映画『花束みたいな恋をした』

恋人とは一緒に観ない方がいい、と巷で話題の映画『花束みたいな恋をした』

2月11日、テアトル新宿での上映後に、脚本を担当された坂元裕二さんのトークショーが開催されるという。

「こんな貴重な機会はまたとないはず」と思い、推し事で培ったチケ発スキルを活かしてチケットを2枚ゲット。販売開始早々、秒殺で完売するほどの人気だった。


でも、このトークショーを貴重だと思うかどうかは、当たり前ながらその人の価値観によって違う。

「え、出演者のトークじゃないの?」なんて言われたくないし、どちらかといえば、「チケット取れたんだ!すごい!」って喜んでほしい。そこそこ頑張って手に入れたチケットだし。

幸いにも、趣味の合う友達のスケジュールが空いていたので、付き合ってもらうことにした。


同じように、この映画の主人公たちは、“趣味が合う”ことをキッカケに出会う。

映画の始まりは、こうだ。

たまたま同じ終電を逃した4人の男女が、始発待ちをするためバーへ入る。みんなで会話をしているうちに、それぞれの趣味や価値観が見えてきて、意気投合した1組の男女が先に店を出てしまう。ここで店に残された2人が、主人公たちなのである。

ところで、好きな映画に『ショーシャンクの空に』を挙げる男と、実写版『魔女の宅急便』を挙げる女とでは、わりとすぐに話が合わなくなると私は思う。ていうか、よく考えなくても趣味も価値観も合わなそうである。

と、こんな具合に映画の冒頭だけでもめちゃくちゃ語れるくらいには、私自身ビビッときて、グサッとくる作品だった。


穂村弘、今村夏子、いしいしんじ、天竺鼠、きのこ帝国……などなど、劇中にはたくさんの固有名詞が出てくる。

これらは、主人公の麦と絹がそれぞれ、且つお互いに好きなものである。(ちなみにここで名前を挙げたのは、私が実際にハマったり嚙ったりしていたもの。劇中で頻繁に出てきた『ゴールデンカムイ』は読んだことないし、ゼルダのゲームは未経験だ。)


メジャー過ぎず、マイナー過ぎず。

もし、この固有名詞のどれかを好きなものとして挙げる男性がいたら?

私なら「それ選ぶんだ、センス良い!」と好印象を持って、他にはどんなものが好きなのか、相手のことがすごく気になるだろう。

電車広告で見て気になったけどまだ読めていない本とか、ラジオで流れていて気になったけどプレイリストに追加できていない曲とか、同じ嗜好を持つ人の感想は純粋に知りたくなる。

逆に、相手が気になっているものの中に、自分の知っているものがあれば、教えてあげたいと思う。

気が付けば、麦と絹のどちらかじゃなくて、どちらもに感情移入しながら観ていた。

坂元さんのトークの中で、
「序盤で2人が話していることの意味が全くわからなかった、と弟から感想を言われた。でも、それでいい。例えばサッカーだったり、それを好きな人同士にしかわからないのが共通言語、いわば外国語のようなものだから」
という話があった。

だから、もし観客が主人公たちと同じ嗜好じゃなかったとしても、観ている人がそれぞれ自分の好きなものに置き換えて楽しめば良いのだと。

「映画の中で出てきた作家やアーティストの名前って、観てる人の何割くらいが知ってたんだろう?」と疑問に思っていたから、なるほど、と理解した。現に、私は海外サッカーの選手の名前はほとんど知らないし。

劇中はどれも本当に素敵なシーンばかりだけれど、特にお気に入りなのは横断歩道のシーン本屋さんのシーン

横断歩道では、2人が初めてのキスをする。そのときの、それぞれの心の声。坂元裕二作品らしさ、と言っていいのかわからないかど、強く感じた。


対して、徐々に気持ちにズレが生じ始めた2人が、本屋さんへ行くシーン。

自分の好きな作家の本を見つけてルンルンな絹が、『人生の勝算』を真剣に立ち読みする麦の姿を見つけて、思わず立ち止まる。この本を読んだことがない人も、タイトルを見ただけで麦の変化がわかってしまう。最高な小道具の使い方だったな。


坂元さんのトークでは、劇中においてネガキャンの役割を果たす作品を選ぶときの苦労(その界隈のファンから怒られることがあるそう)や、本棚の中身は自分もチェックして主人公が読まなさそうなものは外した、という裏話をされていた。

本棚を見ることは、所有者の頭の中を覗くのと同じ。

なんて言葉を、聞いたことがある。この、本棚のこだわりの演出があったからこそ、作品にどっぷりとハマれたんだと思う。

そういえば、今まで付き合ってきた男性の本棚はビジネス書ばかり並んでるタイプだったな、なんて余計なことまで思い出してしまった。


映画を観てから何度もリピートして聴いてる、きのこ帝国クロノスタシス

どうすれば、2人は別れずに済んだのか?

別れない選択肢はなかったのかもしれないけど、自分なりに納得できる答えを見つけられるまで、何度も見返したくなる作品だった。

あらすじ
東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った 山音 麦(菅田将暉)と 八谷 絹 (有村架純)。好きな音楽や映画が嘘みたいに一緒で、あっという間に恋に落ちた麦と絹は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。近所にお気に入りのパン屋を見つけて、拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店しても、スマスマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが…。まばゆいほどの煌めきと、胸を締め付ける切なさに包まれた〈恋する月日のすべて〉を、唯一無二の言葉で紡ぐ忘れられない5年間。最高峰のスタッフとキャストが贈る、不滅のラブストーリー誕生!
──これはきっと、私たちの物語。

公式サイトより


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