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感覚をつかさどるこびと

キーボードのFやJのキーにある小さな突起。1mmにも満たないわずかな出っ張りであっても、指先がその形の違いを感じ取ってくれて、目で毎回確認をしなくてもキーボードのホームポジションに手を置くことができます。わたし達の指先は髪の毛1本の細さ(0.08mmくらい)であっても繊細に感じることができます。足は手の指先ほど敏感ではないかもしれませんが、足の裏で米粒を踏んでしまったら気がつくでしょう。それに対し背中はそれほど感覚が敏感ではない、という人も多いかもしれません。

ホムンクルスと呼ばれる「こびと」のような図。これはカナダの脳外科医ペンフィールドがてんかん患者の手術部位を決める際に、大脳皮質を電気刺激することによって身体の部位と運動や感覚を司る部位との対応関係を示したものです。ここで見えるように、親指やくちびる、舌などはかなり大きいのに対して、胴体や足などは小さく描かれています。つまり、手や顔にある感覚や運動は脳の領域からしても繊細であるのに対し、胴体や足などはそもそも敏感ではないと言えます。

ペンフィールドの研究は1930年代後半~50年にかけて行われたものです。今と生活習慣が違った時代でも手や顔は足や胴体よりも敏感であったということです。スマホやコンピューターを多用するようになり、あまり身体を動かさなくなってしまった現代では、なおさら胴体や足などが鈍感になっているかもしれません。一方で、脳には可塑性があり、使っていくことで脳も変化をするとも言われています。

わたし達はたくさんの感覚情報から取捨選択をしています。この時、わかりやすい感覚や強い刺激の方にばかり注意が行きがちで、弱い刺激や鈍い感覚は”感じにくく”なっています。だからと言ってそれを感じられないかというとそうではなく、そこへ注意を向けてあげると感じることができてきます。たとえば仰向けで寝ている時に、床に触れている背中の部分に注意を向けると、背中の状態を感じることができます。また、注意が向きにくい場所であっても、実際に身体に触れてもらうことで感じやすくなります。これは触れてもらった手からの圧だけでなく、暖かさも相まって意識を向ける、感じることの助けとなります。このように、感じにくい部分であっても意識を向ける練習をしていくと、より繊細に感じることができるようになってきますし、身体からの感覚情報がより詳細に脳へ上がることによって、運動の細やかさも変化が起こってきます。

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