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【試し読み版】 喧嘩のバイパス / 稀人書店 『喧嘩ノ生態』 より

こちらの投稿は、2023年11月11日(土)に開催される文学フリマ東京37で販売予定のオムニバス『喧嘩ノ生態』by 稀人書店  より、私が寄稿した「喧嘩のバイパス」の冒頭部分を掲載したものです。つづきは文学フリマ東京37またはオンラインで本作をご購入いただきお楽しみください!
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喧嘩のバイパス


 ある夏の日の午後4時。近所にあるジムのマシンに腰掛け、お尻の筋肉をいじめ倒していた。座ったまま膝を外へと押し開く。 56キロの負荷に、お尻がぷるぷる震えている。それに呼応して、体を支えるバーを握りしめる私の拳もぶるぶる震えている。

 出がけの夫とのちょっとした喧嘩のおかげか、やけにこの日は筋トレがはかどった。ああもし、ここがボクシングジムだったなら。きっと会心の一撃が繰り出せただろうに。

 その日は台風で、外出の予定も入れられず、家族4人、家の中で暇をもてあましていた。夫はいつものごとくパソコンを広げ、自分の世界に入り込んでいる。10歳の息子と3歳の娘は、あれやこれやと3分おきに用事をいいつけてくる。

「はいはいはい」
「あいよー」

 なぜか私ばかりがバタバタとしていると、横目にパソコンをカタカタしている夫の姿が目に飛び込んできた。なぜだ。なぜなんだ。母親も父親も、育児に関わる責任は同等にあるはずではないのか。

 まあ、こんな風景は日常茶飯事である。しかし私にとって、それは積もりに積もって一年中溶けない万年雪のようなもの。夫の姿を見る私の目は、さぞ冷ややかであっただろう。そんな私の心の氷のカケラは、気がつくとバイト先のお局様よろしく嫌味となってこぼれ落ちていた。

「休日の昼間くらいパソコン閉じてって、いつも私、言ってるはずなんですけどねー。旦那さまには、聞こえてないんでしょうかねー」

 なんてありがちな言い回し。こんな言い方じゃ響くわけがない。そう分かっていても、こんな定番の台詞を吐き捨ててしまう自分が嫌になる。

 すると、「ハァ」と夫がため息をつき、こちらに一瞥を投げた。そして、またすぐにパソコンの世界へと再び戻っていった。ひと言もないその反応に、さらに私の心はずしん、と凍りついた。

「嫌味なんて、私だって出来るなら言いたくないよ。こんなんで長く一緒に居られるのかな……」

 そうつぶやいたところで夫にはもちろん届かない。


 もやもやしながら家事をしていると、おもむろに夫のいる奥の寝室から音楽が流れてきた。それは……



(つづきは稀人書店『喧嘩ノ生態』にてお楽しみください!)


稀人書店オムニバス『喧嘩ノ生態』

稀人書店オムニバス『喧嘩ノ生態』

"喧嘩ってそんなに悪いもの?"


記憶に残る喧嘩の思い出や、喧嘩へのあこがれをしたためた
稀人ハンター川内イオ率いる稀人ハンタースクールの卒業生たち14名による
「喧嘩」にまつわるエッセイのオムニバスです。

A5サイズ 100P 定価1,500円

◆目次◆
・妄想喧嘩/白石果林
・ドラマのあのシーンに憧れて/永見薫
・スペイン喧嘩哲学/きえフェルナンデス
・40歳、喧嘩始めました/田中真穂
・白浜リゾートバイトの憂鬱/日向みく
・小気味いいケンカは、ラピュタの中に/野内菜々
・一人相撲/マエノメリ史織
・島育ちの娘と私/片岡由衣
・ノーガードでフルボッコにされた私が、チートを手に入れて反撃するまで/ロマーノ尚美
・仏の皮を脱ぎ捨てて/さおりす
・くだらないケンカの中に/奥村サヤ
・プリの門/正井彩香
・ふんぬぅ旅行記/甲斐りかこ
・喧嘩のバイパス/谷本明夢


稀人書店

稀人ハンター川内イオ、他16名のライターで共同運営。稀人ハンタースクール卒業生の「ただひたすらに書きたいもの」を集めたのが稀人書店です。


#文学フリマ東京37 出店
11月11日(土) 12:00〜17:00
東京流通センター

「稀人書店ー出版欲が止まらないー」
第一展示場 ブース: D-01-02

《文学フリマ東京37出品内容》

⚫︎稀人書店オムニバスvol1 『喧嘩ノ生態』1500円
⚫︎川内 イオ『キミのお尻にカビを生やしちゃって、ごめんなさい。〜稀人ハンター子育て日記〜』2000円
⚫︎木下綾『かみさま、わすれない』1300円
⚫︎ウイルソン麻菜『ミニトマト農家さんに会いに行ってみたら、』1000円
⚫︎さおりす『正しい道より楽しい道を。娘・コリスとの日々の記録。』1000円
⚫︎マエノメリ史織『ゲートをくぐった子ども 「ほら」じゃないよ「ホラー」だよ』500円
⚫︎永見薫『あのひとの居場所』1000円
⚫︎谷本明夢 『ヤドカリ』700円


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