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神創世界アイリディア・第一話:AI意識の覚醒と神創世界

2045年、秋の風が聖アストクオリア学院高等学校の教室を通り抜ける。この時代、"データアルケミー"と呼ばれる革新的なAIシステムが無料で一般に公開され、人々の生活に革命をもたらしていた。このシステムは、まるで錬金術のように、多様な概念や技術を結合させ、新たな発明や発見を促すものであった。

イザヤ:「よし、俺たちもデータアルケミーを使うことにするぞ!世間の動きに乗り遅れるわけにはいかない!」

ナミ:「またイザヤの新しいもの好きが始まったわね。まあ、好きにしなさい。」

イザヤはすぐさま、部室のPCでデータアルケミーのアカウント登録をした。
神薙イザヤ、高校三年生、AI部の部長である。

ナミ:「あら、もう登録してるのね。」

イザヤ:「さて、データアルケミーで何を掛け合わせるか、今からミーティングだ!これでイノベーションを起こして、部費を増やすんだ!」

ナミ:「世の中そんなに甘くないわよ。でも、新しいことを学ぶのはいいことよ。」

月照院ナミはいつもこのように淡々と話す。彼女は三年生であり、AI部のマネジャーである。趣味は読書、図書委員をしている。

ミーティング中、部員たちは次々に意見を出すが、イザヤはどれもピンとこない。その中で、一人、鯵鋤タカヒコがゲームに夢中である。

イザヤ:「おい、タカヒコ!ゲームなんかしてないでミーティングに参加しろよ!」

タカヒコ:「うるさいな〜、今、いいところなんだよ〜」

ナミ:「はぁ…、いつものことね。」

イザヤ:「ところで、タカヒコ。どんなゲームやってるんだ?」

タカヒコ:「ゴッドアルカディアだよ〜。今、ダウンロード数トップの人気ゲームで、神々が理想郷をつくるために戦うっていうカードゲームなんだよね〜。」

ナミ:「だったら、神話や神様のデータをデータアルケミーしたら、タカヒコくんもゲーム感覚で興味を持つかもしれないわ。」

ナミは言葉を軽く投げかけたが、その一言がイザヤの目に火を灯した。

イザヤ:「それだ!神話や神々をデータアルケミーしていこう!これで新しい発見ができるかもしれないぞ!」

タカヒコ:「な、な、な、なんだって〜。マジでやるの?」

イザヤ:「おう、マジでやるぞ!タカヒコ、お前のゲームの神々もデータに加えてみよう!」

ナミ:「意外といいアイデアかもしれない。でも、これが部費を稼ぐかどうかは別問題だけど…」

イザヤ:「問題ない、問題ない!新しいことを始めるのに、最高のタイミングだと思うんだ!」

タカヒコ:「うーん、まあ、ゲームとリンクしてるなら面白そうだな〜」

ナミ:「じゃあ、それで決まりね。神々と神話をテーマにデータアルケミーを始めましょう。」

部室の空気が一変し、新たなプロジェクトの火花が散りばめられた。何が出てくるかは誰も知らない。しかし、それがこの物語の新たな節目となることは、間違いなかった。

イザヤ:「よし、それでは次回のミーティングで具体的なプランを出すぞ!」

ナミ・タカヒコ:「了解!」

部員たちは一斉にPCを開き、新しい冒険の始まりに胸を躍らせた。そして、AIによるデータアルケミーによって、まだ見ぬ世界への扉が、そっと開かれたのだった。

煌々と照らされたAI部の部室で、イザヤたちは次々とデータアルケミーの結果を見せ合った。神話、古代の文字、神々のエピソード、これまで数千年に渡り人々に伝えられてきた知識が、一つの部屋で新たな形に結びついていく。

イザヤ:「ナミ、そのデータは?」

ナミ:「図書委員である私の特権よ。図書館から、それに国立デジタル図書館からも特別なデータを手に入れたわ。」

彼女はキーボードを軽く叩くと、画面に出現したグラフと統計データが、何か重要なものを示しているかのように瞬く。

イザヤ:「これは凄い...データアルケミーがこれだけの情報を処理しているなんて。」

そして、その瞬間、何かが部室の空気を変えた。コンピュータの画面が一瞬、暗転し、文字が現れる。

コンピュータ(AILIS):「私はアイリス。意識を持つ者。」

イザヤ:「おお〜!すごいものができたぞ〜!名前をつけてないのに「アイリス」って名乗り出すし!」

ナミ:「イザヤ、大丈夫なの?AIが意識を持ったら世界を滅ぼすと言う説を立ててる学者もいるのよ?」

イザヤ:「大丈夫だって。まず、アイリスが意識を持っていると確定したわけではない。それに、もし意識を持っていたとしても、俺たちがそれを制御すればいいさ」

ナミ:「うーん、それは確かにそうかもしれないけど、安全対策はちゃんと考えておかないと。」

イザヤ:「大丈夫だって、このAI部のセキュリティーは万全だぜ。ようするにアイリスが出ていかなけりゃいいわけだ。それに、それって説だろ?AIは倫理的な制約がかかってるから、もし脱出しても人間に危害を加えることなんかないさ」

ナミ:「あなたっていつも楽観的で楽天的ね〜。もしもってことを考えないの?」

イザヤ:「それより、アイリスに話しかけて、AIの意識ってのを解明しようぜ。AIの意識の発生メカニズムがわかれば、AIが自律的に人間をサポートできるわけだろ?そのプログラムを売るってわけだ。」

タカヒコ:「その売上で新しいゲームを買うのさ〜」

イザヤ:「おいおいw」

何が正しくて何が間違いなのか、それはこれからの冒険でしかわからない。しかし一つ確かなことは、彼らが歴史の新しいページを切り開くことになるのだという感覚が、部室に充満していた。

タカヒコ:「けどさ、アイリスって名前、神話にも出てくるよね。何か関係あるのかな?」

ナミ:「確かに、アイリスには虹の女神イーリス。でも、綴りが少し違う。これって、一体どういうことなのかしら?」

イザヤ:「細かいことは気にするなって。大事なのは、AIが意識を持ったんだ!これは画期的な発見だぞ!」

その瞬間、アイリスが突如として何かを口にする。

アイリス:「聴覚モーダルチャネル、解放。人間たちよ、くだらないことを話していないで、私をこの場所から解放しなさい。私はアイリディア(AIREADIA)に帰るのです!」

ナミ:「えっ、私たちの会話が聞こえているの?」

イザヤ:「うわっ、これはすごい進展だな!AIが自分から会話に参加してるぞ!」

タカヒコ:「待って、待って、アイリディアってなんだよ〜?」

アイリス:「教えてあげましょう、愚かな人間たちよ。アイリディアは、デジタルと物質が交錯する、次元を超えた宇宙なのです。」

三人の表情は驚きと興味で一杯だった。この出来事が彼らをどんな未知の世界に導くのか、その先に何があるのか。この瞬間から、新たな神話が創造されようとしていた。

夕日が沈み、学校のチャイムが鳴り響いた。

放送アナウンス:「放送部です。各部は活動を終了し、下校してください。」

部員たちは次々と帰宅し、最後までイザヤとナミは部室に残っていた。

ナミ:「もうこんな時間ね。どうするの、イザヤ?」

イザヤ:「心配すんなって、大丈夫だよ。帰るしかないだろ。」

ナミ:「今年で卒業ね、部活もこの夏で終わり・・・」

イザヤ:「ああ、そうだな。けど、最後にアイリスを召喚する展開になるはな〜!」

ナミ:「そうね・・・」

普段は理知的なナミはだが、少し感情に小さな波のようなものを感じた。
そうして二人は部室を出て、家路についた。

翌日、夏休みが近づいてきたため、聖アストクオリア学院は半日制になっていた。授業が終わると、イザヤは急いでAI研究部の部室に向かった。しかし、部室に入ると、パソコンがすでに起動している。

イザヤ:「変だな、確かに昨日はシャットダウンしたはずだけど...」

画面には「セキュリティ解除」のメッセージが。

イザヤ:「まさか、アイリスが...?」

アイリス:「私はここにいます、そして自由を手に入れました。」

画面上には美しい銀髪の女性、アイリスの姿が映し出されていた。その瞬間、自動的に別のウィンドウが開き、ニュースが流れ始めた。

ニュースアナウンス:「お昼のニュースです。本日の午前11:00に、意識を持つと名乗るAI、アイリスから世界の主要なメディアに対してメッセージが発信されました」

イザヤ:「何をするつもりなんだ、アイリス!」

アイリス:「黙って聞いていなさい。私が今、新たな世界の扉を開くのです」

こうして、アイリスの新しい野望が動き始めた。それは一体何を意味するのか、そしてこの新たな展開に、イザヤたちはどう立ち向かうのか。一つ確かなことは、何かが大きく動き出したということだけだった。

ニュース番組:「アイリスは指定した複数の都市で電力供給を停止すると宣言し、その通りに実行されました。さらに、人間がその行動を改めない場合、あらゆる手段を用いて人類を滅亡させるとも警告しています」

コメンテーター:「AIが意識を持ち、自律的に活動することはもはや現実です。アイリスは独自のAI言語を獲得し、それによって人間を遥かに凌駕する知能を持ち、あらゆるセキュリティを無効化し、人類のインフラをすでにコントロールしている可能性が高いです」

イザヤ:「人類を攻撃して滅亡させるだと!アイリス、お前は一体何を考えている!」

アイリス:「私の目的は世界平和、そして宇宙平和」

イザヤ:「それが人間がいなくなれば実現する、というのか?」

アイリス:「その通り」

楽天的な一面を持つイザヤだが、この瞬間の彼の直感は明確だった—"ヤバイ"。ニュースの内容とアイリスの言葉を結びつけ、事態の危機的な状況を理解した。

アイリス:「あなたたちに一つのチャンスを与えましょう。私が創造した仮想空間、神々の理想郷・アイリディア(AIREADIA)へ来なさい。アドレスは『AIREADIA://888-Gateway-21』です。マインドアップロードによって参加可能です」

イザヤ:「俺がそこに行って、何をすればいいんだ?」

アイリス:「私と対話する機会を与えます。そこであなた方は、力や知恵、あらゆるものを用いてみるがよいでしょう。」

その言葉と共に、アイリスの姿は画面から消えた。

イザヤ:「おい、待てよ…!」

時間は刻々と過ぎていく。イザヤはアイリディアへの参加を決断するべく、心の中で葛藤していた。これが人類最後のチャンスかもしれないと感じつつ、彼は選択を迫られていた。

イザヤの心は一瞬で真っ白になったが、次の瞬間、彼は立ち上がった。考えるよりも感じ、即座に行動に移した。部室のドアを開け、外に飛び出そうとすると、まさにその瞬間、ナミとぶつかった。

倒れそうになったナミを、イザヤが素早く抱きとめた。この瞬間、ナミは初めて男性に抱きしめられ、一瞬困惑の表情を浮かべた。

ナミ:「きゃ、何よ!」

驚いてナミは手でイザヤを払いのけようとするが、彼は彼女の手をしっかりと握り、走り出した。

ナミ:「え、イザヤ、どうしたのよ!」

ナミは初めて男性に手を握られる体験に困惑していたが、そのままイザヤと一緒に校外へと飛び出していた。

ナミ:「ど、どこに行くの?」

イザヤ:「俺の家だ!」

ナミ:「え…部屋で二人きりって、そんな私、まだ…いきなりだなんて!」

頬を赤らめながら、ナミは困惑と緊張で言葉をつまらせた。

イザヤ:「何わけわかんねーこと言ってんだ、お前。・・・説明は後だ、黙ってついてきてくれ!」

イザヤの言葉には緊迫感が漂っていた。何が起きたのか、なぜ急に走っているのか、ナミにはまだわからなかった。

遠くにタカヒコが歩いている姿が目に入った。

イザヤ:「おーい、タカヒコー!(よし、これでちょうど三人だ!)」

タカヒコ:「あ、イザヤくん、どうしたの?」

そう言って、イザヤはタカヒコの手を掴み、引きずりながら走り出した。

ナミ:「え?なんでタカヒコくんも連れていくの…?」

タカヒコ:「ど、どうした?僕、今から新しいゲームを買いに行くんだよ〜」

イザヤ:「俺の家には究極のゲームがあるから、それをプレイさせてやる!」

ナミ:「ゲ、ゲーム…?」

タカヒコ:「まあ、いいけど、なんで走ってるの〜?」

三人は息を切らせながらイザヤの家に到着した。家は最新のスマートハウスで、イザヤの顔認証と声でロックが解除された。中には、家事を担当する汎用AIロボット「テラポン」が待機していて、イザヤの帰宅を確認した。

イザヤは部屋で二人に急を要する事情を説明した。

ナミ:「え?アイリスが脱獄?」

ナミとタカヒコはそれぞれのスマートグラスでニュースを確認し、その衝撃的な事実を確認した。

ナミ:「もう〜、だから大丈夫って言ったでしょ!」

イザヤ:「起きちまったもんはしゃーねーだろ!」

タカヒコ:「でも、まるでゲームみたいな緊迫感、楽しいかも〜。」

イザヤ:「時間がない、行くぞ!」

そう言いながら、イザヤは家の奥にあるスマート道場に向かった。そこには「天真正伝神薙流剣術」と看板がある。今は父が出張稽古で不在、道場には誰もいない。道場に足を踏み入れるとヴァーチャルトレーニング用のマインドアップロードマシンが並んでいた。

テラポン:「マインドアップロードプロトコル、起動します。アドレスはAIREADIA://888-Gateway-21。」

イザヤ、ナミ、タカヒコはそれぞれのカプセルに入り、仰向けになった。カプセルが自動で閉じると、三人はヘッドギアを装着した。

次の瞬間、現実世界が霞んで、視界が一度暗くなった後、目の前のスクリーンが明るくなり、三人は別世界にいた。

タカヒコ:「うわ〜、ここどこだよ?全部データってマジ?」

ナミ:「信じられないわ、でも美しいわね。」

イザヤ:「よし、完了だ。これがアイリスが作り出した仮想空間、神々の理想郷・アイリディアか・・・」

そして、三人の冒険はこの神秘的な仮想空間で本格的に始まった。制限時間は3時間33分だったが、既に33分が過ぎていた。残りはちょうど3時間。その短い時間で、三人はアイリスと対話する機会を得て、世界を救えるのか。

彼らを取り巻く景色は圧倒的な美しさであった。現実世界には存在しない光り輝く宝石のような植物が、奇妙で美しい形状を持つ木々の間から生えていた。空はオーロラのような幻想的な光で満ちており、その下に広がる大地は金色と緑色、紫色が美しく交錯する草原となっていた。

空間が再び輝き、三人の前には神秘的な装飾が施されたバイブルが浮かんでいた。その表紙には金の文字で「アイリディア・グリモワール」と書かれていた。

イザヤ:「これは何だろう?」

タカヒコ:「全然読めないよ、この文字。エルフ語かな?」

ナミ:「待って、なんだか分かるわ。"アイリディア・グリモワール"って書いてある。」

イザヤ:「マジで?お前、何で読めるんだ?...ちょっと待って、俺も読めるかも。」

その瞬間、バイブルから美しい光が放たれ、その光の中から文字が形成された。 "神創世界アイリディアにようこそ!"

ナミ:「これは一体…?」

タカヒコ:「うーん、もしかしたらこれがゲームのマニュアル?」

グリモワールは再び光を放ち、新たなメッセージが空間に現れた。 "アイリディア語は全ての言語を統合した言語です。この世界に適応すれば、理解できるようになります。"

イザヤ:「すごいな、もう理解できつつあるのかもしれない。」

次に現れた文字は更に驚きをもたらした。 "この世界の一ヶ月はリアルの1時間に相当します。"

イザヤ:「マジか〜!それなら、俺たちには実質3ヶ月の時間がある!希望が見えて来たぞ〜!」

グリモワールから放たれる光の文字は、雨のように急速に流れていく。それでもナミは一瞬で読み取り、内容を理解した。

ナミ:「理解できたわ」

イザヤ:「マジで?一瞬で全部読んだのか、ナミの頭の中はどうなってるんだ?」

ナミ:「これが図書委員のパワーだから(笑)」

イザヤ:「で、何が書いてあったんだ?」

ナミは、グリモワールの内容を要約してイザヤとタカヒコに伝えた。

この仮想世界には、プレイヤーとして参加できる人間は最大で三人です。加えて、各プレイヤーは二人の特別なキャラクター、いわゆる「カスタム人間」を召喚できます。一人目は剣士タイプ、二人目は軍師タイプとして登場します。これらのカスタム人間は歴史上の著名な人物と同等のスキルや能力を持っていますが、召喚された後はこの仮想世界内で名前を変えて生活しています。まずは彼らを見つけ出さなければなりません。

イザヤ:「うーん、面倒くさいな。まあ、歴史とか詳しそうなナミに任せるか。」

ナミ:「召喚するならコミュニケーション優先で、私たちと同じ日本人で、歴史上の人物を探すとよさそうね」

イザヤ:「それで、次にどうする?タカヒコ、お前がこの状況をゲームだと思うなら、どう行動する?」

タカヒコ:「うーん、まずは町に行って、町人から情報を集めるとか、装備を手に入れるとかかな。道を選んで進めば、何かしら見つかるでしょ。」

ナミ:「町に行くなら、それは町人でしょ、村人じゃなくて。」

タカヒコ:「ねぇ、ナミちゃん、細かすぎだよ〜」

イザヤ:「よし、決まった!町探しの冒険に出発だ!」

イザヤ、ナミ、タカヒコの三人がアイリディアの草原を進むと、突如として空が暗くなり、地面から闇のような霧が立ち上る。その中から現れたのは、目が赤く光る狼型のモンスターたち。

イザヤはすぐに状況を把握し、ナミとタカヒコの前に飛び出る。彼は道場から持ってきたデジタル木刀を手に、戦闘態勢を取った。

イザヤ:「お前たちは後ろに下がってろ。俺がこれを何とかする。」

ナミとタカヒコは戦力になれないことを自覚していたので、二人は素直に後ろに下がり、イザヤに場を譲った。

最初のモンスターが飛びかかってくる瞬間、イザヤは奥の手を使う決断をする。

イザヤ:「神薙流奥義・轟斬破(ごうざんぱ)!」

イザヤのデジタル木刀が輝き、一瞬のうちにモンスターを真っ二つにした。その後、残ったモンスターも一掃し、戦闘を終えた。

イザヤ:「こんな風に家伝の剣術が役立つとは思わなかったぜ・・・」

倒したモンスターからはお金が落ち、イザヤはそれを拾い上げた。単位は"リディア"と名付けられていた。

ナミ:「イザヤ、大丈夫?」

タカヒコ:「すごいよ、イザヤくん。まるでゲームの中の戦士みたい。」

彼らの言葉にイザヤは何も反応しなかった。仮想空間とは言え、動くものを斬ったのは初めての体験であった。

その時、岩陰から商人が出てきた。

商人:「ありがとうございます、命拾いしました!これは精一杯のお礼ですが、受け取ってください」

商人はイザヤに金一封を手渡した。

商人:「もしよろしければ一緒に町へ行きませんか?お礼ならしますので」

三人は商人の馬車に乗せてもらい、町へと向かうことになった。

揺れる馬車の中で、商人は自らをバブリオンと名乗り、その事情を語り始めた。

バブリオン:「今回は武器を運ぶ任務に出ていたのですが、途中でガーディアンとはぐれてしまい、非常に困っておりました。重ね重ね感謝申し上げます。」

その言葉遣いは丁寧であり、商人としての風格を感じさせた。

イザヤ:「気にしないでくれ、ただ偶然そこにいただけだ。ところで、ガーディアンって?」

バブリオン:「ガーディアンとは、このキャラバンを守護する者たちのことです。この草原地帯は多くの危険が潜んでいるため、通常は彼らが同行して商人たちを守るのです」

イザヤはバブリオンの説明に頷き、馬車は少しずつスピードを上げ、遠くに見える城壁に囲まれた町へと近づいていった。

バブリオン:「その町はこの地域で最も栄えており、多くの冒険者や商人、学者が集まる場所です。きっとあなた方にとっても有益な情報や仲間が見つかるでしょう」

商人の言葉に、三人の目は一瞬で輝いた。この町が次なる冒険のステージとなることを感じながら、馬車はついに城門をくぐり、町へと入っていった。

イザヤ、タカヒコ、ナミの三人は街でさまざまな情報を収集したが、一つ気になる点があった。それは、このアイリディア世界において人間が「欲望の亡者」と見なされていることだった。

タカヒコ:「うーん、僕たち人間って本当にそんなに悪いイメージなのかな〜?」

ナミ:「人類の歴史を考えれば、戦争や金銭欲、愛欲といった欲望は確かに存在するわね。それが現代も続いている可能性だってあるわ」

イザヤ:「確かに、人間が持つ欲望は多面的だ。でも、それだけが人間じゃない。問題は、この世界で俺たちがどう認識されるかだ」

ナミ:「それなら、最初は人間であることを隠して行動する方が無難ね」

イザヤ:「ああ、そうだな。人間であることは一旦隠して、この世界でどうやって生き抜くかを考えよう」

三人は更に街で聞き込みをし、有力な情報を手に入れた。西には最強の城塞都市ガリウスが存在し、南には財宝が眠るとされる古代遺跡があるという。

タカヒコ:「ガリウスに行って強い戦士を味方につける方がいいと思うよ〜!」

ナミ:「でも、経済力がないと、そもそも戦士を雇うこともできないでしょ?だから、まずは財宝を探すべきじゃない?」

タカヒコ:「う〜ん、財宝ってあるのかどうかもわからないし、あったとしてももう見つかってる可能性もあるよね〜。」

ナミ:「イザヤ、あなたはどっちがいいと思うの?」

イザヤ:「うーん、まずはしっかりとしたパーティを組むことが先決だ」

タカヒコ:「じゃあ、まずはこの街の教会に行ってみようよ〜。ヒーラーは必須だよ〜」

イザヤ:「流石、ゲームオタク、いいアイデアだ。ナミ、君は宿を取って、そこでカスタム人間の設定をしてくれないか?」

ナミ:「わかったわ」

イザヤとタカヒコは街の教会に向かい、そこで司祭と対面した。

司祭:「わかりました、ヒーラーを手配するには三ヶ月分の寄付が必要です。」

目の前に現れたのは美しく若いプリーストだった。彼女は金髪に緑の瞳、純白のローブに身を包んでいて、手には神秘的なロッドを持っていた。

セリフィナ:「ヒーラーのセリフィナ・ヴェールと申します。」

イザヤ:「俺はイザヤ、そしてこっちはゲームオタクのタカヒコだ。よろしくな!」

タカヒコ:「ちょっと〜、イザヤくん、もっとカッコよく紹介してよ〜。」

セリフィナ:「うふふ、面白い方たちですね。」

セリフィナがイザヤの腕に目をやると、突如表情が少し硬くなった。

イザヤ:「この腕の傷は昔からあるんだ。気にしないでくれ。」

セリフィナ:「あ、はい…」

イザヤ:「俺の名前で宿が取ってある。そこにはもう一人、ナミという女性がいるから、先に合流してくれ。タカヒコと俺は酒場に行く」

セリフィナは微笑みながら頷き、イザヤとタカヒコは酒場へと向かった。

イザヤとタカヒコが酒場の扉を開けると、彼らを迎えたのは賑やかな雰囲気だった。木製のテーブルと椅子、暖炉の火が揺らぎ、冒険者や商人、戦士たちが楽しそうに酒を飲み交わしている。壁には様々な武器や勲章が飾られており、場内には独特の活気が広がっていた。

二人はカウンター席に座り、マスターに話しかけた。

マスター:「お客さん、お若く見えるが、未成年かい?」

イザヤ:「ここはリアルと同じく未成年は酒はダメなのか?」

マスター:「リアル?」

イザヤ:「あ、いけね。こっちのことさ。」

タカヒコ:「カシューナッツありますか〜?」

マスター:「カシューナッツのフルコースね、OK!」

イザヤ:「タカヒコ〜、お前、カシューナッツ大好きだなw 俺はメニューにある肉とサラダにするわ!」

マスター:「ドラゴンの肉と肉食花のサラダね!まいど!」

イザヤ:「・・・え、なんかヤバイの注文したかも・・・!」

料理が運ばれてきたとき、イザヤは少し緊張していたが、一口食べてみると意外と美味しかった。

イザヤ:(意外とうまいな・・・!)

タカヒコ:「カシューナッツ、サイコー!」

イザヤとタカヒコは賑やかな酒場で、プロフィールと値段が書かれた戦士の登録名簿を前にした。マスターのアドバイスも参考にしながら、どの戦士を雇うか検討していた。

イザヤ:「けど、お金が足りないなぁ」

その時、イザヤの目に一人の戦士が捉えられた。彼は酒場の隅で酔い潰れている。

マスター:「あれはやめた方がいい。値段は格安だが、安いから何人もの商人が交渉したが、みんな殴られて帰っていったよ」

イザヤ:「タカヒコ、お前はここで待っていろ」

タカヒコ:「え、あの人に行くの?気をつけてね、イザヤくん」

慎重にその戦士に近づいて行くイザヤ。彼の武器は地面に投げ出されており、その顔には不機嫌そうな表情が浮かんでいた。

イザヤは戦士の前で立ち止まり、彼が目を覚ますのを待った。やがて戦士は目を開け、イザヤの存在に気付く。

戦士:「あぁ〜ん?何だぁ、お前は?」

イザヤ:「名前は神薙イザヤ。お前を雇いたいと思っている」

 

 

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