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京都の立ち飲み屋にて

京都に1人で旅行した際、立ち飲み屋に寄った。

店内は混んでいて、私1人だったから隙間に滑り込めたと言えるくらいには、人でぎゅうぎゅうの店内だった。
全員が全員その場にいることを心から楽しんでいるかのような雰囲気で、とても居心地が良かった。ぎゅうぎゅうだからこそ、隣の人との距離は近く、知らない人同士で盛り上がっているようなお客さんもいた。

私は1人だったので、とりあえずビールでも頼んで、その場の空気に身を任せてみようかと考えた。
ビールを勢いよく流してこんで、少し落ち着いてみたところ、私の隣にいるおじちゃんに気が向いた。

「あぁ、美味しいなぁ…」


そのおじちゃんも1人だった。目の前には清く透明な、水よりも透明な気がしてくる日本酒と、醤油の程よい色味が付き、味がしっかり染み込んでそうなカレイの煮付けが置かれていた。
そのおじちゃんは、その日本酒をちびちび飲みながら、しきりに「あぁ、美味しいなぁ」ってしみじみと呟いてる。

「そんなにそのお酒美味しいんですか?」
「うん、とても美味しいよ!京都のお酒の玉乃光って言うんだけどね…」

玉乃光を頼んでみた。純米大吟醸のお酒だった。非常に柔らかい味わいで、酸味がちょうど良い美味しいお酒だった。のどごしも滑らかで、いくらでも飲めそうだと考えていた。
そのおじちゃんとしばらく話した。私と同い年くらいの娘がいること。出張で京都に来ていること。帰るのが名残惜しかったから、1人で飲みに来たこと。たわいもない話をした。

1時間くらい話したあと、おじちゃんは時間が迫ってきたようで、お会計を済まして帰っていった。。

「楽しかったです。またどこかで会えるといいね。」

もう人生において、会うことがないことはお互いに分かっている。そのおじちゃんはきっともう私のことは忘れているだろう。
ひとりでも心からお酒を嗜む姿は、私には非常に印象的に写った。そして、今でもよく覚えている。

私は、酔うためにお酒を飲みたくない。美味しいお酒を程よく楽しみたい。
大人のひとつの理想像ができたなって思った。おじちゃんの顔は今となっては思い出せないが、玉乃光をどこかで見かける度に、あのおじちゃんの姿を思い出す。
あの出来事から2年程度だろうか。


今となっては、私もおじちゃんのように、わりと上品にお酒を楽しめているのではと思う。まあ、もとからあまり酒は飲まないのだが。


羊文学 「銀河鉄道の夜」

ロックは継承される。私が大好きなアーティストが、大好きなアーティストのカヴァーをしてくれた。ライブで聴かせてくれ。これじゃ生殺しだ。