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この世って、意外と自由なんだな

完全に偏見なんだけど、ロシア系の人々はこう、日本人の思っている標準とは少し違うパンクな面があると思う。

この文章は、わたしが10年前の2009年3月から一年間、中国に留学していた頃の回顧エッセイです。毎週火曜19時に更新しています。


長春は中国の東北地方に位置するだけあって、ロシアやタジキスタンなど、旧ソビエト系の留学生の割合も多かった。

留学生寮で夜中に大音量でR&Bとかかけて酒瓶転がしているのは大体彼らだった。全然眠れないから静かにしてよ!と言っても聞く耳持たず。明日の授業なんて気にしない。
日本を代表する某音楽番組を突然出演キャンセルして、司会者のサングラスの向こうの瞳をまんまるにさせた二人組もそうだっけ!

無鉄砲で怖いもの知らず。
そんな印象もあって、ロシア系=破天荒なイメージがあったのかもしれない。本当に、ただの偏見だ。

クラスメイトの中に、いつもラブラブで授業を受けているロシア人カップルがいた。席は隣だし、発表も一緒。何をするにもどこに行くにもとにかく二人一組で、仲睦まじいものだなと思っていたのだけど、ある日悲劇は訪れた。

女の子一人しか授業に来なくなったのだ。

3日、4日、一週間たっても男の子は授業に現れなかった。噂によると破局したという。
まあ、恋愛の9割は破局エンドだ。わたしたちはバッドエンドルートを何度も繰り返して最後にやっと結婚という名のハッピーエンドにたどり着く。
まあ最近は結婚もハッピーエンドと呼ぶとは限らないけれど。

それにしたって、恋愛がバッドエンドだったからってなにも留学もバッドエンドになるわけじゃなくない?
青年よ、授業はどうした?まだ傷心か??

しかし彼には秘密があったのだ。

気弱な日本人のわたしには、それは今まで聞いたこともない衝撃的なものだった。


彼、そもそもうちの大学の学生じゃなかったらしい。


愛する彼女のために、わざわざ隣の大学から通って一緒に授業を受けていたそうだ。よく考えたら出欠をとるときに、先生は彼の名前を呼んでいなかった気がする…。

え!そんなのってありなの!

『授業料が…単位が…ばれたらどうしよう…先生に何か言われたら…せっかくつかんだ留学のチャンスだし…日本の大学にもなんて言えば…手続きが…』

なんて、気弱なわたしなら次々と頭によぎるそんな思いをあっさりと飛び越えて、愛のためなら大学の垣根も軽々と超えるロシア人の破天荒ぶりを垣間見たのだった。





だってできる?
でもできたらちょっと素敵かもな。


なんとか生きていけます。