中がパンクしてしまったのだ。その後も、たまに彼のことを思い出すと、「料理作ってもらったのに、洗い物くらいすればよかったな。私はずっとテレビばかり見てたな。」と反省するようになった。

 「店に出したら、絶対三千円はする!」

 今の彼氏と付き合いはじめて、私は初めて人のために食事を作るようになった。麻婆豆腐、エビチリ、ナスの味噌炒め、唐揚げ、、。まだ回数自体は少ないが、これからは少しずつ増やしていこうと思っている。料理を作らなかったことで振られた私が、彼のために料理を作るようになったのは、いくつかの理由がある。

 ①彼の経済的負担を減らしてあげるためだ。彼は社会人2年目、実家暮らしなので、貯金もできるはずだが、デートの度に貧乏な無職(だけど、キュート・ビューティフル・セクシー・ユーモラス)の彼女のために、食事代を全部出してくれている。しかも、去年までは、一人暮らしのくせに人を家に入れない主義だった私のせいで、毎回ラブホ代も払っていた。そのせいで、彼は去年の1年間ほとんど貯金が出来なかった。事態の深刻性を感じた私は、今年から家を解放しているのは勿論、外食を減らすことで彼の経済的負担を減らしてあげようとしている。しかし、今まであまり料理をしていなかったこともあって、調味料を含め、家にないものが多いので、先週末はサンドイッチの材料代で1700円も使ってしまうなど、まだまだ試行錯誤の段階である。

 ②感謝の意味。①の理由と、そこまで変わらないが、いつも私のために、なんでもしてくれようとする彼のためのイベントでもある。私はいつか金持ちになる予定ではあるが、今は貧乏、そのものなので、彼にやってあげられることがあまりない。なので、たまに料理を作ってあげることで彼を喜ばせることができたらなーと思ったことから、料理をはじめたのだ。

 ③コロナ期間中、自炊スキル向上によって。私はフットワークが軽い方なので、今まで日中出かけていることが多かったので、家事は放棄していた。一度掃除をすると、30リトルのゴミ袋でゴミを出すくらい、家は年中ゴミ屋敷状態だった。しかし、コロナによって、初めて一日中家に引きこもる生活をしてからは、自分の精神的な健康のために、家事をするようになった。朝起きたら、朝ご飯を作って、また昼ご飯の時間をただただ待って、昼ご飯を食べたら、夕ご飯の時間をずっと待っている、1日の楽しみがご飯を作って食べることしかなかったので、自然と自炊スキルも向上した。その練習期間があったので、今彼に食べさせるような料理ができるようになったのだ。

 ④最後に、彼が美味しく食べてくれる姿を見ると嬉しくなるからだ。今まで一番評価された料理はエビチリだったが、「店で出すと三千円はするよ!」など、大袈裟なリアクションをしてくれるため、少し浮かれちゃう自分がいる。韓国には、誰もが誰かに褒められると、自信も付くし、もっと頑張れるという意味の「称賛は鯨も踊らせる」ということわざがある。正にその通りで、彼に褒められれば褒められるほど、私の中に向上心が生まれてしまうのだ。

 今の彼のために、料理を作ったり、家を掃除したりする度に、元彼のことを思い出すことが多い。あの頃は、頼まれても絶対断っていたのに、今は頼まれてもないのに、手作り料理を食べさせている。もしかすると、自分が変わりたいと思うほど、今の彼のことが好きという証かもしれない。んー、それよりもきっと、今の彼は私のダメな姿も、ダメな料理もきっと好きでいてくれる。という確信があるからこそ、できるのかもしれない。

 今週のリクエストは「ニラ玉」。また頑張って作ってみよう!


 

 

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