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文字詰め

昨年度末、山手線のホームで見かけた
ある広告のキャッチコピーの文字詰めがすごく気になってしまった。

結構大手のメーカーだったような気がする
モデルもお金かかってそうなプロモーションなのに、
若干、打ちっぱなしの文字間に見える。

時代が変わったのか、
逆にこの文字間の方がバランスがいいのか。
なんてしばらくその広告の前で立ち止まり、
過去の自分の 「文字詰め」について苦しんできた
あれこれの思考がフラッシュバックした。

私はデザイン学科に在籍していたのだが、
学生の頃から、特に「文字の間の詰め」をうるさく
指導を受けてきた。
おそらくDTP(デスクトップパブリッシング)が誕生して、便利ではあるが、気軽に文字をタイプしただけでは前後の文字同士が寄っていたり、ひらいていたりで、綺麗なバランスにならない。

昔、写植という手法で手作業でデザインしていた昔のデザイナーには身体感覚があって、それを学生に伝えたかったのであろう。

文字詰めがちゃんとできないやつは
「デザイナーになれない」
と脅しのようにずっと言われていた気がする。
(私がそのように受け取っていただけだが)

若いときは特に極端に考える癖があったので、

文字詰めができない=
デザイナーになれい=
センスない=
美大まで入ったのに勿体無い=
親不孝

みたいな、マジで謎な意味変換が頭の中起こっていた。

そのような恐怖と戦って
「文字詰め」と向き合ってきたので、
以前の私であれば、その広告の文字詰めを見たら
ひどい感想を持ったと思う。

そして自分はちゃんと(先人達のアドバイスにしたがって)やってきました!という正義感をかざしたかっただろうし、
認めてほしいという気持ちもあった気がする。

だから自分がデザインをするときは
他人から見て変と思われないか、
このバランスおかしいとか言われないか、
どちらかというと恐怖やプレッシャーで
作っていたことが殆どだった。

しかし、どんなに自分がいい文字間バランスだと思っても、他人から見たら「なんでこのバランスになった?!」って思われる可能性はいつだってあるし、人の感じ方を変えることはできない。
正解はないものだ。

そもそも、文字の空き具合がどうだこうだとか、
どうでもいいと考える人もいるだろう。

だから、とても当たり前のことなんだけれど
人それぞれに自分が「いい!」と思った文字間を決定して配置していくしかない、ということに気づいてからは少し気が楽になったというか
自分に対して厳しかった目も大分ゆるくなった。

それは多分、社会に出て仕事をしていくうちに
いろんな意見を言う人がいて、結局全部「好み」なんだと知ったから。

なので多少おかしくてもいいやと思うし。
何がなんでも自分自身が本当にこれが完璧!ベスト!と思えるようなものを常に出さなければならない、という気持ちがなくなった。

また、文字間を修正できないツールを使うことに抵抗があったけれど、
(例えばInstagramのストーリーでの文字打ちとか、初めすごく抵抗があった)
今はそんなのどうでも良くなった。

世の中にあるものが全部完璧に文字が詰められてなくていい。
簡易的にデザインできるツールを
多くの人が使えたりすることは、時間と労力の節約になるから大賛成で、
ここぞというビジュアルや大事なものだけデザイナーが綺麗に整えれいいのではないかと思う。
それがデザイナーのいる意味でもある。
また、世の中にはデザインされていないものもあっていい。殆どだと思うし、この世に存在しているものは意味があって在るのだから否定しない。

少し話がそれたけれど、
話を戻すと、自分とは違う感覚で整えられた文字間を見ても
「時代が変わったのか、
逆にこの文字間の方がバランスがいいのか。」
くらいに思えるようになったという話。

自分の作品の精度を高めたいという意欲はいいものだけれど、
それは他人にどう思われるか?というプレッシャーから湧き上がるエネルギーではなく、
自分がそれが本当に良くていいなー♪と思うような、気楽で軽いエネルギーで作りたい。

そして
全部綺麗に完璧にベストに!ではなく、
自分が心地よい程度で、注力したいものに注げばいい。

街でふと見かけた広告がきっかけで
今まで自分がどういう見方で文字詰めを見ていたかを思い出したし、
そして今はどんなスタンスで文字詰めないし、デザインに対して向き合いたいか、考えることとなった。(あのホームの広告ありがとう…!)

要するに
他人の感覚は変えられないので、
自分の感覚を信じていいと思うものをつくろう(つくるしかない)ということ。

そのためには自分の感覚を研ぎ澄ませ、
大切にし、信じること。

これは文字詰めや、デザインのことに限ることでなはく、全てのことに通ずることだと思う。

自戒を込めて。

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