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GOOD WAR TOUR 9. 私だって私だ

バスを待つあいだ、まをさんの沖縄エッセイを読んだ。
まをさんの文章を読むと、いつもまじめで真っ直ぐな人だと思う。
まをさんの文章と目線は似ている。

生身の身体にくらべての文字情報の薄さ。
私は文字情報のその均一さ加減というか、一律で平等な印象に好意を抱いているのかもしれない。

高速バスに乗ると、朗くんが手を振って出迎えてくれる。
いきなり「まなみさんってゼニガメに似てるね」と言われ、そうかも、と言うと、そんなことないよと言われた。朗くんって二人いるのか?

かわいい顔をしている。

京都から東京まで、高速バスで7時間。
3回ある休憩、すべてのサービスエリアで降りる。
2つ目のサービスエリアはとてもいい感じの道の駅だったが、荷物になるなとか日持ちするかなとか考え出してしまい、結局時間いっぱいうろうろして何も買えずじまいだった。私の人生、こうなりがち。
残念に思ってバスに戻ると、朗くんは日の光を浴びながらねむっていた。

私は自分で電気をつけて、自分で電気を消して暮らしてゆきたい。
ずっとそう思っていて、ひとりでいい、ひとりがいいと思ってきたけれど、今は、誰かそんな私を見ていてくれる人がいたら、それはとても幸せなことだと思う。

3つ目の足柄サービスエリアで朗くんと降りて、ご飯を食べる。朗くんは桜海老天のおうどん、わたしはお団子2本と味噌カツ。
出発時間ぎりぎりで違うバスに乗り込み、途中まで行って、前を歩いていた朗くんが「ちがう」と引き返す。判断の早さに感動。
入った瞬間からどことなく違和感は感じていたが、私だったら違和感を感じながらも自分の座席のあたりまで行ってしまうだろうな、その席に誰も座っていなかったら一応座ってみたりもするんじゃないだろうか、と思った。

東京は勾配の多い街だ。
こまばアゴラ劇場は住宅街の途中にとつぜん現れた。
劇場に入ると、人間座っぽいサイズ感、作りに思える。それなのに、一歩外に出るとぜんぜん知らない街で驚く。

昨日ぶりに海人さんと会った。
神妙な顔で「まなみさん……」と呼ばれて行ったら、マイクを設置するために置いておいたマイクスタンドが、京都から帰ってきたらオブジェクトになっていたとのこと。
ガチガチに拘束されていて笑ってしまった。
海人さん、八つ橋グミめっちゃまずかったと言いながら「京都楽しかったなあ」と言っていて、あんなに文句言ってたのに!? とふしぎな気持ちになる。ほんとに?

あとその八ツ橋は生じゃないやつだから。

朗くんは東京にきた瞬間イントネーションが標準語になっていた。
綾子さんも心なしか標準語イントネーション。

舞台上にはあちこちに辻さんの美術が置かれている。
辻さんの美術は、子供の頃みた悪夢に出てくる宇宙人に似ている。
昔は異形のそれが怖かったのだが、長年ともに過ごしてきて、少しずつ「これが私の世界」みたいな親しみを覚えるようになってきた。

まるでオブジェクトの一つのような伊奈さん。

音響や美術など、調整しながらちょっとずつ稽古してみる。
冒頭、ハリウッド映画みたいだ。エイリアンとかインターステラーみたい!

話の流れに関係ありませんが、得意げにブロッコリーを見せつける綾子さんです。

今まで「はけた体」で、体が見えたまま稽古していた部分、実際にはけてみてマイク越しの音声だけになると、視覚情報がなく、マイクの音も肉声に比べてずいぶんとシュッとしていて、かなりシンプルですっきりとした、整理整頓されたものに聞こえた。
こまばアゴラ劇場、この場にあった声・音・響きに調律してゆく作業を繰り返し行う。

発する言葉は「誰かわからない」「誰でもない」「不特定多数の、匿名の誰か」。
それでもどうしようもなく「渡辺綾子」だし「諸江翔大朗」だし「伊奈昌宏」だ。
そう感じるのは、肉体の力が強いよな。肉体がなければ、いや、精神を「誰」という固有の器で切り分けることってできるんだろうか。
精神は、肉体によってかろうじて形を保っているように思える。


ラストの印象、なぜだか私は初演からずっと、すごくまぶしくて前向きな印象がある。
だから、光で見えないところを見ているような、素舞台のまぶしさというか、現実のまぶしさをこそ見ていてほしいと思っていた。
それでも暗いところを見るのが、千と千尋の神隠しで最後にトンネルを通り過ぎたあと、ちょっとだけこわごわ振り返るみたいな、そんな感じなのだとしたら、それはそれでとてもいいなとこの日思った。

まをさんまた走り出そうとしてる?

食事をとって宿に帰ると海人さんがひとりウォッカをストレートで煽っていて、なぜそんな飲み方を……? と聞くと「寒いから」と言う。ロシア人なのかな。
その晩、綾子さんは炊飯器で米を炊きながらIHでお湯を沸かしながらティファールでも湯を沸かして、2度もブレーカーを落とした。米は無事炊けた模様。よかったです。


稽古13回目
日時:2021年12月23日(木)
出席:だいたい全員
場所:こまばアゴラ劇場

本作は2021年2月に京都で上演された『GOOD WAR』のリクリエイションを行い、大阪と東京で公演を実施します。

『GOOD WAR』は、私たちが「あの日」と聞いて想像する争いと日常で構成されています。
私たちは生きている限り、これからも誰かと戦い続けなければいけません。現時点で戦っていなくても、生きている限りいつか争いに巻き込まれます。『GOOD WAR』ではいずれ来る「その日」と、過去にあった「あの日」との向き合い方を鑑賞者と共に考えるべく、だれかの「あの日」で集積された記憶のモニュメントとして演劇作品を立ち上げます。

GOOD WAR

原案 『よい戦争』(作:スタッズ・ターケル 訳:中山容 他 1985年7月25日出版:晶文社)
構成・演出 河井朗
ドラマトゥルク 蒼乃まを、田中愛美
出演 伊奈昌宏、諸江翔大朗、渡辺綾子
美術 辻梨絵子
音響 おにぎり海人、河合宣彦
照明 松田桂一
制作 金井美希
制作協力 (同)尾崎商店、黒澤健
衣装協力 MILOU
記録 田中愛美

日時・会場
2021年12月25日(土)〜12月26日(日)|こまばアゴラ劇場 ※こちらの公演は終了しました! ありがとうございます!
2022年1月26日(水)〜1月30日(日)|クリエイティブセンター大阪 Drafting room(名村造船所跡地) ← NEXT
2022年2月10日(木)〜2月15日(火)|北千住BUoY



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