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大人になって 村上春樹を知る

わたしは、村上春樹と誕生日が同じだ。
「あなたと同じ誕生日の芸能人はこちら!」の欄に「村上春樹」と書いてあって、友達と盛り上がれなかったことを覚えている。

15歳のとき、初めて村上作品を読んだ。
「海辺のカフカ」上下巻。
小学生の頃から小説が好きだった私にとって、村上春樹はかなり背伸びをした選択。しかも生まれて初めての上下巻への挑戦だった。
頑張ってがんばって読み進めて、下巻の最後まで読んだときに感じたことは
「え・・?ナニコレ・・・」。
全く意味が分からなかったし、私が上下巻の長編小説に期待していた高揚感もスリルも、これっぽっちも感じることができずに終わった。

これ以来約16年間、「私、村上春樹は好きじゃないんだよね。独特過ぎてまったく入れない感じ!」というセリフを、本の話題が出るたびに繰り返し使っていた。

そして今年の4月、6年ぶりの新作長編が出るということで
どこの本屋さんにも「街とその不確かな壁」の大きなポスターが貼られた頃、私は試されている気がしていた。
休みの日は必ず本屋さんに行くので、嫌でもポスターと特設売り場が目に入る。
村上春樹の新刊を手にし、何ページかめくり、そのままレジに向かう大人を見て、「まあ、君にはこの面白さは分からないだろうから、大人しくお気に入り作家の小説でも読んでれば?」という声が聞こえる。

「海辺のカフカ」上下巻に裏切られたときの記憶は鮮明に残っている。
でも私は、あれから16年もの人生を経験している。
「よっしゃ、読んでやろうではないか」
勇ましく特設売り場に向かうも、さすがに16年ぶりの村上作品がハードカバーなのは恐れ知らずすぎるか?と躊躇した私は、
隣に並んでいた「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を買った(16年ぶりの挑戦もやはり上下巻作品)。

家に帰って読んだら、めちゃくちゃ面白かった。
次の日、仕事の休み時間に下巻を買いに行き、一気に読んだ。
寝る前ベッドの上でうつぶせの体勢になり、肘をついて読んでいたら没入しすぎて腕がものすごい痺れた。
でも本当に面白かった。
15歳の私がつま先ほども入れなかった世界に、頭のてっぺんまでどっぷり浸かった。
そのあと喉越し滑らかに「ねじまき鳥クロニクル」上中下巻を読破し、
現在「1Q84」にのめり込んでいる。

大人になるって楽しい、そう思った体験だった。
食わず嫌い、読まず嫌いは勿体ない。
私にどれだけ嫌われても、変わらず本屋さんにいてくれた村上作品、ありがとう。
どうぞこれから、よろしくお願いいたします。

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