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福利厚生制度をアップデートすべき理由とは?既得権化の危険性を解説​​​​

【スタートアップ×組織人事コラム #5】

「スタートアップ×組織人事コラム」とは、マーサーの有志が運営するスタートアップ企業向けの連載コラムです。組織・人事フィールドで長年蓄積したノウハウをもとに、企業成長をサポートする情報を発信していきます!

​​​スタートアップ企業は組織変化や成長スピードが早いため、創業当時に作られた福利厚生制度が形だけ残っているケースも見られます。また、古い制度が既得権化してしまい、制度改定の際に既存社員から反発を受ける場合もあるでしょう。​

​​本記事では、​​福利厚生制度の概要や目的をはじめ、福利厚生制度を定期的にアップデートすべき理由を解説します。​​スタートアップ企業の福利厚生事例や、IT人材や若手社員が求めている福利厚生制度の​​調査結果も紹介するので、参考にしていただければ幸いです。​


福利厚生とは?制度の概要と目的​

​福利厚生とは、社員とその家族に対して提供する制度や施策の総称です。法律で費用負担が義務付けられている法定福利と、企業が独自に負担をする法定外福利に分けられます。

法令上、法定福利と法定外福利の定義はありませんが、厚労省により法定福利費と法定外福利費の用語は次のように説明されています。

法定福利費:社会保障制度の企業負担分である厚生年金保険料、健康保険料、労働保険料、介護保険料

法定外福利費:住居や食事に関する費用、医療保険に関する費用、慶弔見舞金の費用など

福利厚生は、企業の採用力強化や人材の定着、社員の働く意欲向上などを目的として実施されます。 なお、本記事では企業が独自に取り組む法定外福利について取り上げます。

スタートアップ企業は福利厚生​​をいつアップデートすべきか​

​​ミドル​​、レイター​​期に入ったスタートアップ企業は、社員数も増え、人事制度や福利厚生のさらなる充実を図るタイミングといえます。​

​​一般的に、大企業よりもスタートアップ企業は福利厚生が少ない傾向がありますが、​​​積極的に​​福利厚生を導入しているケースも多々見られます。​​近年は特に、リモートワークを推進する制度や、法定休暇に加えて取得できる休暇制度​​、子育てや介護を行う社員をサポートする制度の導入が相次いでいます。​

​​また、スタートアップ企業は​​事業スピードが早く、組織の人員の入れ替わりも多いです。組織状況​​​​が変化したにもかかわらず、「福利厚生は導入した当初のまま」になり形骸化しているケースも見られます。

​​​福利厚生制度は長く放置してしまうと、​​制度が​​既得権化​​して​​、見直しが一層難しくなる場合も。​​既得権化とは、社員が長くその権利を有していたことから、当然あるものとして認識されてしまっている状況になることを指します。

創業時の組織状態にあわせて導入した福利厚生制度を長く維持しすぎることにより、旧制度が既存社員の実質的な権利として捉えられ、制度改正時の難易度が上がってしまうことがあります。さらには、内容を追加しすぎて、目的が不明確な制度になってしまう事象も起こりやすいです。

そのため、組織の変化や人員状況に応じて、定期的に福利厚生をアップデートすべきでしょう。

​​IT人材や若手社員はどのような福利厚生を求めているか?​

​​福利厚生制度を企画する際の参考として、IT人材や若手社員が求めている福利厚生を紹介します。ここでは​ギークリーメディアのIT人材を対象としたアンケート​と、​Wantedlyが実施した福利厚生人気ランキング​をもとに解説します。​

​​​年代別に見ると、20代の84%が福利厚生を重視しており、20代から30代の若手層のほうが福利厚生を求めている結果となりました。若手人材を中心に採用活動を行うスタートアップ企業なら、福利厚生への注力は必要不可欠といえるでしょう。​​​​​​

​​​また​​、​​IT人材を対象としたアンケート​​では、転職の際に福利厚生を重視する人が全体の77%となりました。福利厚生を重視する理由としては、「ワークライフバランスを重視しているため(70%)」と回答した人が最も多く、次いで「キャリア形成に役立つため(16%)」「業務効率化のため(14%)」と続きます。​

​​福利厚生を人気順に並べると、1位「リモートワーク補助」、2位「スキルアップ補助」および「住宅補助」、3位「特別休暇」となります。一方、より幅広い業種を対象としたWantedlyのアンケート結果では、1位「特別休暇」、2位「住宅手当」、3位「ヘルスケアサポート」となりました。​

​​4位以降では、自己啓発支援や子育て世代への支援、財産形成支援、慶弔支援などがランクインしており、おおよそ休暇制度かライフイベントに対する金銭補助に大別されます。​

ただし、上記はあくまでアンケートの一般的な意見の集約に過ぎません。各社のポリシーや集めたい人材像、会社として伝えたいメッセージなどを考えたうえで、それらに合った福利厚生を用意することが重要です。

​​ユニークな福利厚生制度を取り入れた事例​

スタートアップ企業の場合は対象人数も少ないため、ユニークな制度も入れやすく、そのユニークな制度が話題になると人材獲得にも効果があります。スタートアップ企業やメガベンチャー企業が取り入れている福利厚生事例を紹介します。自社の福利厚生制度を見直す際の参考にしてみてください。

株式会社メルカリ​

​​メルカリでは、出産・育児や介護、病気等で仕事を休まざるをえない際の支援等をまとめた制度を「merci box(メルシーボックス)」と名付け、2016年2月に導入をしました。事業成長とともに制度の見直しを進め、2021年5月1日には「卵子凍結支援制度」と「0歳児保育支援制度」の2つの制度を試験導入しています。​

​​また、休暇制度の対象範囲を社員本人だけでなく、ペットやパートナーを含めた家族まで拡大。当休暇制度は、社員本人の病気やケガを事由とした休暇を年10日間取得できるもので、法定の年次有給休暇や社会保障制度による休暇とは別に付与しています。​

​​子育てと仕事の両立のサポートが求められる中で、メルカリは「妊活の支援」「認可外保育園補助」など幅広い福利厚生制度を導入しています。また、制度対象者を同性パートナーや事実婚の社員にも広げたり、約20か国から来日した社員の生活サポートをしたりするなど、多様な人材が活躍できる環境づくりを意識しています。​

​​参考「​メルカリ、多様な人材が活躍できる環境を目指し、 卵子凍結・0歳児保育支援制度を新たに試験導入​」​

​​株式会社SmartHR​

​​人事労務システムを提供するSmartHRでは、「働きやすさ」「育児サポート」「コミュニケーション活性化」「スキルアップ」「季節モノ」といったカテゴリごとに、細やかな福利厚生制度を導入しています。​

​​例えば、あらゆるパスワードを一括管理する「1Password」を全社員に付与したり、出産前に「出生準備休暇」を設けたりしています。リモートワーク手当を支給する企業や、出産後の休暇制度に目を向ける企業が多い中で、手のかゆいところに届くようなユニークな福利厚生制度を取り入れている点が特徴です。​

参考「​SmartHR採用情報​」​

​​グリー株式会社​

​​グリー​​株式会社​​では、社員のライフステージに合った働き方が出来る環境づくりを目的とした「GREE Family Support」、社員のライフスタイルを支える「GREE Lifestyle Support」、社内のチームビルディングを活性化する「GREE Team Building Support」の3カテゴリで多様な福利厚生制度を導入しています。​

​​幅広い社員が利用できる在宅勤務、特別休暇、時差・時短勤務等の制度を充実させ、2015年4月に厚生労働大臣の認定である「くるみんマーク」を取得されています。​

​​ライフスタイルサポートでは、​​ワン​​コインで受けられる指圧マッサージや従業員持株会、企業型確定拠出型年金などを導入。チームビルディングでは、主にチーム会食費用の補助や公式クラブ活動の補助を行っています。​

​​社内マッサージは健康経営の取り組みでもあり、打ち上げや新入社員歓迎会の会食補助はチームビルディングに効果が期待できます。福利厚生制度を単独で捉えず、他人事施策と関連付けた制度設計が特徴的といえるでしょう。​

​​参考「​グリー株式会社 福利厚生制度​」​

​​福利厚生を運用する際の注意点​

​​福利厚生の運用時は、意図せず​​受益者​​の偏りが発生しないよう留意が必要です。​

​​​例えば、​​​​従来の住宅支援の福利厚生は「新卒から定年まで1社で勤め上げる世帯主の男性と、専業主婦の女性」という家族を前提として作られたものも少なくありません。​​女性は地域限定採用や補佐的な職種が主流で、数年勤務をした後に結婚退職をするのが一般的と考えられており、住宅支援の対象外でした。​​

​​​​​​​しかし、時代の流れで共働き世帯が一般化し、​​男女ともに同じような職種を担うケースが増えてきました。また、​​婚姻にとらわれないパートナーを「家族」とするなど、価値観が多様化しています。​

​​本来は、時代の変化にあわせて制度を見直すべきですが、すでに住宅手当を受けている人にとって、いきなり住宅手当がなくなると言われれば反対せざるを得ないでしょう。このように、制度を見直すタイミングを逃し、受給者が偏ったまま、制度改定が先送りになるケースは少なくありません。​​​

スタートアップ企業は、成長・組織拡大する過程で、自社に集まる人材のバックグラウンドも多様化していきます。このような内部変化に加えて、社会の価値観の多様化にも目を向けて、自社の福利厚生制度が、本来の狙いの通りに運用できているか定期的にレビューする必要があります。​

​​まとめ​

​​福利厚生とは、新たな労働力確保や人材の定着、社員のモチベーションアップを目的として提供する、社会保障費の企業負担や住居手当、休暇制度などの総称です。福利厚生は一度制度を作れば終わりではなく、企業や社会の変化にあわせて見直しが必要となります。​

​​スタートアップ企業ではユニークな福利厚生を取り入れて、一目置かれる場面もありますが、「他の企業がやっていたから真似しよう」と安易に考えず、まずは自社の方針や従業員が求めるものに焦点を絞って戦略的に策定すべきでしょう。​


​​マーサージャパンでは、福利厚生をはじめとする人事制度策定のコンサルティングや運用支援を行っています。ぜひお気軽にお問合せください。​


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◇本記事はマーサージャパン公式のコンサルタントコラムをもとに再構成・執筆をしています。


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