妊娠できないことには理由がある!?

ヒトの妊娠率は低い

通常、不妊症の原因のないカップルが、避妊をしないで夫婦生活を送ると1カ月でどのくらい妊娠するでしょうか?
ヒト以外の哺乳類でいえば、例えばウサギやヒヒは1カ月で80~90%妊娠することがわかっています(文献12)。しかし、ヒトは1カ月でたった20%しか妊娠しません(文献3)。ヒトはとても生殖能力が低い動物なのです。

月経周期ごとの妊娠率

なぜヒトはこんなにも妊娠率が低いのか?

通常、ヒト以外の動物は一部の哺乳類を除いて一度に多くの子どもを出産し、おとなに成長する過程で自然界の中で淘汰されていきます。一方、ヒトを含む一部の高等動物は、妊娠するときにすでに淘汰され、単胎(ひとりの赤ちゃん)で妊娠し出産します。特にヒトは進化の過程で二足歩行になり、女性の骨盤が狭くなり、かつ脳が成長したことで、動物のなかで最も難産になりました。そのため、妊娠するまでの淘汰を厳しくすることで難産に耐えうる受精卵が選ばれている可能性があり、その過程のなかで妊娠率が下がってしまったのかもしれません。

出産そのものがひとつの「奇跡」!

1回の排卵において約30個の卵子から1個選ばれ、他の卵子は排卵もできないで消えていきます。
また1回の射精で5千~5億の精子が射出されます。そのうちのひとつが受精し、受精卵になってもさらに厳しい淘汰があります。

射精精子:5千万〜5億のなかの1個が受精    原始卵胞約30個から選ばれた1個が排卵
精子と卵子の自然淘汰


ヒトにおける受精卵の淘汰についてはよく氷山に例えられます(Embryo Wastage Iceberg)(文献4)。受精卵がもし100個あったとすると、約30個が子宮の中に着床する前に喪失され、さらに30個が着床直後に淘汰されます。これを「生化学的妊娠」といいます。避妊をしないで夫婦生活をとっていて、月経の起きた直後に妊娠検査を行うとうっすら陽性に出ることは、不妊症ではない夫婦では実はよくあることなのです。

受精卵の自然淘汰(Embryo Wastage Iceberg)

さらに無事に子宮の中に着床し妊娠した後でも、10~20%が流産し、残った一部は妊娠中の合併症などが起こり、乗り越えた胎児のみが出産できます。つまりこのような厳しい淘汰を乗り越えたあとの出産は、ひとつの「奇跡」なのです。

生殖年齢と妊娠率の低さの関係

ヒトの生殖年齢は一般的に20~50歳といわれていますが、ヒト以外の動物の繁殖年齢はおそらくヒトでいう10~20歳にあたります。ヒト以外で閉経するまで生きている動物は、ほとんどいません。そのため、ヒト以外で年齢による不妊症が問題になることはありません。ヒトの妊娠率の低さは、寿命が延びて生活習慣も変わり、生殖年齢が高齢化したことと強く関係しています。

12カ月妊娠できないことが不妊症の目安となる?

ヒトは正常に妊娠できる能力をもっていれば1カ月で20%妊娠します。単純計算で累積妊娠率を出すと6カ月で73.8%、12カ月で93.1%になります(文献3)。つまり、6カ月で26.2%、12カ月で6.9%の夫婦が偶発的に妊娠できません。不妊症とは、「12カ月以上避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合」と定義されており(文献5)、これらのデータからも不妊症を「12か月以上」と定義するのは妥当かと思います。
1年以上夫婦生活をもっても妊娠しない場合には、どこかに妊娠できない原因が存在する可能性が高いです。どんな病気でもその病気の原因を取り除かなければ治りません。
不妊症の治療の基本は不妊原因をみつけて、治療をすることです。1年以上妊娠しないカップルは、一度不妊治療を行っている産婦人科で精査することをお勧めします。

参考文献

1)Stevens VC: Some reproductive studies in the baboon. Hum Reprod Update 1997; 3: 533-40.

2)Viudes-de-Castro MP, Vicente JS: Effect of sperm count on the fertility and prolificity rates of meat rabbits. Anim Reprod Sci 1997; 46: 313-9.

3) Evers JLH: Female subfertility. Lancet 2002; 360: 151-9.

4) Chard T: Frequency of implantation and early pregnancy loss in natural cycles. Baillieres Clin Obstet Gynaecol 1991; 5: 179-89.

5) 日本産科婦人科学会:産科・婦人科の病気 不妊症.https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=15


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