モデルからセレブの時代へ。インスタグラムの登場。「VOGUE(ヴォーグ)」に見る、ファッション誌の変遷

リンクする「VOGUE(ヴォーグ)」と「セックス・アンド・ザ・シティ」

働く女性のバイブル的映画「プラダを着た悪魔」には、メリル・ストリープ演じるファッション誌の鬼編集長が登場します。そのモデルが、「VOGUE(ヴォーグ)」の編集長として1988年の就任以降、雑誌業界のみならずファッション業界へ大きな影響を与えてきた編集長アナ・ウィンターだといわれています。

このアナ・ウィンターが登場するドキュメンタリー映画「ファッションが教えてくれること」(2009)と歴代のヴォーグ編集者たちのインタビュー「イン・ヴォーグ:ザ・エディターズ・アイ」(2012)を合わせて観ると、「VOGUE(ヴォーグ)」の歴史とともにアメリカにおいて、ファッションがどのように変遷してきたのかが分かります。

「プラダを着た悪魔」と同じく、中年女性のバイブル的ドラマである「セックス・アンド・ザ・シティ」にもたびたび「VOGUE(ヴォーグ)」が登場します。主人公の女性ライター、キャリーが「VOGUE(ヴォーグ)」にあるクローゼットルームに潜入し、歓喜しながらマノロ・ブラニクの靴を探すシーンがありますが、その実物が「ファッションが教えてくれること」にも登場します。このことからも、「セックス・アンド・ザ・シティ」はある程度「VOGUE(ヴォーグ)」の実像とリンクしていることが分かります。
ドラマのファーストシーズン(1998年)にて、モデルばかりをねらう男が登場します。キャリーはその男の女性遍歴を見て「信じられない。ヴォーグ9月号に出ているモデルの半分と?」と心情を吐露します。
1998年当時、「VOGUE(ヴォーグ)」の中心は登場しているモデルたちであり、愛読者であるキャリーはモデルの顔ぶれを熟知していたわけです。
実際に「VOGUE(ヴォーグ)」は創刊以降、ファッションモデルが有名になるための登竜門の役割を果たしていたといい、紙面には多数の有名モデルたちが登場します。

ファッションを通して“社会アート”を創る「VOGUE(ヴォーグ)」

モデルを発掘し、そのモデルたちにハイブランドの新作アイテムをまとわせて芸術的な誌面を作り上げることが「VOGUE(ヴォーグ)」の神髄です。
「VOGUE(ヴォーグ)」の紙面は、ファッションという枠を超えてアートのように仕上がっています。時にはアールデコ調の貴族のようなビジュアルであったり、個性的なヘアメイクをほどこされたモデルたちの写真は前衛的なアートのように映ります。

雑誌が作られる過程の気持ちを「イン・ヴォーグ:ザ・エディターズ・アイ」の中で、エディターが次のように語っています。「常に不安にさいなまれている。撮影のたびに苦悶している。」
芸術的な一面を切り取るために、ときには大胆な撮影方法を試みています。ぷっくりとした唇を表現するために、唇に蜂をのせて撮影したり、一糸まとわぬモデルに大蛇をまとわせて撮影をさせたり。大蛇が舌を出してモデルにキスした瞬間をとらえた写真を、エディターはこう表現します。
「腕輪はないほうが良かった。普通のファッション写真に見えてしまうもの。あの写真は別物よ。」
腕輪がなければファッション誌として成り立たないはずなのに、それを否定するくらい、作品としてのクオリティを追及していることがうかがい知れるコメントです。

そして、時にはファッションを通した社会風刺的な企画によって、世の中に物議をかもすことがあります。あるシーズンではかかとの高いハイヒールがトレンドで、実際に履いてみると歩くことが難しいものばかりだったといいます。エディターはこれを風刺するために、高いヒールを履いたモデルの足が金属のギプスで覆われていたり、松葉づえをついて両脇を抱えられているモデルの写真撮影します。この写真は障碍者への冒涜であると物議をかもしたのですが、エディター本人は「(足に)はめられた枠に光が当たってキレイ。わたしはカッコいいと思った」と表現します。先ほどのエピソードと合わせて「VOGUE(ヴォーグ)」がただのファッション誌ではなく、ファッションを通して社会を表すアートになっていることが、よく分かるエピソードです。
ちなみに、「セックス・アンド・ザ・シティ」でも主人公のキャリーが、ヒールを履いているから歩けないという理由で、タクシーを使うシーンが頻繁に登場します。マノロ・ブラニクの靴は素敵だけれど、長く歩くことは出来ないからタクシー移動、ハイブランドのパーティーバッグは小さくて携帯しか入れられないのでお泊りセットは恋人の家に置いておく。ハイブランドのファッションを実生活で身に着けようとすると起こる現実が「セックス・アンド・ザ・シティ」では描かれています。
このように「VOGUE(ヴォーグ)」とは、ハイブランドのアイテムを身に着けたモデルを、エディターの手によってアートに昇華させてきた雑誌でした。
しかし、アナ・ウィンターの就任後は、雑誌が変遷していきます。アナ・ウィンターはよりファッションの門戸を一般の人々に開き、ワードローブなども扱うように方向転換を行っていくのです。

モデルからセレブの時代に。そしてインスタグラムの登場。

編集長就任後の初の表紙では、クリスチャン・ラクロアのジャケットにあえてジーンズをあわせるというハイブランドとワードローブの融合を表現しています。

そして、2000年代以降の顕著な変化が分かるのが「ファッションが教えてくれること」です。「VOGUE(ヴォーグ)」のファッション特大号が発売されるまでの裏側に密着したドキュメンタリー映画ですが、映画中で2000年代以降の方針転換が明確に示されていることが分かります。「VOGUE(ヴォーグ)」のメインは長らくファッションモデルでしたが、2000年代以降はセレブの起用が多くなり、カバーガールをセレブが飾ることが多くなったのです。特大号の表紙を飾るのも女優のシエナ・ミラー、ページも大きくシエナ・ミラーに割かれます。
しかし、「VOGUE(ヴォーグ)」の誌面をずっと支えてきたエディターにとっては、これは面白くありません。エディターは自分の好みであるソフトな世界観で、アートな誌面づくりをしようしますが、ことごとくアナから却下されてしまいます。映画中ではこの方針をめぐってアナ・ウィンターとエディターによる水面下の攻防が見られ、エディターは誌面の構成を見て「シエナばっかり。22ページも」と落胆してつぶやきます。
結局、最後にはシエナ・ミラーを撮影したカメラマンのミスなどにより写真が足りなくなり、当初はボツばかりだったエディターの企画に大きくページが割かれることになります。
映画はここで終わるのですが、これ以降もセレブブームは続いていくわけです。「VOGUE(ヴォーグ)」がワードローブとの融合を打ち出してファッションの門戸を広げ、より一般にウケるセレブ扱っていく流れは止められないのです。
(そして、アナ・ウィンターが取ったその手法は、その時点ではマーケティングの観点で大変正しかったのです。)

ここまでが2010年前後までの「VOGUE(ヴォーグ)」の変遷とそれを取り巻く状況でした。それから数年経って、大きく変化したことがSNSの隆盛およびそれにセレブたちが乗り出していることです。
セレーナ・ゴメスやテイラー・スウィフトといった若手のセレブたちは、インスタグラムで1億人を超えるフォロワーを有しており、セレブ自らがSNSを通してオフショットなどをフォロワーに届けられる時代になってしまったのです。
セレブの企画がメインであった「VOGUE(ヴォーグ)」にとっては、厳しい環境といえるでしょう。

「メディア360°」によると2016年3月の紙と電子版を合わせたユニークビジター数が12,061、2017年6月が11,929、2018年6月が10,812(※単位 1,000)ですから、電子版を合わせても誌面の閲覧数はじわじわと減少しているようです。
「メディア360°」は誌面のみならず電子書籍、web版なども合わせた総合評価の指標なのですが、動画カテゴリに関しては2017年6月が1,270が、2018年6月には4,554と大きく成長しています。動画コンテンツに成長の兆しがありそうですが、写真と動画では成り立ちと構成の手法が全く異なります。1ページの誌面にかけるエディターの手法は動画というコンテンツになった瞬間に必要なスキルが異なるため、もしもこのまま動画に注力するとなった場合は、エディターの人員が削られて動画コンテンツサイドのクリエイターが増員されるかもしれません。
さきほどの2つの映画からうかがいしれるエディターの誌面にかける情熱を見ると、とても複雑な気持ちになるのです。

ファッションが教えてくれること(字幕版)
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イン・ヴォーグ:ザ・エディターズ・アイ (字幕版)
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※データ出典
http://www.magazine.org/sites/default/files/June%20360%C2%B0%20BAR%20Month%20%26%20YTD_2.pdf

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とりさん

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