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【劇評】「團菊祭」五月大歌舞伎 初日


「團菊祭」。それは、9代目市川團十郎と5代目尾上菊五郎の功績を顕彰する特別興行。ふたりは、明治期に歌舞伎の近代化を成し遂げた、偉大な歌舞伎役者でした。

本年5月2日は、3年ぶりに、歌舞伎座に「團菊祭」が帰ってくる吉日。そのためか、昼過ぎの銀座界隈には、こざっぱりと和服に身を包んだ男女が行き交い、あたかもハレの日を思わせるような賑々しさが漂っていました。

歌舞伎座・正面玄関の、瀟洒な紺地ののれんをくぐった私は、場内に立ち込める祝祭の熱気に、はっと息をのみました。

――

客席が次第に暗くなり、芝居が始まります。

●一幕目は、歌舞伎十八番の内『暫(しばらく)』。
「勧善懲悪の代名詞」と言っても過言でない作品です。

極悪非道の悪党に、言いがかりをつけられ、捕虜にされた善人たち。
まさにその首を打ち落とされようという、いまわの際に、
スーパーヒーロー・鎌倉権五郎が登場します。

第一声は、「し~ば〜ら〜く〜」。その大音声に、今まで威張っていた悪党の取り巻きたちは、「雷よりも怖い」とたちまちに震え、縮み上がります。刃向かう者も、あっという間にバッサリと返り討ち。善人のピンチを救った権五郎は、客席を最後にキッと睨んで、颯爽と立ち去っていきました。


権五郎を演じるのは、当世・海老蔵。いずれは、大名跡である「團十郎」を襲名する人物とだけあって、全身が充実して華やか。声の通りは本調子でないものの、睨みや六方など、要所要所で、客席の衆目をかっさらいました。


●二幕目は、新古演劇十種の内『土蜘(つちぐも)』。

病床に伏せる源頼光を、この世の天下を取らんと企んだ土蜘蛛が襲います。はじめは、比叡の高僧に化けて。しかし、小姓は目ざとく、その正体を見破り、頼光は名剣で僧を切りつけます。本性を現した土蜘蛛は、蜘蛛糸を繰り広げながら、退散していきます。

この名シーン。演じたのは、音羽屋3代。尾上菊五郎、菊之助、丑之助。ただ佇んでいるだけで美しいのが、菊五郎。年齢を感じさせない迫力の口跡で、場面を一気に引き締めます。菊之助は芸達者。艶やかな美を匂わせたかと思えば、鬼をも震え上がらせる形相で、土蜘蛛の怒りを表現します。丑之助は、キリッと整った目元が印象的。口跡もよく、将来が楽しみな役者です。

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