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#8 おばあちゃんだけど、時々転生代行救世主やってます

「崩壊…」
 シロちゃんが呆然と繰り返した。
 私自身、異世界転生される魂のかわりに世界を救ってこいなんて言われてたから、てっきり悪者さんが大暴れしてるのを止めたり、魔王城に行ったりするものだとばかり思ってたんだけど、まさか世界崩壊をなんとかしなきゃいけないなんて思いもしなかったわ。
「それは…俺達でどうにかなるものなんですか?」
 今度はクロ君が恐る恐る尋ねる。
 閻魔様の力で体が若返ったとはいえ、元は寿命を終えた、ただの老婆と老猫2匹。
 そんな私たちに何が出来ると言うのだろう?
「できる…と言うか、他の世界から来た君達にしか出来ないんだ」
 ミクベ神はそう断言すると、畳の上に胡座をかいてパーカーのポケットからメモ帳を1枚破りとり、サラサラと何やら書きだした。私やシロちゃんクロ君は身を乗り出し、その手元を覗き込む。
 そこには立方体を3つに区切り、中央に棒の様な物が天地を貫くように描かれていた。
「これが僕が作ったミクベリアの略図。真ん中の部屋が今僕達が居る地上界で、上が天上界、下が地下界。真ん中の棒が柱ね」
「こんなサイコロみたいな形をしてるんですねぇ」
 私の中では地球が世界の形だったから、こんなカクカクした世界は不思議でしかない。
「等分で分けようと思ったらどうしてもね。で、今この地下界の僕が殺され不在により、柱が支えられなくなっている。だが、僕を起こしてもらえれば柱をまた支えられる訳だ。ただ問題があって、ミクベリアの人達は各階層を移動できない。でも…」
 ミクベ神がグルリと私達を見回した。
「世界線を越えてやってきた私達は階層の移動ができる、という事ですね?」
 なるほど。だから、わざわざ異世界からの魂を求めていたのね。
「確かに私達なら地下界に行く事ができるかもしれないですが、とはいえ行った所で柱は勿論、神様を生き返らせる事なんて出来ますかね?」
 もうそれは人の手が及ぶところではないと思うのだけども…
「そこは心配しないで。柱もだけど、自分の事は自分でなんとかするから」
 そう言って、ミクベ神は襟元からゴソゴソとペンダントを取り出し、嵌め込まれていた小指の爪程の青い宝石の様なものを外して差し出した。
「はい、コレ」
 両手で受け取り転がすと、宝石本来の輝き以上にキラキラと輝いている。
「その宝石の中に僕の力を封じ込めてある。その宝石を地下界の僕の体の上で割ってもらうだけでいい」
「体?ミクベ様の体はまだあっちの世界に残ってるの?」
 シロちゃんが疑問の声を上げる。正直、私も少し意外だった。
「残ってる。さすがに神の体は人が完全に破壊する事は出来ないからね。そもそも頭は本物でも体は今ここにある物が本体で、他2つは仮初の作り物だし、頭さえ残ってたら時間を掛けて復活する事は出来るよ。ただ、この体を徹底的に刻まれて、頭も同時に破壊されたら、さすがの僕も復活出来ないと思うけど」
 ヒュッと息を飲み、シロちゃんが真っ青になってしがみついてきたので、ヨシヨシと頭を撫でてあげる。
 ミクベ神は冗談交じりで明るく話してたけど、けっして気持ちのいい話ではない。ここはサッサと話を元に戻しましょ。
「じゃあ、私達はこの宝石をあなた様の分身の上で壊すだけでいいんですね?」
「そうだね。そうしたら下の僕の頭だけでもすぐに体を戻す事は出来るし、そこからまた再び柱を支えられるようになるはずだ」
 ならば柱自体の問題は解決になるけれど、他に問題は残っている。
「では、地下界のミクベ神様が復活したとして、それを知った地下の人達がまた殺しにくるかもしれないんですが、それはどうしたら?」
 自分達が神を殺した結果起きた危機について、現在地下の人達はどう思っているんだろう?もしかしたら、この世界と同様に気付いていないのかもしれない。
 そして復活した神に対してどう思うのだろう?今度は敬うのか、それとも慄くのか、はてまた次こそは神を征服しようとするのか…
「それは僕だけじゃ解決出来ないかな。地下の僕が復活した後、あっちの世界の人達と話し合って理解を深めていくしかないかな?ほら、人間同士だって酷い喧嘩した後はなかなか仲直り出来ないでしょ?」
 それはまぁ確かに。
「だからと言って、また問題が起きても世界危機が起きないよう対策は立てておくよ。ただ、今はともかく柱の崩壊を防ぐのが先だ」
「そうですね…はい。では、早速地下界に向かう事にします」
 私はクロ君に目配せをし、すっかり怯えて本来の白猫姿に戻ってしまったらしいシロちゃんを抱き上げた。

#9へつづく


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