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映画『私をくいとめて』

原作を読んで公開を心待ちにしていた映画、『私をくいとめて』を観た。小説を読んだときは「わかる、わかる!」と楽しく共感だけして終われたのに、映画は観ていると胸がヒリヒリするシーンが多くて、「これが大久明子作品か……」と思った。

同じく綿矢りさ×大久明子作品の『勝手にふるえてろ』を観たときも胸にグサグサきたけれど、『私をくいとめて』はきゅんきゅん、ヒリヒリ、ズシーン、ほっこりがすべて詰まっている。

原作では、主人公の恋の相手・多田くんは大柄でうだつの上がらない雰囲気の営業マンという描写なので、どちらかといえば正反対な印象の林遣都さんとはあまりイメージが結びつかなかった。

ちょうど、映画公開と同時期に放送していたドラマ『姉ちゃんの恋人』では謙虚な好青年・吉岡真人を演じられていて、これがまさにハマり役。

大柄でこそないものの、うだつのあがらなさそうな芝居(と言うのが正しいのかわからないけど)がぴったりだし、彼の演じる多田くんがとても楽しみになった。 


そして、この物語に欠かせないのが、もう一人。
実体はないけど重要な登場人物、みつ子の脳内の相談役「A」だ。

私が原作を読みながら勝手に脳内で再生していた「A」の声と、映画で声優を担当している中村倫也さんのイメージはぴったりだった。

ところで、悩みがあると自分の理想の人(の声)が(脳内で)相談に乗ってくれるという、神的であり妄的でもある自問自答スタイル。

これ、私がいつもやってるやつじゃん! と気付いてしまった。

私の場合、脳内で相談役を担っているのは推しの化身である。メディアを通じて発信されたり、接触イベントでのコミュニケーションを通じたりして、私の中で勝手に積み上げられた推しの人格を宿した化身だ。(文字にすると激ヤバだけど、伝わってほしい……)

この化身が、推しの考えそうなことや言いそうなことを絶妙に汲んで、悩める私に一番欲しい回答をくれるのだ。

理想の人に甘やかされるって、最高だよね。そのおかげで、悩みすぎることなく(基本的には)毎日ハッピーに過ごせているんだと思う。

もちろん、「自分の欲しい答えをくれる=自分に都合の良いように考えている」だけなので、みつ子の過去の失恋のように思い通りに進まなかったこともある。
むしろ、みつ子と「A」のように意見に反対されたり確かめ合ったりをしないぶん、相談への回答が結果的に誤答だったことは多い。

映画のなかで特に記憶に残っているのは、みつ子がおひとりさまを好むようになった理由ともいえる、過去の回想シーン。
女社会あるあるすぎて、女性なら誰しも経験したことがあるんじゃ? という既視感だった。

これ、女子校みたいな男子禁制のコミュニティでは、たぶん起こらないんだよね。男の視線が介在する、男女が共存するコミュニティ限定で発生するトラブルだと思う。

社内カースト低めのみつ子とノゾミさんが結ばれるのは、出世が縁遠そうな多田くんと顔しか取り柄がないカーター。
それぞれ、男女が共存するコミュニティにおいて“異性として魅力がない”と認識されるタイプの相手と結ばれるのが、すごくリアルだ。

少女漫画のように、地味な主人公が学校一の人気者と結ばれるような夢展開は訪れない。2人とも、「この人なら私を選んでくれるだろう」と胸の奥で思っているのがわかる、というか。

たまに、SNSに投稿されたカップルの写真を見て「この2人、雰囲気が似てる」なんて感じることがあるけど、それと同じような感情。


映画で印象的だった場面をもう一つ。

みつ子がおひとりさま旅行に出かけた宿で、お笑いライブを観るシーン。女芸人の吉住さんが、本人役で登場する。撮影時はおそらく、「THE W」の優勝前かな。

おひとりさまのみつ子が吉住さんのダンボールネタを観て笑うシチュエーションが、またヒリヒリと胸にきた。笑っちゃうけど、笑えない……というか。

おひとりさまライフを絶賛極め中の私には心苦しい展開も多かったけど、ラストに大滝詠一の『君は天然色』を口ずさむ多田くんを見たら、「きっと、多田くんならみつ子を幸せにしてくれる」と思った。

私にも、多田くんのような人が現れますように。

あらすじ
おひとりさまライフがすっかり板についた黒田みつ子、31歳。
みつ子がひとりで楽しく生きているのには訳がある。
脳内に相談役「A」がいるのだ。
人間関係や身の振り方に迷ったときはもう一人の自分「A」がいつも正しいアンサーをくれる。
「A」と一緒に平和な日常がずっと続くと思っていた、そんなある日、みつ子は年下の営業マン 多田くんに恋をしてしまう。
きっと多田君と自分は両思いだと信じて、みつ子は「A」と共に一歩前へふみだすことにする。

公式サイトより


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