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我々は言語で思考する。「中動態」的思考の復権に向けて~國分功一郎「中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) 」(医学書院)
これは先日読んだ「<悪の凡庸さ>を問い直す」など複数の著作の中でこの「中動態」という概念とこの著作のことが出てきたので、「これは読んでみなければ」と私も読んでみたもの。非常に面白く示唆に富んだ優れた論考だった。著者は哲学者で現在東京大学大学院教授だが、この著作は医学書院の「シリーズ ケアをひらく」の一環として出版されている。あとがきによると、そもそもこの著作執筆のきっかけが著者の前作「暇と退屈の倫理学」を巡る講演会などでの医学研究者やアルコール・薬物依存症患者サポートに取り組
「凡庸なる悪」などではなかったアドルフ・アイヒマン~ベッティーナ・シュタングネト(香月恵理訳)「エルサレム〈以前〉のアイヒマン:大量殺戮者の平穏な生活」(みすず書房)
これは先日読んだ「〈悪の凡庸さ〉を問い直す」でさかんに引用・言及されていた著作で、私も興味が出て読んでみた。しかし何しろ注釈含めれば600ページを超える大著の研究書であり質・量共にずっしりと重い論考なので、10日程かけてじっくり読んだ。と言うか、本著と「格闘」した。ああしんど!! であった。 著者は1966年生まれのドイツの哲学者で、カントと根源悪についての研究が博士論文。この労作のタイトルは勿論、あのハンナ・アーレントがアイヒマン裁判を傍聴・供述記録などを読み込んだ上で出
植民地支配の記憶をどう承認・継承するか~大嶋えり子「旧植民地を記憶する:フランス政府による〈アルジェリアの記憶〉の承認をめぐる政治 」(吉田書店)
著者は現在慶應義塾大学経済学部准教授で、専門はフランス政治~特に移民、ポスト・コロニアル問題など。これは著者の早稲田大学大学院での博士論文を加筆修正の上で出版されたもの。この研究者のことはSNS上でたまたま知ったが、この研究成果は私の日頃の関心領域にまさに「ドンピシャ」だったので、非常に興味深く読んだ。そして大変いい勉強になった。 アルジェリアは1830年から1962年独立までの約130年間フランスによる植民地支配を受けたが、その歴史をどう受け止め評価し国家間相互でその認識
ある在日コリアン作家とその家族の貴重な「ファミリーヒストリー」~「密航のち洗濯:ときどき作家」(宋恵媛・望月優大:文・田川基成:写真)
先日発刊されたばかりの本著を、非常に深い感慨と共に読み終えた。これは在日朝鮮人文学研究者の宋恵媛氏・ライターの望月優大氏・写真家の田川基成氏三人の協働による第一級の「ファミリーヒストリー」と言っていいだろう。 在日コリアン作家:尹紫遠(ユン・ジャウォン)とその小説「38度線」のことは前に翻訳家:斎藤真理子さんのウェブ連載で知ったが、1911年と日本の植民地支配が始まってすぐの頃に生まれたこの人は私の祖父母とも同世代。12歳の時に渡日したのが朝鮮総督府による「土地調査事業」で先
一人の在日コリアン言論人の軌跡と思索の変遷:新しい普遍性へ~「徐京植:回想と対話」(高文研:早尾貴紀・李杏理・戸邊秀明編)
これは昨年12月に72歳で急逝した徐京植氏が長年教えて来た東京経済大学を定年退官するにあたり、同僚研究者たちが編んだもの。氏の最終講義・シンポジウム・座談会・対談など豊富な内容で、徐氏以外の論者による「徐京植評論」も様々含めている。 1951年生まれと私より10歳ほど上の徐氏だが、私は1990代後半~2000年代初頭にかけての主に歴史認識問題、特に従軍慰安婦問題に関する論考・論争を読んで以降は、最近の韓国ハンギョレ新聞に連載していたコラムを読むくらいで、全く氏の熱心な読者では
今こそ読むべきイスラエルの実態とユダヤ人の未来~シルヴァン・シペル『イスラエルvs.ユダヤ人:中東版「アパルトヘイト」とハイテク軍事産業 』
この10月7日のパレスチナ組織ハマースによるイスラエル奇襲以来続く、同国によるパレスチナ人大量虐殺の中、昨年翻訳版が日本でも出たこの著作は、イスラエルという国の実態と世界のユダヤ人たちのそれへの態度・対応を考えるのに、非常に参考になる良著であった。 著者はユダヤ系フランス人で、仏大手紙「ル・モンド」の記者としてNY特派員・国際報道部副部長・副編集長などを歴任後、現在はフリージャーナリスト。また、若い時期には青年団活動やエルサレム大学留学などで約12年間イスラエルでも暮らしてい
東西両地域の比較対照で見えてくる様々な課題~「植民地化・脱植民地化の比較史:フランス‐アルジェリアと日本‐朝鮮関係を中心に」
これは2015年から始められた、日本(在日コリアン含む)・韓国・フランス・アルジェリアの様々な専門分野の研究者が集い学際的共同研究を行ってきた成果をまとめたものである。比較研究という意味ではまだまだ志半ばといったところなんだろうが、現時点で優秀な研究者たちの論考をまとめた著作を読めるのは、私のような研究者でもない一般人にも非常にありがたい。ここでの計11名による論考についてその全てに言及するのは私の手に余るので、この中で特に印象に残った論考について、簡潔にまとめると共にそこで
鄭炳浩(チョン・ビョンホ)「人類学者がのぞいた北朝鮮: 苦難と微笑の国」~北朝鮮とは一体何なのか?・・・ひとつの貴重な考察と体験
これは今年10月に出版されたばかりの著作だが、一部界隈では話題になっていた。著者は韓国ソウルで生まれ育った文化人類学者で元韓国文化人類学会長、現在は漢陽大学名誉教授。研究生活と共に、若い頃から貧困児童などの教育支援に取り組み、90年代からは所謂「脱北者青少年」の育成支援や北朝鮮への食糧支援など幅広く人道支援活動に力を注いできた、言わば「実践的研究者」である。 これは著者の専門的学術研究書ではなく、長きにわたる北朝鮮との関わりの中で見えて来たこの国の「本当の実状」や「その裏に