10年前の私に伝えたい、ありがとうとごめんなさい

あなたへの手紙に何を書けばいいのか、たくさん考えたけど、いまいち判然としません。過去から未来に手紙を託すことはいくらでもできるけれど、未来から過去に向けて手紙を託すことはある意味過去へのお説教みたいになってしまってそれ自体が暴力的であり、私もあなたもそういう言葉が大の苦手だからです。それでも久しぶりにこうして文章を書いているのは、今しかあなたに伝えられないことがあるのではないか、と感じているからです。

少し私の自己紹介をします。27歳の社会人9年目、電動車いすに乗りヘルパーを付けながら一人暮らしをしています。独身です。少し前まで付き合っていた人がいたけど残念ながら別れました。平たく言えば、あなたが卒業後の進路として望んでいた毎日を過ごしています。10年前のあなたのことをいくら思い出そうとしてもなかなか思い出せません。ついこの間のことのように思っていたけれど、しっかり時間は進んでいるんですね。 
現在の私の生活は、今までのあなたや未来のあなたが努力したからできている生活です。過去への手紙なのであまり詳しく書くことは避けようと思っているのですが、あなたは本当に望む未来に一直線に進む、すごい人です。
今は10月なのでちょうど来年の科目選択をしているころだと思います。結局楽しむための科目を一つも入れられなかった、と落ち込んでいるでしょうか。文化祭も終わって、修学旅行ももうすぐですね。
あなたは目標に向かってちゃんと進める人です。だからそのまま進んでください、と言いたいところなんですが、そう言ってしまうにはあまりに一直線すぎるところがある、と思っています。本当はあなたも気づいているのではないですか? 夏服の期間が終わっても夏服を着る人たちが本当はちょっとうらやましかったのを、私はよく知っています。障害者である自分とそうでない周りの人たちとの差を見ては悔しくなって泣いていたことも、よく覚えています。家族との関係にも悩んで、どこにも居場所がないと思っていましたね。残念ながら、10年経ってもそういう感情と無縁ではありません。この手紙を書いている今も同じようなことで泣いていることがあります。あの時のあなたは本当に苦しかったと思います。自分の障害がどういうものか理解していなくて、理解していないがゆえに自分が頑張ればいいと思っていました。
でもだからこそ、あなたに言っておきたいことがあるのです。未来も楽しいことばかりではないけれど、生きていてよかったと思うことがあります。あなたが今聴いているバンドのライブには就職してからたくさん行きます。両親との仲も本当に少しずつではあるけれど一人暮らしを始めれば改善します(だからといって今我慢しろとは言いません、むしろもっと感情を表に出していいです)。私がこの文章を書いている理由となるコミュニティも、未来のあなたが見つけます。ついこの間、みんなで一緒に奄美大島に行きました。文章を書くことが苦手で、できるだけ避けて通りたかったはずのあなたが望んで文章を書き、できなかった障害の理解と説明が少しずつできるようになって、それを受け入れてくれる人たちと一緒に旅行をするなんて、信じられないことです。私は帰ってきた今でもちょっと信じられない気持ちでいます。他にもいろいろ書きたいけれど、ネタバレは自粛します。
だから頑張ってください、なんて言いたくありません。そんなことは未来からの暴力だと知っているからです。 だけどあなたのことをよく知る人間として、言わせてほしいのです。
もっと、自分に優しく、楽しく生きてください。自分の生活におけるいろいろな困難を実感してしまったがゆえにまっすぐ目標に進もうとするあなたに、私はとても感謝すると同時に、申し訳なくなってしまうのです。若いあなたの貴重な時間を、現在の私が快適に生きるために使ってしまった。あなたはそれを未来に対する最良の選択だと考えて進んでくれていたけれど(そしてその結果だけを考えれば未来はとても正しく見えるけれど)、人生は正しいか正しくないかだけで測れるものではないことに、大人になってやっと気づくことができました。もちろん正しく生きようとすることは大切だけど、学校に行きたくないときは無理して行かないとか、制服をきちんと着ないとか、少し正しくないことをしてできる思い出やそれをした時の思考なんかも、持っていればきっとあなたを、そして私を助けてくれるものだったんだろうな、と今になって思うのです。あなたが頑張って、自分を成長させて状況を変える以外の選択肢を、これを読んでいるあなたがもっと自由に生きられる選択肢を選んでほしいと思っています。できることを選び取ることは大人になったら嫌でもしなければならないから、せめてあなたは、自由に生きてほしい。そんなに頑張らなくてもいい。いろいろなことに傷つくあなたを変えるのではなくて、少し逃げるくらいがいいです。あなたが傷つくのは、あなたのせいじゃない。
こんなことを書いても、あなたはよく頑張る人です。きっとこれからも、死にたくなる夜がたくさんあると思うけれど、それでも私までつながりました。だから大丈夫です。今のあなたや未来のあなたからもらったものは、私がきっと未来に持っていきます。
それでは、私はこれで。この手紙を読んだあなたに、未来で怒られないように、私も私を大切に生きます。

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