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幸せにできなくても、子どもを持っていい?

 前に『しょぼ婚のすすめ』の読書感想文を書いた。このときは「結婚」にフォーカスしていたけど、本には子育ての話も載っているので、今日はその話をしたい。
 
 「子どもを持つのをためらう理由」に「幸せに育てられるかわからないから」というのが時々ある。「いまの日本の状況を思うと、子どもが将来いい生活ができる保証がない」って人もいるし「ちゃんと育てられるかどうか自信がない、お金がない」って人もいる。
 
 『しょぼ婚』にはこんな風に書かれていた。
 

子どもを産もうと考えているけれど、「こんな家庭状況(や、経済状況)では子どもを幸せにできないから」とか、「自分がしてもらっただけのことを子どもにしてあげられるかわからない」などと言って産むのもためらうのは、本当にもったいない話です。

(中略)

 あなたがどんなに「こんな環境では子どもがかわいそう」と思っても子どもはたくましく、幸せに育つかもしれない。「この世は辛く悲しいところだから、この子は生まれてきたら不幸だ」と決めるのはやめましょう。

 すでにそういう決断をしてしまったことのある人は、あまり自分を責めず、今後はそう考えないようにしましょう。

えらいてんちょう『しょぼ婚のすすめ 恋人と結婚してはいけません!』KKベストセラーズ、2019年、90~91頁。


 親という存在はとても影響力の大きいものではあるのですが、同時に、子どもにとって親は世界の一隣人にすぎないというのも事実です。たとえばアパートの隣に住んでいる人のところに訪ねて行って、「こんにちは、あなた生まれてこないほうが良かったですね」と言ったらブン殴られるのではないでしょうか。

 子どもが幸せかどうか、生まれてきて良かったかどうかを親の価値観で勝手に決めるというのはこれと同じ構図であり、逆説的に、子どもに対して親は絶対的な支配権を有するという考え方の表れです。

 とんでもなく高慢な話ですよね。生まれてきて良かったかどうかは、子どもが自身の人生を懸命に生きた結果、最後にその人生を幸せだと思えばそれでいいのです。

同上、91頁。


 はい。
 
 確かに「子どもを幸せにしてあげられるかわからない」って、怖いセリフなのだ。なんで親が、子どもの幸不幸を握っている前提なのか。もちろん、最低限の衣食住を提供するなどの親の役目はあるけど、その子が幸せかどうかまで支配できるなんてことはない。
 
 たぶんこの手のセリフを言う人は、「幸福とはなにか」が自分の中でガチガチに定義されているんだろう。だから、そのガチガチに決まった「幸せ」が子どもに与えられないと、その子が不幸になると思ってる。
 
 でも、親と子どもは別ものだ。別の価値観を持っている。そしてたくさんの人と出会い、影響を受けて育っていく。親の存在はなるほど大きいが、それでも人生における登場人物の一人や二人に過ぎない。
 
 父親も母親も、子どもの人生すべてをどうにかできるほど強い存在じゃない。「幸せにしてあげられるかわからない」っていうのは、「自分が子どもをコントロールできる」と思ってないと言えないセリフだろう。
 
 自分が影響を受けた人を考えてみる。確かに母の存在は大きい。物事のベースとなる考え方は、どうしたって親に似る。でも一方で、父や母とまったく同じ価値観を持っているわけでもない。結婚すれば、夫になった人から受ける影響のほうが大きい。
 
 習い事の先生や大学の教授や、通っているうちに仲良くなったお店の人とか、いろんな人が自分の価値観をつくっている。SNSを通じて拾った影響もあれば、学校の友達から新しい考えを教わるときもある。大きくなるにつれて、親の存在感は薄くなっていく。
 
 『しょぼ婚』では、これが書かれた章の最後をこう結んでいる。
 

子どもを産むかどうか考えるときに親の環境を考慮するのはやめましょう。いまあなたの環境でできるベストを子どもに与えてあげればそれでよい、ということです。

同上、93頁。


 また、最後に設けられたQ&Aのコーナーでは、こんな質疑応答も。
 

Q1 30歳無職男性です。付き合っている人はいるのですが、私も相手も体が弱く、私は心の病を抱えて会社を辞めてしまい、相手もフルタイムでは働けない状況です。結婚、子育てするのは経済的に厳しいでしょうか。
 
A1 堂々と公的扶助を受け、結婚、子育てしていきましょう。(えらてん)
 
 何の問題もありません。そういう人のために生活保護などの公的扶助が存在します。障害によって生活が困難になった人には障害年金という制度もあります。

 (中略)

 生活保護をもらうのは恥だ、という考えの人もいるようですが、少子高齢化の世の中で、結婚して子どもを育てるということは、社会的に最も優先されるべきことのひとつです。 

 高収入な独身貴族は納税などで社会的義務を果たしていますが、収入がないなりに子どもを育てて次の世代につなぐというのは、独身貴族がやっていない社会的責務を果たしているということですから、何も恥じることはありません。みんながお互いに自分のできることで社会に貢献していけばよいのです。

同上、198~200頁。
※文中の(えらてん)は、著者である「えらいてんちょう」の略。


 みんなが、できることで社会に貢献していけばいい。そうですね。
 
 『しょぼ婚』の感想文は、記事を出してしばらく経ったあともわりと読まれている。結婚というテーマは関心が高いんだろうか。子育てについても一家言ある本なので、気になる人は読んでみてもいいかも。


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