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【本】小柳はじめ『鬼時短』(鬼はツノなし)2024/2/28初版

面白かった!
面白すぎてページをめくる手がとまらず、一気読みしてしまいました。

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どんな本?

「今やっているこの仕事、1時間かかるのを30分にしたい」
そのための時短の本…では、本書はありません!

いまは、労働力が減少し続け、かつ、自社内でしか通用しない独りよがりな経営がSNSでまたたく間にシェアされ叩かれる時代です。

そんな空前の「反・ブラック社会」に、企業は、どのようにすれば適応し、かつ成長して良い人材を集められるのか?

その答えとして、本書は、経営者が、現場に無関心で丸投げしていた過去を社員に「ごめんなさい!」とあやまり、やり直すための方便として「時短」を使うべき、といいます。

つまり、本書は、現場で手を動かす社員のためのノウハウ本ではありません。

経営者・リーダー層にとって、自己批判という厳しい試練を乗り越える必要があるものの、「これから」のために「これまで」のリセットを可能にする道を示してくれている本なのです。

一般社員も読むべし!

そう言うと、「結局、経営者か・・・」と、この本への関心が薄くなる一般社員もいるかもしれません。

ですが、一般社員も読むべし!です。

読むべし!の理由ひとつめは、経営層へのもやもやを言い表してもらえてスッキリすること。

本書は言います。
「自分たちのムダを列挙しなさい」はNG。
「時短が必要な状況になったのはすべて、会社が無関心だったのが悪い」と認め、誤ること。

悪いのはムダだらけの業務プロセスを積み上げて編み上げてしまった現場ではなく、業務プロセスづくりをそれぞれのオフィス現場に丸投げしてきた歴代の経営陣です。

そうだそうだ!とスッキリしませんか?

また、「小さな成功で生み出される自己効力感」についてのくだりは、個人にとっても重要です。

「パソコンに打つ中身を考えている時間のほうが長いのだから、タッチタイピングで多少時短できたとしても、さほど意味がない」
私たちが言い訳のようになんとなく思っていることを、この本は一刀両断してくれます。

小さな成功、たとえば「タッチタイピングを覚えたら5分時短ができた」ことが、「だったら次は、さらに工程を高速化できるかもしれない」につながる。

こういった小さな自信の積み重ねが発する「熱」こそが、組織の変化を阻む永久凍土文化を溶かす一歩となる

この「永久凍土」があるのは、組織だけではありません。
私たちの心にある場合もあります。

その溶かし方が、この本ではリアルな実例として描かれているのです。

さいごに

ほかにも、「あるある」「わかるわかる」という箇所や、「そうだったのか!」とガーンとくる場所が、この本には目白押しです。

長年にわたり経営者から「働かせ方」を放置されてきたオフィスワーカーにとって、「経営陣は現場のことをわかっていない」というのは常識になっています

日本が本当に「和の国」だったのであれば、わざわざ憲法第一条で「和をもって貴しということにしますよ!」なんて宣言しませんよね。たとえば、ダイバーシティやグローパルビジネスがあたりまえである企業には「ダイバーシティ推進室」や「グローバル推進本部」が必要ないようなものです。

※「憲法」は聖徳太子の「十七条の憲法」のこと

日本の労働法規のものでは、会社と労働契約を締結した社員は、会社の監督・管理権の範囲内での指揮命令に従って誠実に労働する義務があり、「業務上の指示や命令を出さない」「指示や命令の遂行を監視しない」なんなら「自分で出した指示や命令の遂行を妨げる」などは監督義務違反になりかねません

会計や監査の「本当のプロ」は、「重要性」のラインを「企業側が多大なコストをかけなくてもよいライン」と考えます。ひらたく言えば「手を抜いてよいことは、手を抜いてというより、むしろ手を抜くべき」ということです。

「噴水型稟議システム」と「3営業日オプトアウト」は、いま承認フローが複雑になって時間がかかっている会社にとって、それを採用するだけでも、組織文化にひと筋の光明となるかもしれないという気がします。

著者の、絶妙な軽さと皮肉をまとった「働かせ改革」実行記録を楽しく読んでいるうちに、自分にも何かできるのでは?という気になる、不思議な本です。

最後には、チェンジマネジメントの権威である米ハーバード・ビジネス・スクールのコッター名誉教授「変革の8段階」が日本の企業に合わせた和訳で掲示されています。

著者は、本にもある通り、こういったことをコツコツ繰り返し繰り返し社長とともに続けていくことで、「電通全社の残業時間を60%短縮し、1ヶ月あたり10万時間以上の労働時間を削減した」のです。

そんなことが楽しく学べる本はなかなかありません。おすすめです。

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